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Doormouse再興

自主レーベルDistort Recordsの運営やレコード・ショップ経営、音楽雑誌などでのライター業を通じてアメリカにブレイクコアを広め、USブレイクコア・シーンの土台を作り上げたDan MartinことDoormouseが近年再び勢いを増している。

今年はヨーロッパ・ツアーを行い、BangFace、PRSPCT、Breakcore Gives Me Woodに出演し、各地で大反響を巻き起こしていた。ヨーロッパ・ツアーで披露していたDoormouseのライブ・セットが幾つかオフィシャルで公開されているのだが、どのセットもハードコアを中心にブレイクコアやドラムンベース、エレクトロ、テクノなど、多種多様な音楽をひたすら重ねまくってミックスする往年のブレイクコア・マインドは健在であった。

さらに、Hellfishとのコラボレーション・プロジェクトFishmouseも始動。現行のブレイクコア/ハードコア・シーンとの波長が非常にマッチしており、新規のファンを多く獲得していると思う。

エクストリームなハードコアをリリースしていたNYのDigitalhut Soundsから1996年に『414 Tracks』という12"レコードを発表して本格的に活動を始めたDoormouse。数枚の12"レコードをDigitalhut Soundsから発表した後、1998年にDistort Recordsを始動。活動初期から幅広い音楽要素をハードコアとミックスしており、ブレイクコアの原型といえる曲を残していた。

2000年代に突入してからブレイクコアに特化した活動を進めて行き、Distort RecordsのサブレーベルAddict Recordsから多数のブレイクコア・クラシックを発表。Planet-Muからのアルバム・リリースも話題となり、ブレイクコアのアイコン的な存在の一人となる。

だが、2000年中頃に突如として活動を休止。過去の作品をデジタル化させたアーカイブ・シリーズの販売や、限定的にフェスティバルに出演はしていたが、新作音源が発表されることはなく、アメリカでのライブ活動も行っていなかった。

約10年程の活動休止期間を経て、2016年に盟友Anonymousをドラムに迎え、アメリカにてライブを披露。それに合わせてDJミックスも公開し、徐々に音楽活動を再開させていった。
2018年にはオランダで開催されたBong-Ra主催のRVLT Festivalに出演。ハードコア周辺にもDoormouseのファンは多く、PRSPCTのアーティストも何人かRVLTに駆けつけて、Doormouseとの交流をSNSでシェアしていた。

2018年にはDorrmouse & Otto Von Schirachとしてシングル『Breakcore Beefcakes』で音楽制作を復帰させ、翌年には10数年振りとなった12"レコード『Millions Of Dead Wrestlers』をAddict Recordsから発表。『Millions Of Dead Wrestlers』は、Doormouseのブレイクコア・スタイル/メンタリティがアップデートされた完璧な復帰作として、往年のファンを歓喜させた。

以降、Otto Von Schirachとのコラボレーション・シングル『New Kids On The Rock』、End.UserのレーベルSonicterror RecordingsからThe DJ Producerとのスプリット・シングルを発表する。

2020年、パンデミックの真っ只中であったがDoormouseは活発に活動していた。
インダストリアル・ハードコアなどのアグレッシブなハードコアをリリースするMotormouth Recordzから3曲入りのEP『Spring Break Forever』を発表し、HIGH FIVE THE BIRTHDAY BOYのリミックス・アルバムにも参加。

PRSPCT radioでのDoormouse Showが始まり、オンラインで定期的にパフォーマンスを披露。Oblivion Underground RecordingsのYouTubeにも出演するなど、新旧世代のブレイクコア/ハードコア・アーティスト達と繋がっていた。

新しい音源のリリースに加えて、過去の名盤の再発も進める。2004年にAddict Recordsから発表されたVenetian Snaresとの名盤スプリット『Skelechairs』や、Distort Recordsの再発を行い、時代性に惑わされない素晴らしいブレイクコアを新規のファンに届けていた。

Doormouseがブレイクコアに与えた最も大きな影響の一つに、ハードコアとジャングルをベースとしたマッシブなグルーブ感がある。
ガバキックを4x4で鳴らすのではなく、アクセント的に使い、メインのブレイクビーツを支えつつも大きなインパクトを残し、全体のグルーブの強化に繋げるガバキックの使い方をしていた。同じ手法を殆ど同時期にDJ Scudも行っていたが、Doormouseはよりグルーブがあると思える。

名曲「Skelechairs」が代表的であるが、アグレッシブでありながらもファンキーさがある鬼のハメ技が異常に上手い。このハメのビート・パターンとグルーブ感はもう本当に素晴らしく、DJプレイにおいて幾らでも遊びたおせる究極の武器と言える。ストレートな4x4ハードコアの影響下にあるDoormouseが発明したといっても過言ではないガバキックの使い方は革命的であり、この手法に影響を受けているブレイクコア・アーティストは多いはずだ。

ガバキックの使い方だけではなく、ブレイクビーツの使い方も天才的で、Doormouseの異常なリズム感には本当に驚かされる。

さらに、ジャズとファンクのフィーリングを感じらせるブレイクコアも一級品である。リズム感と同じく、プログラミングの技術もずば抜けていた。幅広い音楽の知識が反映されているのが分り、それによってブレイクコア以外のリスナーを引き付けられたのだろう。

現在のハードコア回帰したDoormouseも良いが、ブレイクビーツをメインとしたファンキーでストレンジなブレイクコアにも期待したい。

今後はPRSPCTからのEPリリースを控えているらしく、ヨーロッパ・ツアーを得て進化したDoormouseのスタイルが楽しめそうだ。

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