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Tripped『Unboxed』発売記念インタビュー

今年7月にPRSPCTから満を持して発表されたTrippedの1st LP『Unboxed』に関するインタビューを公開。

発売から結構な時間が経過してしまったが、現代の恐ろしいまでの消費スピードに飲み込まれることなく『Unboxed』の衝撃と輝きは世界中に轟いている。Trippedのアーティスト性が強く反映されており、1曲1曲に魂が込められているのを感じられ、ダンスミュージックとしての完成度も完璧と言い切れる。特に収録曲「Shinjuku Heat」はハードコア系のミックスで頻繁に使われており、2022年を代表する1曲ともなった。

今回公開するインタビューでは『Unboxed』が生まれた背景から使用機材、曲に込められた想いなどをTrippedが語ってくれた。まだ『Unboxed』を聴いていない方は是非ともチェックして頂きたい。ハードコア・テクノに限らず、ダンスミュージックに少しでも興味があれば何か刺さるものがあるはずだ。

去年出版した『ハードコア・テクノ・ガイドブック インダストリアル編』では、Trippedの音楽的ルーツからホームタウン、自主レーベルの立ち上げやアップテンポ、インダストリアル・ハードコアなどに関して聞いてるので、興味が沸いた方はこちらもチェックして欲しい。

Rebelscum やPRSPCT XTRM といった人気のハードコア・レーベルから、Scuderia やToxic Waste Buried などのテクノ・レーベルからも作品を発表し、ベルギーを拠点にシーンを飛び越えてボーダレスに活躍するFrancis Jaques によるソロプロジェクト。

2007 年にフランスのB2K Records からデビュー作『The Fear Syndrome EP』を発表。Pattern J とMoleculez とのスプリットや名門ハードコア・レーベルStrike Records からシングルをリリースし、確かな実力と個性を武器に頭角を現す。2009 年には自身がオーナーを勤めるレーベルBadBack Records をスタートさせ、Subversa やRaw State の作品を発表。インダストリアル・ハードコアにテラーコアやUK ハードコア、そしてアシッド・テクノやオールドスクール・ハードコアをミックスしたエクストリームでダンサブルな作風で人気を得ていく。
その後も、Angerfist やThe Speed Freak へのリミックス提供、Motormouth Recordz、Industrial Strength Records からのリリースでハードコア・シーンには欠かせない人気アーティストへとなっていった。

[KRTM] と共に運営しているMadBack Records は彼等の作品を中心に、14Anger、Dep Affect、Synaptic Memories などのアーティストをリリースしており、各方面から支持を集めている。TrippedとMadBack Records は、枠に囚われない自由で新しい作品のリリースでハードコア・テクノの可能性を
広げている重要な存在である。

Q. 『Unboxed』の制作はいつ頃から始まったのでしょうか?このアルバムはTrippedとしての1stアルバムになりますが、アルバムを作るというアイディアはどのようにして生まれたのですか?

これについては山ほど話したいことがあるんだ。まず、2020年12月頃から作曲を始めて、半年少しで制作が完成した。これは勿論、パンデミックで世界中がロックダウンになってた頃だから、時間を持て余していたんだ。

アルバムのコンセプトは、アーティストとしての自分自身を「UNBOX」する(箱から出す、開封する)という意味。アーティストに対して自分勝手なイメージを押し付けたがる人がいて、自分の好みでそのアーティストがどういった作品を作るべきだとか、過去の作品を踏襲したものを求めたりする。だからこのアルバムでそういう縛りを一度全て破壊したいと思ったんだ。

僕は様々な音楽からインスピレーションを得ることが非常に大切だと思っている。昔からどんなスタイルであっても、それにとってぴったりの「時と場所」があると感じているから、一つのジャンルの音楽だけを聴いたり、制作するということはやらなかった。長期的に興味や面白みを継続するためには、本当に大事なことだと思う。今も「自分の型に当てはまらないものは良くない」といった、偏狭な考え方の人が多いなって感じることがある。

ハードコア・シーンに長く関わっていると、他のスタイルの音楽をやり出すことよって、反感を喰らうことが多いんだ。悲しいけどね。うん。だから、アルバムの題名のもう一つのメッセージは、聴く人に自分自身をリスナーとして「UNBOX」してほしいということかな。

