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「ゲーム実況」は一時的UXを見せる形の新しいエンタメだというはなし

今回も「ゲーム実況を見る」というUXについて取り上げます。
前回の記事の続き、私が「ゲーム実況を見る」という体験は、世の中の他の製品・サービスの利用体験の中でも、かなり珍しい体験と言えるのでは?と考えている部分を書いてみます。前回の記事は以下からどうぞ。

「他人の一時的UXを見て楽しむ」ということの珍しさ

最初にいきなり答えを書いてしまいますが、「ゲーム実況を見る」という体験は「他人の一時的UXを見て楽しむ」という点で、他の娯楽にはない新しいタイプの娯楽だと言えます。

製品やサービスにまつわる様々な体験のうち「利用している最中の体験」のことを一時的UX(momentary UX)と呼びます。「一時的」という言葉は和訳の都合でちょっと違和感がありますが「瞬間的」の方が伝わりやすいかも。

UXの期間による4つの分類(再掲)

「他の人が製品・サービスを利用している瞬間を見る」というのは、実はとても珍しいことなのです。珍しいがゆえにエンタメとして成立している、という部分もあるかも。
ちょっと注釈を入れておくと、ゲーム実況にもいろいろと種類があり分類ができると思いますが、このうち特に「初見プレイ」の場合が他人の一時的UXを見て楽しむ」という楽しみ方に該当すると思います。

  • 初見プレイ
    実況者が初めて遊ぶゲームを対象にした実況

  • 対戦プレイ
    FPS・格闘・ポケモンバトルなどPvP/PoEの要素があるゲームを対象にした実況

  • 挑戦・解説プレイ
    実況者が既プレイのゲームを対象にした、縛りプレイやRTAなど高難易度の遊び方を魅せる実況

ゲーム以外だと、映像コンテンツを同時に視聴してリアクションを共有できる「ウォッチパーティ」とか、製品を初めて利用する様子を見せる「開封動画」などは一時的UXを見せることをコンテンツとしたエンタメと言えると思います。
少し前に「読書経験が無い人が『走れメロス』を読む」というオモコロの記事が話題になっていましたが、あれも言ってみれば「読書実況」のような形で、一時的UXをコンテンツにしていたと言えると思います。

「ユーザー自らが製品・サービスを利用して楽しむ」というエンタメは大昔からたくさんあったと思いますが「『他人がユーザーとなり製品・サービスを利用している様子』を外から見て楽しむ」というのは、世の中の技術の進歩により実現できた新しいエンタメで、今後も色々と可能性があるんじゃないかな。
少し前ですが、将棋のプロ棋士に心拍計をつけて緊張の度合いを可視化できるようにするという試みもありました。これも他人の一時的UXを見て楽しむ手法の一つと言えそうです

メーカーは製品開発の中で「実況プレイ」をしている?

ここまで「実況プレイ」のエンタメとしての珍しさを書いてきましたが、UXデザインの観点でも『ユーザーが製品・サービスを利用している様子を見る』ことはとても貴重であり、製品開発の中で「実況プレイ」と近いことを実施している企業はたくさんあります。これはゲームに限らず、世の中のありとあらゆる製品・サービスに共通して言えることです。

「ユーザビリティ」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?よく「使いやすさ」と雑に訳されたりもしますが、製品・サービスがもつ「きちんと正しく、効率的に、満足感をもって利用できるか」の度合いを指します。
例えば「はじめて使う人でも説明書を読まなくても迷わず利用できる製品」はユーザビリティが高い、「何回使っても使い方が分かりにくくミスしてしまう製品」はユーザビリティが低い、というようにこの言葉は使われます。

ユーザビリティが高い製品・サービスの方が、使う側のユーザーとしてはうれしく、当然評価も高くなるので、メーカーとしては自社の製品・サービスのユーザビリティを高める取り組みをしています。
「ユーザビリティ評価」もその取り組みのひとつで、製品・サービスをリリースする前に、いろいろな手法を活用してユーザビリティ上の問題が無いかを確認・改善しています。
そんなユーザビリティ評価の手法の中に「思考発話法を用いたユーザビリティテスト」というものがあります。思考発話法(think aloud)とは、頭の中に思ったことをすべて素直にそのまま口に出す、ということ。
ユーザーとなりそうな人を協力者として連れてきて、実際の製品・サービスやプロトタイプを使用してもらい、頭の中に思ったことをすべてしゃべってもらうのです。これはほぼ実況プレイとやっていることは同じです。

わざわざそんなことしなくても、アンケート調査でもいいんじゃない?と思われるかもしれないですが、アンケート調査は製品・サービスの利用後の感想、いわゆる「エピソード的UX」や「累積的UX」しか得ることが出きません。前回の記事も書いた通り、ピーク・エンドの法則があり、特に印象に残った部分や、最終的な印象に引っ張られた情報しか得ることができないのです。

製品・サービスのユーザビリティを向上させるために、企業はお金と時間をかけて実況プレイと似たようなことをしているわけで…ゲームメーカーの方は実況プレイ動画を見てユーザビリティ改善のヒントをもらったりすることもあるのでしょうか?
「家電の初見使用実況」とか「新発売の冷凍食品の初見調理実況」などがあったら、エンタメとして面白いかはさておき、企業としては参考になる部分は多いかもしれないですね。
(ユーザビリティが悪い製品だったら、ボロクソに言われてバッドプロモーションになってしまうけど)

個人的には「確定申告初見実況プレイ」とか、ややこしい公的システムを誰かに思考発話してほしい。エンタメとしてもおもしろそうだし、エラい人に見てユーザビリティを高めてもらいたい…。

今回は以上です。ありがとうございました!

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