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シュランツコア再燃なるか?

Murder ChannelからMiyuki Omuraのニューシングル『Born to Hardcore / Get Started』を先月発表した。オールドスクールでトラディショナルなガバ・サウンドをモダンなハードコア・スタイルと掛け合わせた「Born to Hardcore」、インダストリアル・ハードコアとシュランツにブレイクコアの要素も絶妙にミックスさせた「Get Started」の2曲を収録。有難いことに非常に良いフェードバックが得られており、ハードコア・ヘッズからDJ Bus Replacement Service、オカモトレイジ氏、Doormouseまで様々なジャンルのDJにサポートしていただけている。

Miyuki Omuraはインダストリアル・ハードコアを主軸としてUKハードコアの雑多性や反骨精神が反映された力強いトラックを作り出し、DJセットにおいてもインダストリアル・ハードコア~UKハードコアからドラムンベース、ハード・テクノ~シュランツをグルービーにミックスするスタイツを確立しており、その実力は耳の肥えたヘッズ達から支持されてる。
最新のDJミックスである「Born to Hardcore Mix」を聴けば、彼女の独創性とスキルがいかに特別であるのか体感できるだろう。

Miyuki Omuraの「Get Started」と「Born to Hardcore Mix」でフィーチャーされているインダストリアル・ハードコアとシュランツの融合であるシュランツコア的な手法は近年のハード・テクノとの相性も良いはずで、今後再び再燃する可能性がある。
シュランツコアについては、『ハードコア・テクノ・ガイドブック インダストリアル編』で触れており、そこでも再燃することを願っていたが、いよいよ実現しそうな気配を感じる。

2022年にTrippedが発表した1stアルバム『Unboxed』収録の「Shinjuku Heat」はシュランツとハードコア・テクノの理想的な混合が果たされた名曲でハードコア・シーンで去年は頻繁にプレイされていた。他にも、シュランツコアの土台を作り上げたプロデューサーとして知られるWaldhausが2009年にリリースした「Ad Vesperum」がインダストリアル・ハードコア・プロデューサーのAdamant Screamによって新たにリミックスされたトラックもリリースされ、日本のベースミュージック・プロデューサーsanmalは「Rude Mode」というハイブリッドなシュランツを生み出していた。

最初期シュランツコア

諸説あるようだが、ハード・テクノから派生したとされるシュランツは誕生したときからハードコア・テクノとの相性は良く、特にインダストリアル・ハードコアとはビートの密度と速度による圧迫感のあるグルーブ、ミニマルな構成などに類似点が見受けられる。
DJ PromoはRude Awakening名義でテクノにフォーカスしたトラックを2000年代中頃からクリエイトしていたが、インダストリアル・ハードコア独特の歪みが反映されたトラックはシュランツにかなり近いものがあった。Manu Le Malinもテクノ~インダストリアル・ハードコアの境目を無くすような活動をしていた為、彼のレーベルBloc 46にはシュランツと混ぜても違和感のないハードコア・トラックがある。

明確な意思を持ってシュランツとハードコア・テクノを掛け合わせたトラックを最初にリリースしたのはDJ TECHNORCHであったと思う。2007年に発表されたアルバム『BOSS ON PARADE 〜XXX meets GABBA〜』収録の「Schranz X」でシュランツコアを完成させているが、実はそれ以前からもシュランツをハードコア・テクノ化させたリミックスやマッシュアップをライブで2006年から披露していた。
DJ TECHNORCHが2007年に公開したDJミックス「BIBLE03 "Stereo Murder"」はハード・ダンス的な観点からインダストリアル・ハードコア~シュランツをミックスした革新的なミックスであった。

シュランツコア誕生

同時期、アメリカ出身のAmokはRude Awakening、StormtrooperとのコラボレーションEPでハードコア・テクノのバックボーンを活かしたハード・テクノ特化のEPを発表し、シュランツ・トラックも収録。AmokのレーベルArtilleryからはWaldhausのEPもリリースされており、ハードコアとシュランツ/ハード・テクノを結び付けた重要なレーベルだ。
2010年にTymon, Stormtrooper & Waldhaus名義で発表された『Menage A Trois』から本格的にインダストリアル・ハードコアとシュランツの邂逅が進み、Industrial Strength Recordsを拠点に興味深いハイブリッド・トラックが作り出されていった。

日本でも、DJ Chuckyが2011年から『Extremegasm』というシュランツとハードコア・テクノをミックスさせたEPシリーズを発表。このシリーズはシュランツを更に機能的にさせ、キャッチーでありながらもシリアスなフロアにも対応できるという画期的なトラックを収録した力作。インダストリアル・ハードコアのエッセンスは殆どないが、今聴いても素晴らしいクオリティとオリジナリティがある。

そして、2013年にIndustrial Strength RecordsからリリースされたAngelのEP『Dirty Thirty』に収録されていた「Industrial Schranz-Core 」でインダストリアル・ハードコアとシュランツの混合スタイルは一つの頂点を迎える。
2013年は世界的にクロスブリードが流行化し、以降数年はクロスブリードとそこから派生したインダストリアル・ハードコアが急成長し、テクノ派生のグルーブ重視なシュランツコアの出番は少なくなっていく。

これが個人的な視点でのシュランツコアの流れであるが、自分が知らないところでシュランツとインダストリアル・ハードコア/ハードコア・テクノを混合させていた人々がいたはずだ。
もし、シュランツコアが再燃すれば現行のハード・テクノとハードコア・テクノの溝を埋める役割を果たすような気がする。それが良いか悪いかは分からないが、今のテクノロジーと視点で作られるシュランツコアをもっと聴いてみたい。








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