実は、数年前まではアルバムを制作したいという意欲はあまり無くて、むしろ年間で複数のEPをリリースした方が、テンポ良く新曲を出し続けられるし、長期間沈黙してしまうという事態を避けられると考えていたんだ。
それに、フロア向けの曲ばかり収録した所謂「ハードコア・アルバム」的なものを出すということにあまり魅力を感じなかったしね。

でもここ数年で、僕の音楽的スタイルの幅がどんどん広がって行くのを感じていて、例えば、インダストリアル・テクノとか、アナログ機材で実験したり、自分のルーツの一つであるアシッドを探求している内に、やはり「僕には語るべきストーリーがあるんじゃないか」という考えが芽生えてから、いつしか「自分のストーリーを語らなければならない」という結論になっていたんだ。それでロックダウン中は時間を持て余していて、しかもリリース予定のレコードが工場でプレス待ちのままで止まってしまっていた。正に「今アルバムを作らなきゃいつやるんだ」という感じになった。

いつもは、イベントでプレイしたり、興味深い人に出会ったりすることが制作のインスピレーションになっていたんだけど、当時はそれも出来なかったから、別のところでインスピレーションを探すしかなかった。その時はエレクトロ、特にUmweltの曲を沢山聴いていた。だから、「Pain」や「909PM」といったトラックのムーディーな雰囲気にその影響が現れている。

実際に聴いてもらいたい順番にトラックを並べるのにかなり苦心したよ。アルバムを全部聴いてもらえたら、それが伝わると思う。

Q. PRSPCTからアルバムをリリースすることになった経緯を教えてください。レーベルとはアルバムについてどういったディスカッションをされましたか?

単純に僕が もともとPRSPCTというファミリーの一員だったから、ごく自然な流れだった。PRSPCTだったら、アートワークから作曲まで、全てにおいて創造的自由を与えてくれるし、そうやって出来た作品の方が人の心に響く。あと、言うまでもないけど、物理的なリリース(レコードやCD)も取り扱ってるから。僕にとって、これもマストだね。
それで、Thrasher(レーベルオーナー)にアイデアを打診したところ、快く受け入れてくれて、サンプルを送るように言われた。その後の流れはご存知の通り。

Q. 『Unboxed』のジャケット・アートワークはあなた自身が手掛けていますが、これは即興で作られたのでしょうか?それとも、すでにイメージが出来上がっていたのでしょうか?絵を描くときに大切にしていることは何ですか?

いつもスタート地点として、何らかの方向性やアイデアがあるんだけど、それがどこに到達するのかはいつも正確にはわからない。今回の作品は、抽象的な顔を描きたい、そしてたらし込み画法を使って実験したいという欲求があった。

ジャケ絵は、自分のマインドを「UNBOX」して、自我と音楽が混じり合うことを表現しているんだ。少しピエロのように見えるのは、昨今の音楽業界への揶揄のつもりもある。正直、巨大なサーカスみたいなもんだからね(笑)
自分でも本当に気に入ってしまって、その後何枚も続けて描いた。もう見てくれたかもしれないけれど、音楽とアートを同等に扱っている僕のレーベル「Madback」でこういったアートワークをリリースする予定だ。今僕が最も集中してやっている活動が自身のレーベル。

Q. 『Unboxed』には素晴らしいアナログサウンドが沢山使われていますが、どのような機材を使っているのでしょうか?アルバム全体を通して音のテイストが統一されているように感じますが、それは意識していることでしょうか?

実はアルバムのアートワークに使用したアナログ機材のリストを入れている。昨年復刻されて手に入れたSquarepusherの『Feed Me Weird Things』から着想を得たんだ。そのアルバムにはでっかい冊子が入っていて、どんな機材でどうやってトラックを制作したかについて詳細に書いてある。僕は元からこういう情報は好きだったから、似たようなことがやりたかった。ただ、冊子を入れるほどの余裕が無かったから、機材のリストだけになってしまった。

もう一度、機材リストを:
Roland tr-09、Roland tb-03、Roland Alpha Juno 2、Behringer ms-1、Korg volca bass、Korg vola fm、Arturia Micro Freak、Behringer Neutron、Moog Dfam、Moog Mother-32、Soundcraft signature 12MTK mixer等々。あとは様々なエフェクト&ディストーションユニット。使用したアナログ機材だけをリストアップしてみたけど、実際はデジタル制作も多用している。そこからさらにスタジオは拡大・進化してるけどね(笑)

