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Twisted Steppersの裏側④

『Twisted Steppers』の背景についての記事もこれで最後。まだまだ記録しておきたい事や紹介したい作品は多いが、一旦ここで区切りをつけよう。

最後に取り上げるのは、Bo NingenのTaigen君が作ってくれた「Mediportion」が生まれた経緯について。「Mediportion」のトラックはMick Harrisが提供してくれた音素材をTaigen君が使い生まれたのだが、どうやってこの曲が作られたのかを記録する。

鬼才Mick Harrisについて
Mick HarrisといえばNapalm Deathのドラマーであり、グラインドコアの名付け親としても有名だ。Mick Harrsiが参加したNapalm Deathのアルバム『From Enslavement to Obliteration』や『Scum』、そしてライブアルバム『The Peel Sessions』は時代を超えてエクストリームな音楽を愛する人々に愛聴されている。
そして、Mick Harrisのメイン・プロジェクトであるSCORNは世界中に多くのフォロワーを生み、ハードコアな電子音楽の完成形と言える作品を多く残した。SCORNは当初、Napalm Death の創始者Nicholas Bullenとのユニットとして1991年に結成されたが、1995年以降はMick Harrisのソロプロジェクトとなる。Nicholas Bullen在籍時は、アンビエント、ダブにインダストリアルやストーナーロック、ドゥームメタル的な要素を掛け合わせ、バンドとしてのフォーマットで制作されていたが、Nicholas Bullen脱退後はヒップホップの要素が増していき、当時のイルビエント・ムーブメントとも共鳴した作品を生み出していく。
Mick HarrisがSCORNとしてのコアなサウンドと世界観を形にしたのは1994年作『Evanescence』からだと思われる。ダブのミニマルでサイケデリックな部分を電子音とブレイクビーツとミックスして、過剰出力する現在のSCORNのダークで歪んだスタイルの原型が出来上がっている。1995年にはリミックス・アルバム『Ellipsis』を発表。Meat Beat Manifesto、Coil、Bill Laswell、Autechreといった豪華面子が参加しており、SCORNのセルフ・リミックスも収録。
90年代初頭から早い段階で電子音楽をクリエイトしていたMick HarrisはSCORNと並行してM.J. HarrisやLullといった名義を使い分けながら多数の作品を残す。

ハードコア・ダブの構築
Mick Harrisの作り出したソロ作品を振り返った時、彼の音楽のコアなパートにはダブとハードコアがある。土地柄もあるのか、ダブとハードコアを融合させたスタイルはかなり昔からイギリスの音楽シーンの中に存在するが、その二つの本質的な部分を見逃さずに、独自の手法によってドロドロに溶け合わせているのがMick Harrisだ。
SCORNやFretのライブパフォーマンスを見れば解るが、音源だけではなく、ライブでもリアルタイムでヘヴィーなダブワイズをトラックに施しており、ダブはMick Harrisにとって非常に重要なものである。
Mick HarrisはTwitterで頻繁にハードコア・パンクについてポストしていたが、その中には日本のものが多く、彼は日本のハードコア・パンクについても詳しい。個人的にやり取りしていた時にも、80年代の日本のバンドについて色々と教えてくれた。何より、Mick Harrisの姿勢そのものがハードコア・パンク的でもある。

Mick Harrisが生み出したハードコア・ダブは2000年代のSCORNの作品で解りやすい形で作品となっているが、1stアルバム『Vae Solis』の時点でそれは表れていた。John ZornとBill LaswellとのバンドPainkillerとして発表したアルバム『Buried Secrets』でも、「Blackhole Dub」という曲で凄まじい緊張感と高揚感を同時に味わえる名曲を作っている。また、同アルバムに収録されている「Buried Secrets」ではGodfleshが参加しており、この曲も素晴らしい。
SCORNとしてのハードコア・ダブの傑作は2010年に発表されたアルバム『Refuse;Start Fires』。2007年に発表されたアルバム『Stealth』や Combat Recordingsからのシングルでダブステップにフォーカスしていたが、ダブステップとの出会いによって得た経験が上手く『Refuse;Start Fires』で反映されている。ビートとベースに対するアプローチが更にストイックになり、音数を減らし、一音一音が鋭く太くなった曲は圧死寸前の重さと低音の厚みがある。ドゥームよりも重く、ダブとサイケデリック/ストーナーロックよりも歪んだトリップ感があり、SCORNの歴史を一枚に凝縮した様でもあった。
2011年には続編的なEP『Yozza』も発表。Ian Treacyのドラムをフィーチャーした「Piper」は、Mick Harrisのハードコア・ダブをよりストレートに表現した名曲である。


