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ブレイクコアとアニメの関係性

三か月程前にBandcampが公開した「Demystifying the Internet’s Breakcore Revival」という最近のブレイクコアに関する記事が興味深かった。同時期、YouTubeにブレイクコアを扱った動画が幾つかアップされ、それも現代的なブレイクコアを理解するのに良い手助けとなった。

前途のBandcampが公開したブレイクコアの記事でピックアップされているNorm Corps、MAD BREAKS、Casper McFadden and MANAPOOL、X.NTE & ELEVATIONといったモダン・ブレイクコア系レーベル/アーティストの作品を見ると、その大半は日本的なアニメのイメージを使われているのが特徴的だ。

特に2010年以降、日本のアニメやゲームなどのサブカルチャーをアートワークや楽曲のサンプル素材として使ったブレイクコアの作品は増えており、切り離せない関係にまでなっているように見える。故に、2010年代前のブレイクコア・ファンや、日本のアニメ/ゲームなどのサブカルチャーに興味の無いリスナーからは現代のブレイクコアは少し異様に感じられるのかもしれない。
だが、日本のアニメを筆頭としたサブカルチャーとブレイクコアは他のジャンル同様、昔から繋がり続けている。その根本的なルーツを考察してみようと思う。
(この記事にはセクシャルなイメージが使われています。苦手な方はご遠慮ください。)


ブレイクコアの原型を作り上げたといえるドイツのDigital Hardcore Recordingsは日本のアニメと漫画のイメージを頻繁に使っていた。初期のデジタル・ハードコアを形成する上で重要であったサイバーパンクな世界観を演出するのに、日本のアニメと漫画は必要な要素であったのだろう。

他にも、日本のノイズ・ミュージックをデジタル・ハードコアやハードコア・テクノとミックスしたりと日本のアンダーグラウンド・カルチャーとは強く魅かれあっていた。

Atari Teenage Riot / Alec Empire & Lucy Devils『Raver Bashing / Together For Never』(1994)
Atari Teenage Riot『Kids Are United / Start The Riot!』(1995)
Ian Pooley『D-Jungle』(1995)
Atari Teenage Riot『Delete Yourself!』(1997)
Atari Teenage Riot『The Future Of War』(1997)
DJ 6666 Feat. The Illegals『Death Breathing』(1998)

ブレイクコアのパイオニア的な作品を多数残しているオーストラリアのBloody Fist Recordsも一部で日本の漫画を引用し、日本のハードコア・アーティスト達との交流が深かったドイツのThe Speed Freakは筋金入りの日本のアニメ・ファンであることも有名だ。

オーストラリアとドイツのエクストリームなハードコアを中心としたコンピレーション『Hardcore Fuckers Volume 2』や、エクストリームなハードコア・テクノとデジタル・ハードコア、最初期ブレイクコアを扱っていたアメリカのZine『Skream』も日本のアニメ/漫画を使っていた。

後にブレイクコアへと枝分かれしていく一部のアンダーグラウンドなエクストリーム・ハードコアは、日本のエログロなアニメ/漫画を自身のサウンドと重ねて人々にショックを与えようとしたのかもしれない。

Syndicate『Realms Of Darkness』(1995)
The Speed Freak『For You』(1995)
The Speed Freak Featuring Wendy Milan『Live In Japan』(1996)
V.A.『Hardcore Fuckers Volume 2』(1998)
『Skream #7』
『Skream #14』

楽曲自体に日本のサブカルチャーを反映させていったのは、2000年以降の方が圧倒的に多いが、『3X3 Eyes』『AKIRA』『超神伝説うろつき童子』の英語版をサンプリングした楽曲などはあった。ブレイクコアと親和性があるアーティストでは、Noize CreatorとBogdan Raczynskiが日本語をサンプリングした楽曲を発表している。他にも、スピードコアではThe Destroyerが『Total Hate』で日本語サンプルを使っていた。

そして、Kid606の存在は現代のブレイクコアとの類似点が非常に多い。特に初期は日本の漫画を引用したCDとレコードを多く発表し、CDのインナーや裏面にびっしりと漫画を張り付けていた。

また、曲名にもKid606のユニークなパーソナリティが反映され、「Luke Vibert Can Kiss My Indie-Punk Whiteboy Ass」「MP3 Killed The CD Star」といったシニカルなブレイクコアや、『PS I Love You』という直球なタイトルなどでロマンティックな電子音を奏でてしまう双極性的な部分が現代との親和性を感じさせる。