アルバムを通して、一貫性のあるサウンドを実現できたはずだ。全体的なフィーリングとして、古い感じがすると思う。僕は90年代の電子音楽に強い影響を受けているから。当時は全てが新しく、有機的で、ピュアだった。新しい機材が発売される度に、当時のサウンドを激変させるくらい影響力があった。今は選択肢が多すぎて沼みたいだ。

あと、僕はもともと古い「物」や、古い雰囲気のあるトラックに目がない。幼少期はブルース音楽がある環境で育ったしね。そういえばロックダウン中は、毎日のようにノスタルジーに浸りながらブルースを聴いていたよ。それでアルバムに使用するための50年代や60年代のサンプルを探すようになった。

Q. アナログ機材を使う場合、ときにその機材の音を超えられないことがあると思います。ですが、あなたはどんな機材を使っても自分の個性を落とし込んで自身のカラーに染め上げられています。アナログ機材でオリジナリティを出す秘訣とは?

正確にはわからないけれど、僕の制作のやり方としてはとにかく即興で演奏したり、実験しながら、それをずっと録音するんだ。それによって自分が即興で制作した音の「サウンドバンク」を作っている。その後にパソコンの中で編集したり、アレンジする。だから今やっている新しいプロジェクトやアイデアに合うと感じれば、何年も前に録音した素材を使用することも十分有り得る。

即興中に最高にノッている時は、すぐにトラックになるということもある。でもその時と気分によって録音して、その後にデジタルで編集するということが多い。もしかしたらそれで「Tripped サウンド」になっているのかもしれない。昔から変わらない方法でずっと編集とアレンジをやっているからね。FL Studioで。

Q. 『Unboxed』にはブレイクビーツの部分でドラムンベースのフィーリングを感じさせる曲も収録されています。あなたはドラムンベースのDJとしてキャリアをスタートさせていましたが、その当時の感覚や経験を『Unboxed』に反映させようとしたのでしょうか?

「キャリア」と呼ぶのはおこがましいかもしれないけど、確かに最初はドラムンのDJとして地元でプレイしてたよ。ドラムンを強く感じる曲というのは、「Shave the Whales」のことだね。

このアルバムには、僕の人生にとって重要で、影響を受けた(ほぼ)全ての音楽スタイルを盛り込みたかったんだ。曲名は僕が大好きな海洋野生動物へのトリビュートなんだ(野生動物は全て大好き)。我々が生存するために欠かせない存在だから、どうしてもこのアルバムで触れたかった。

それはともかく、トラックは僕が2003年にDJとして活動し出した頃に憧れていたD&B界のレジェンドBad Companyへのリスペクトを表している。マジで大好きだったよ!うん。それと、Matt Greenを彷彿させるようなゴリゴリでディープなキックを混ぜたようなトラックに仕上がった。同じく僕がハードコアをやりはじめた頃に多大なインスピレーションとなった人物だ。

あと、別の曲「Kapsalon」もブレイクが存在感を出しているね。この曲はDeathchantのようなレーベルへのオマージュでもあり、初期のISRのテイストも加わっている。またしても、僕のキャリアに多大に影響を与えた音楽を表している。最近は、僕のトラックにはあまりブレイクビーツが現れることが無いけれど、いつも心の中では特別な存在であり続けている。

Q. Lenny Deeとのコラボレーション曲「Misfits」はどのように作られたのでしょうか?この曲はアルバムの中で唯一のコラボ曲ですが、なぜLenny Deeと曲を作ろうと思ったのでしょうか?

昔からいつかは絶対彼とコラボしたいと思っていたんだ。何故かと言うと、Lennyは現在のハードコアを形づくった人物だから。だって、ジャンルに「ハードコア」という名称がつき定着し始めた頃から活動してるからね。
KotzaakでリリースされたLeathernecksのトラック「Dogshit」(Kotz 0 1994)を聴いていた時に、彼に直接アプローチしようと思い立った。ボーカルを担当してもらって、めちゃくちゃワルい、オールドスクール・ハードコアのトラックを作りたかった。Kotzaak、 PCP、ISR、そして初期のRotterdam Recordsが大好物だから。

彼が快諾してくれたのは本当に嬉しかったよ。その時は 、彼にやってほしいと思っていたKotzaak風のボーカルのアイデアがあったんだけど、思うように新しいボーカルの録音が出来なくて、結局それは保留せざるを得なかった。Lennyが住んでいるニューヨークのブルックリンでは当時、氾濫による冠水や、スタジオ改装の影響で使える機材が限られていた。それで彼は代わりに90年代に録音されたボーカルを掘り出してくれたんだ。僕はそれを編集して、せっせとトラックにできるよう取りかかった。