インダストリアル・テクノに与えた影響
Mick Harrisについては、インダストリアル・テクノ・シーンとの関わりも見逃せない。
1995年にテクノ・プロジェクトFretをスタートさせ、翌年にはEddy Masvoodler名義でもテクノのレコードを制作。1997年にSurgeonの12"レコード『Basictonal-remake』にMick Harrisはリミックスを提供し、以降もSurgeonの『Balance Remakes』と『Force + Form Remakes』、Oliver Ho『Light And Dark Part Two』にリミックスを提供。さらに、Mick HarrisがSurgeonとRegisを引き合わせたとSurgeonがインタビューで発言しており、それもあって彼の名前は90年代のバーミンガム周辺のテクノ/インダストリアル・テクノでも重要視されている。
2017年にはFretを再開させ、アルバム『Over Depth』を発表。ヨーロッパを中心にライブも再開し、フェスティバルにも出演。Mick HarrisやSCORNを知らない層からもFretは支持され、L.I.E.S. Recordsからのシングル・リリースも行い、新たなリスナーを獲得した。

Mediportion制作に至るまで
2009年に100madoさんとベネズエラのPachekoのスプリット・アルバムをMurder Channelから発表したのだが、そこにSCORNのリミックスが収録されている。
100madoさんとPachekoのスプリットは彼等のオリジナル・トラックを5曲づつと、お互いのトラックをリミックスした2曲で構成していたが、どうせなら外部からのリミキサーも起用してもっと広げていこうという事になった。そこで、まずはスプリットのマスタリングも手掛けてくれたENA君にPachekoのリミックスを依頼。そして、ダメ元でMick Harrisにmyspaceからメッセージを送り、100madoさんのリミックスを依頼してみたらなんと引き受けて貰えた。そして、生まれたのが「Red Line (Remix By Scorn)」である。データでの納品ではなく、バーミンガムからわざわざCD-Rでマスターが届き、PCに取り込んで再生した時の衝撃はずっと忘れないだろう。それまでに聴いていたSCORNよりも重くダークで、これは人を殺せる音楽だと思った。


2013年にDevilmanのアルバムをリリースするのだが、Devilmanでボーカルを担当してたTaigen君もSCORNを気に入っていて、彼は自分と似た様な音楽のビジョンがあったのもあり、Mick HarrisとTaigen君のコラボレーションが実現出来たらかなり凄いのが出来ると思った。それと、Taigen君のボーカルが本当に大好きだったので、もっと色々なサウンドで彼のボーカルを聴いてみたいというのも始まりであった。Devilmanでの叫ぶスタイルも素晴らしいが、Bo Ningenでの歌うスタイルも本当にオリジナルで、Taigen君のボーカルは自分にとっても特別なものになっていた。
その少し前、Mick Harrisがボーカリストやラッパーとのコラボレーションに興味があるという事を言っていたのもあり、DevilmanやBo Ningenの音源を聴いて貰い、コラボレーションを進めて行く事になった。だが、その時Mick Harrsiは音楽活動を休止しようとしていた瞬間であったので、新しくトラックを作るというのが難しい時期であった。そこで、SCORNとして制作した門外不出の秘伝のサンプル・パックを特別に提供して貰い、そのサンプル・パックを使ってTaigen君が作ったのが「Mediportion」になった。

完成したのが2014年で、そこから紆余曲折あり、最終的に今年2月に遂に発表出来た。こんなに長くお待たせしてしまうとは。。本当にすみません。。
言い訳ではないが、この曲は現代的なサウンドとムードがあり、今聴いてもまったく違和感がない。それは全曲に対して言えることだが、特に「Mediportion」には不思議な魅力がある。是非一度聴いてみて欲しい。






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