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ノリ「あいつはマジで“ヤバい”」横山武史はダービーで頂点まで届くか?

盛り上がりを見せる2023年のクラシック戦線


私の記憶が間違いではなければ、春先まで今年の牡馬クラシック世代は低レベルだと言われていたはずだ。
「スター不在」そんな言葉が飛び交っていたように思う。

それがどうだ。

混戦模様だった皐月賞で豪脚を繰り出しソールオリエンスが勝利。
4角後方17番手から他馬をゴボウ抜きした末脚は、ライバルが止まって見えるほどだった。

さらに直線の伸びる東京競馬場でソールオリエンスがどんな走りを見せてくれるか、他の有力勢には逆転の見込みはあるのか、そんな話題を中心にダービーウィークを迎えている。

横山武史 24歳での戴冠なるか 関東騎手の苦戦


注目を集めるソールオリエンスの馬上に跨るのは、もちろん若武者横山武史だが、彼がダービーに勝てば、関東所属騎手としての快挙を達成することになる。

とにかく関東騎手はダービーで勝てていないのだ。

ここ二十年で関東の騎手でダービーを勝ったのはわずか二人。内田博幸と横山典弘しかいない。
関東所属騎手、とりわけ若手騎手にとっては受難の時代だった。

慣れた舞台であるはずの東京競馬場で開催されるダービーで、なかなか勝てず、騎乗機会さえなかなかまわってこない。
そこには手強いライバルの存在があった。

安藤勝己、内田博幸、岩田康誠ら地方からの移籍組はすんなりとダービー制覇を成し遂げ、ご存知のように武豊が6勝、福永祐一が3勝、四位洋文、M. デムーロ、横山典弘がそれぞれ2勝と、なかなか他の騎手の入り込む余地がなかった。

こうした状況の中で、蛯名正義、柴田善臣、田中勝春、後藤浩輝ら関東の有力ジョッキーはダービーを勝てなかった。

蛯名正義(2012年フェノーメノ2着、2014年イスラボニータ2着)
柴田善臣(2006年アドマイヤメイン2着)
田中勝春(2000年トーホウシデン4着)
後藤浩輝(2010年ローズキングダム2着)

中でも蛯名正義は2着、3着、5着が2回ずつ、4着が3回と何度も頂点に手が届きそうなところまで行ったが、ついにダービー制覇はならなかった。(蛯名正義は2022年引退、調教師となった)

では、関東所属の20代若手ジョッキーのダービー制覇となると、いつまで遡るのか。
これが、なかなか出て来ない。

2009年父横山典弘がロジユニヴァースで初制覇を飾ったときには41歳。
1997年サニーブライアンの逃走劇のとき、大西直宏は35歳。
1987年メリーナイスの勝利のとき、根本康広は31歳だった。

なんと20代・関東所属騎手のダービー制覇は1985年(昭和60年)、シリウスシンボリに騎乗した加藤和宏のときまで遡るのだ。

1990年代以降日本競馬は「西高東低」の状態が長く続き、関西・栗東トレーニングセンター所属の馬が圧倒的に強く、関東・美浦の馬は苦戦を強いられ続けた。
その傾向は騎手においても現れているのだということが如実にわかる。

関東の若手騎手には、なかなかチャンスが巡ってこなかったのだ。


「あいつはマジで“ヤバい”」父、横山典弘の言


横山武史は、このジンクスを打ち破ることが出来るか。
じつは横山武史の才能については、かなり古い記事に言及がある。

2016年11月のデイリースポーツの記事である。記事内で、昨年(2015年4月22日)の話だと書かれている。

取材中、厩舎内で急遽始まった酒盛り。
横山典弘はいつになく上機嫌だった。

ビールの空き缶が積み上がり、だんだんとろれつが回らなくなってくる。ただ、競馬学校に在籍している三男の話題になると、急に真面目な顔つきに戻ってこう言ったのだ。

「あいつはマジで“ヤバい”から覚えとけ。恐らく、相当なもんになる」

当時まだ16歳で競馬学校在学中だった三男武史に対するこのコメント。

親父がここまで息子の才能を買う、というだけでも異例のことだが、横山典弘はかなり早い段階で息子の才能を見抜いていたことになる。

そして2017年にデビューした横山武史は順調にそのキャリアを積み上げてきた。
2020・2021年関東リーディングを獲得し、すでにGⅠ6勝を挙げて一流ジョッキーへと近づいている。

この状況下で横山武史がダービーを勝ってしまうと、38年ぶりの関東所属20代での制覇。
まさしく「ヤバい」事態となる。

武豊ナリタタイシンで3着になり「いつかダービーを獲れそうだ」と思ったのが24歳のとき。
ダンスインザダークでフサイチコンコルドの急襲に遭って負けたのが27歳。
スペシャルウィークでついにダービージョッキーとなったときには29歳になっていた。
早くから「天才」と騒がれ、競馬界を超えたスーパースターだった武豊でさえ、これだけの時間がかかった。

横山武史は現在まだ24歳。

だが、彼には2021年にエフフォーリアで2着に敗れた経験がある。
その時の悔しさは、今でも時折フラッシュバックするほどのものであるという。
だが、あまりにも早く、彼にはリベンジの機会が巡ってきた。

もし彼が今年、断然の一番人気に応えてダービーに勝つようなことがあれば、数十年ぶりに関東に正真正銘のスタージョッキーが誕生する。そのことは疑いようがないだろう。

ダービージョッキーの栄冠は、すぐそこまで近づいている。


後記 余談


毎年恒例のNumberの日本ダービー特集号。
横山武史とソールオリエンスの厩舎関係者へのインタビューが巻頭特集だが、個人的にとくに目についた情報を2点だけ、ここに挙げておく。

・熊沢重文はダービー騎乗機会一度もなし

横山典弘と同期で騎手生活38年目の熊沢はGⅠを4勝しているにも関わらず日本ダービーには一度も乗ったことがない。

・三宅正治はダンスインザダーク−フサイチコンコルドの馬連を1点で当てていた

「音速の末脚が炸裂する!」の名文句で知られる96年日本ダービー。実況を担当したフジテレビ三宅正治アナは一点買いで的中。

以上です。

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