でも曲全体をまとめるためのボーカルが足りないなと感じて、結局追加で新たなボーカルを録音することになった。25年以上前に録音されたものとブレンドしなければならなかったから、本当に難しかったよ。唯一サンプルしたのは、確かEvil Maniax 「The Creators Of Hard- core (Bodylotion remix)」のLenny の笑い声。前に挙げたレーベルに代表されるような90年代ガバにインスピレーションを受けて、あの時代の本質や僕を魅了しつづけるジャンルの特性を表現したかったんだ。乾いてディストーションが効いた909、オフビートなドラム、Alpha Junoシンセ、そしてボーカルには悪態をつきまくるLenny Dee。

Q. あなたはレコードなどのフィジカル・リリースを重要視していますね。なぜフィジカルというフォーマットを重視するのですか?

2007年に初めてアナログ盤をリリースしてから、その後数年間アナログ市場が低迷し続ける中、僕はしばらくはデジタルのみでのリリースをすることを拒んでいたけれど、結局業界の流れを止めることなんてできるわけがなかった。それでも昔からデジタル時代というものは好きになれなかったね。

プロデューサーになる前から、ずっとレコードを集めたり、DJをやっていたから、デジタルへの進化は苦痛でしかなかったよ。それ以来、不定期でアナログ盤のリリースをしてきたけど、昔のペースとは比べ物にならなかった。
でもここ数年、アナログ市場がまた大きくなってきている。正直なところ、僕はもう後戻りなんてできない。スクロールしたり、クリックした後に、すぐに忘れられるようなものにどうして魂を捧げなきゃならないんだ?僕は後世への遺産となるようなものを作りたい。

物理的なリリースを手にとって、アートワークを見たり、ジャケを読んだり、何年も前の音楽を再発見するという喜びを感じてほしいんだ。あと、未来の人にもレコードの山に埋もれている隠れた宝を発見した時の「驚き」を与えたい。今はBサイドのトラックでも、未来はサイドAになったり、人に驚くような新鮮さを与える可能性がある。
だから、Madback Recordsでもここ数年、同じようなトレンドが見られる。常に新しいアナログ盤をロテーションで出せるように日々努力しているよ。
工場がレコードをプレスするまで、いつも長い間待たなければならないのは苦しいけど、やっぱりそれだけの価値がある。

Q. 2022年になってからはフェスティバルは復活し、あなたも数々のフェスティバルやビッグイベントに出演されていますね。それらが復活した今、何を感じていますか?

今年のフェスのいくつかは、2020にブッキングされたのが延期開催されたものだったから、馴染みのあるアーティストが多数出演している、馴染みのあるフェスが多かった印象だね。ただ、一つ聞いたのがオランダの大型ハードコア・フェスはみんな似たような音ばかりになっていたということ。フェスの中のほとんどのエリアが、僕がニガテな「アップテンポ」スタイルに乗っ取られていたみたい。

なんだか、お互いを模倣してばかりで、新しい世代の人は金と名声欲しさでやっているという感じだ。みんな「これとこれをやれば売れる」というのを追い求めているだけで、そうやって出来た自称アングラな「テクノ」は自ら商業音楽に近づいているだけ。新しい世代のアーティストのほとんどは、健全なシーンや良い音楽を作ることより、PR担当とソーシャル・メディア運営チームを雇って、少しでも早く有名人になろうとしている。

今の世の中ではSNSは確かに重要だけど、才能や音楽そのものの重要性を超えるべきではない。悲しくて、憤りを感じる現実ではあるけれど、それが正しい道じゃないということを僕らが行動で示さなければならないんだと思う。
悲しいことに、その時の流行に乗っかろうとする大御所アーティストも沢山いて、平気で馬鹿げた出演料をふっかける。シーンが崩壊するまで時間の問題だよ。過去に起こったことはまた起こる。
こんな事言うと老人みたいに聞こえるかもしれないけれど、僕は音楽のためにやってるんだ。

Q. 最後に読者にメッセージを。

You got this! やれば出来る!

Tripped
https://soundcloud.com/tripped-badback
https://madbackrecords.bandcamp.com/

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