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Slipknotとヒップホップとジャングル / Sid Wilson a.k.a. DJ Starscreamのソロワーク

2022年に3年振りとなるアルバム『The End, So Far』を発表し、4月には来日を控えたメタルバンドSlipknot。1999年に発表されたデビューアルバム『Slipknot』は自分にとっても凄まじく衝撃的で発売から24年が経過する今もずっと聴き続けている。『Slipknot』にはデスメタル、グラインドコア、アヴァンギャルド・ロック的な要素が随所で垣間見え、アルバム全体に悪趣味な地下メタルの匂いが充満しており、危ういバランスで保たれたエクストリームながらもキャッチーな曲は革命的であった。初来日時にMelt-BananaとMasonnaがオープニング・アクトを務めていたのも納得出来るアングラ感の強いバンドであった。

2001年に発表された2ndアルバム『Iowa』は全体的に重みが増し、なんとも突き抜けられない鬱々とした荒んだ世界観が妙に魅力的で、これも個人的なオールタイムフェイバリットである。以降、アルバムが発売されるたびにチェックはしているが、個人的には1stと2ndが特に気に入っている。

ここ数年でSlipknotを取り巻く状況に変化が起きているように見えて興味深い。Code Orangeを筆頭とした新世代メタル・バンドとの交流によってお互いのファンを共有し、『The End, So Far』ではモダンなニューメタルのフィーリングも上手く活かしていた。現行メタル・シーンの最前で活躍するバンド達からのリスペクトを集め、Slipknotはその地位を確かなものにしていたが、ヒップホップとの意外な関係性が表面化しており、Slipknotの異端性を再評価する流れが起きている。

City MorgueやHo99o9といったヒップホップ・アーティスト達がインタビューでSlipknotをフェイバリットに挙げており、自身の音楽にSlipknotからの影響を反映させている。他にも、XXXTENTACION & Ski Mask the Slump God「Off the Wall!」、Ho99o9「Mega City Nine (Unknown Virus 4.)」、Scarlxrd「Lies Yxu Tell」、Ski Mask the Slump God「PSYCHO」などで、Slipknotの曲がサンプリングされており、彼等のようなアグレッシブなラッパー達にインスピレーションを与えたバンドとして、所謂トラップメタルが発展する過程においてもSlipknotの存在は見逃せなくなった。

2012年から開催されているSlipknot主催フェスティバルKnotfestにはGhostface Killah、Mobb Deep、Pitbull、Cypress Hill、Ho99o9、$uicideboy$、Tech N9neといったヒップホップ・アクトも出演。SlipknotのボーカルCorey TaylorはTech N9ne、Ho99o9とのコラボレーションを行い、自身の曲にもTech N9neとKid Bookieを招いた「CMFT Must Be Stopped」を披露。積極的にヒップホップとのクロスオーバーを行っている。

Slipknot、Cypress Hill & Ho99o9

Slipknotとヒップホップとの関係性において重要なのがターンテーブル担当の#0ことSid Wilsonの存在だろう。『Slipknot』において切れ味の鋭いスクラッチを披露しており、Ice CubeやInvisibl Skratch Piklzなどのヒップホップ関係のレコードが素材として使われていた。

SID名義でのソロ作品ではヒップホップにフォーカスし、ラップを披露している。また、Schoolly D featuring Ice-T「The Real Hardcore」ではスクラッチを担当し、Ras Kassのアルバム『I'm Not Clearing Shxt』にはプロデューサーとして参加。ポスト・ハードコア・バンドYou Only Live OnceのボーカルStephanie SansonのソロプロジェクトLucifenaとのコラボレーションではダークでヘヴィーなトラップメタルを作り上げている。

さらに興味深いのは、一部の好き者以外には余り知られていないが、Sid WilsonはRaveシーンからの影響を受けているバックグラウンドがあり、ジャングル/ドラムンベースのDJとしてのキャリアがあることだ。
アメリカのRaveシーンに深く入り込み、そこでDJを学んだと本人がインタビューで語っており、90年代末にはDJ Starscream名義でジャングルのミックス・テープを残している。

ジャングルのDJとしての活動はSlipknotにも反映されており、『Slipknot』に収録されている「Eyeless」のイントロで使われているアーメン・ブレイクはThe Collective「Ease Yourself」であり、「Spit It Out」の中盤で差し込まれる不穏なベースラインはDJ StretchがリミックスしたGeneral Degree「Papa Lover Jungle (The Dark Mix)」といったジャングルのレコードがサンプリングされている。

Sid Wilsonは2003年にアメリカのハードコア・ジャングル・レーベルN2OからMix CD『Abunaii Sounds - Tataku On Your Atama』を発表。Capital J、B-Boy 3000(R.A.W./6Blocc)、DJ 3Dなどのジャングル・トラックをスムーズに繋ぎ合わせ、N2Oのハードコア・ジャングリズムを見事にパッケージングしてみせた。

2005年に発表されたMix CD『Sound Assault』はジャングルからハードコア・テクノ、ドラムンベースまでミックスし、クラブでのDJプレイを録音した『DJ Starscream Live At Konkrete Jungle New York City』にはShitmatのラガコアも使われていた。ハードなサウンドを軸とした選曲と高度なスキルを兼ねそろえたDJスタイルで2000年代のハードコア・ジャングル/ポスト・ラガジャングルのムーブメントをリードした。

DJ Starscreamとしてジャングルのレコードもリリースしており、N2OからGeneral Maliceがプロダクションをサポートした『Pulse of the Maggot』『Duality Remix / Pulse Of The Maggots Brutal』というSlipknotのリミックス・シングルや、アルバム『The New Leader』『This Is Full Metal Jungle Volume 1』を発表。さらに、Slipknotのアルバムで使われていたサンプルなどを纏めた『Full Metal Scratch-it』というバトル・ツールをN2Oから発表している。

アメリカのハードコア・テクノ/ガバの象徴的な人物であるRob Geeとのコラボレーションも並行して行い、一時期はRob Geeのバンドにメンバーとして参加していた。日本のバンド・シーンとの繋がりも強く、KYONO、Smorgas、Uzumakiとのコラボレーションやリミックスでジャングル・スタイルを披露しており、少し前にはスガシカオ、Man with a missionにリミックスを提供していた。

DJ Starscreamは2000年代のハードコア・ジャングルに非常に良い貢献をしたと個人的には思っているが、それについて語られることは少ない。DJ Starscreamがハードコア・ジャングルをプレイし、自身の音楽で表現したことによって、このジャンルにスポットライトが当たったのは間違いなく、一握りだけであったかもしれないが、ジャングルという音楽に興味を持ったキッズはいたのではないだろうか。

Slipknotの異端性を紐解く時、そこには様々な音楽との結びつきが見えるが、ジャングルとヒップホップも重要な部分を補っていると思える。Slipknotを中心として、世代やジャンル、カルチャーを超えたさらなるクロスオーバーが巻き起こることに期待したい。











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