Kid606『Don't Sweat The Technics』(1998)
Kid606『GQ on the EQ​+​+』(1999)
Kid606 / The Remote Viewer『When I Want A Gun, Yeah / A Fielder』(2000)
Kid606『Down With The Scene』(2000)
Kid606『The Action Packed Mentallist Brings You The Fucking Jams』(2002)

Kid606と同じく、Knifehandchopも日本の漫画とゲームのイメージを使い、ポップでダンサブルなブレイクコア/ハードコアを量産。Knifehandchopは日本のMGX.FactoryによるイラストをアルバムやEPに使い、ビジュアル面で借り物ではないオリジナルな表現を進めていた。MGX FactoryはKid606のレーベルTigerbeat 6のコンピレーション『Fight Club』のイラストも手掛けている。

Knifehandchop『Fighting Pig Learns Judo Tricks』(1999)
Knifehandchop『Bounty Killer Killer』(2000)
Knifehandchop『Respect To All The Haters』(2001)
Knifehandchop『TKO From Tokyo』(2002)

2000年代に突入し、吹替ではない日本のアニメのサンプルを使ったブレイクコアの楽曲が生まれるようになる。

ある意味で、日本のアニメ・サンプルを使ったブレイクコアのパイオニアと呼べるのがドイツのSociety Suckers。彼等は「Kakke Ecko (I Love J-Core Forever Mixxx)」(2003)、「Zettai Remix」(2005)、「The Beaver Song」(2007)などで日本のポップスとアニメの主題歌をサンプリングしている。
他には、Mochipet「Audition」(2005)、Puzzleweasel「Skrot Raddent」(2003)、0=0「Mario's Theme」(2004)、NEWK「Beat Some Sense Into The Psyche」(2005)(最初期の『serial experiments lain』ネタ)、Techdiff「Broodlord」(2007)などが印象的だ。

Digital Hardcore Recordings周辺との繋がりが強かった日本のHanayoとドイツのPanaceaのコラボレーション・アルバム『Hanayo In Panacea』(1999)は、両国の文化と音楽が歪に結びついた名盤として、多少なりともブレイクコアに影響を与えたのではと個人的には思っている。

Hanayo In Panacea『Hanayo In Panacea』(1999)

ここまで見ると、ブレイクコアと日本のアニメ/サブカルチャーは昔から強い繋がりがあるように見えるが、これらの表現は過去に限っては極一部だけである。自国のアニメやコミックを使った物、実物のグロテスクなイメージを使った物、退廃的でインダストリアルな物などの方が初期は多く、その中の極少数が日本のアニメ/サブカルチャーを使っており、主流ではまったく無かったと思える。

グラフィティ・ライター/コミック作家としての一面を持つアメリカのDeadly Budaが運営していたDeadly Systemsはレコード・ジャケットに伝統的なコミックのイメージを入れ込んでおり、Venetian SnaresはTrevor Brownのイラストを使用。高度なグラフィックを使って自身の世界観を演出しようとしたアーティストもおり、音楽のスタイルと同様に十人十色のスタイルであった。そこに関しては、昔の方が多様性は感じられやすかったのかもしれない。

Dan Doormouse『Your Drugged Future』(1998)
Eiterherd『1984 Vs. 1999 (Vision Vs. Reality)』(1999)
Venetian Snares『Doll Doll Doll』(2001)
Bong-Ra『Bikini Bandits, Kill! Kill! Kill! 』(2003)
Xanopticon『Liminal Space』(2003)

上記で選んだ作品がどれだけ現代のブレイクコアに影響を与えているのか、実際には解らないが、自分が見てきたシーン全体の流れとしてはこんな感じであった。

アニメ的なイメージに限らずであるが、もしもその表現が必要であれば遠慮せずに使うべきであると個人的には思っている。誰にも理解されずとも自身が理解していれば最終的にまったく問題ないはずなのだから。時には批判されることもあるだろうし、肝心な音楽の部分まで届かない可能性もあるかもしれない。それも含めての表現活動なのだと思う。

批判する側に意識して欲しいのは、どんな表現や活動も生きた創作者が時間と情熱を捧げて生み出した物であることを忘れずに、最低限のマナーや気遣い、背景に何があるのかを想像する力を持って頂きたいとは思う。
簡単に扱っていい物などは無いのだと、自分に常に言い聞かせていきたい。


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