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Nine Inch NailsとNothing Recordsの業績

Nine Inch Nailsのアルバム/シングルを発表していたNothing Recordsは、インダストリアル・メタルの歴史において最重要レーベルの一つであるのは異論ないだろうが、アメリカの音楽市場にエレクトロニカ~IDM~ブレイクビーツ・ダンスミュージックを広めたという功績もある。

Trent Reznor(Nine Inch Nails)とJohn Malm Jr.によってInterscope Recordsの傘下レーベルとして1992年に設立されたNothing Recordsは、Nine Inch Nails『Broken』の発表以降、Marilyn Manson『Portrait Of An American Family』、Pop Will Eat Itself『Dos Dedos Mis Amigos』、Prick『Prick』、PIG『Sinsation』といったアルバムから、Nine Inch Nails『The Downward Spiral』『Further Down the Spiral』『The Perfect Drug』といった名盤を多数発表した。

Nothing Recordsは90年代に巻き起こったインダストリアル・メタル旋風を先導する一方、イギリスのWARPと契約を交わし、Squarepusher、Autechre、Plaidの作品をアメリカで流通させ、Meat Beat Manifest、Plug(Luke Vibert)、The Bowling Greenなどのブレイクビーツ/ドラムンベース系作品も配給。
さらに、『Further Down the Spiral』にはAphex Twin、『Closer』にはJack Dangers(Meat Beat Manifest)とAdrian Sherwood、『The Perfect Drug』にはThe OrbやPlugをリミキサーてして招き、Nine Inch Nailsのファンを中心にインストを主体としたエレクトロニック・ミュージックの魅力を広めた功績がNothing Recordsにはあるのではないだろうか。

インダストリアル・ミュージックの血筋

Nine Inch NailsとWARP系アーティストを繋ぐものとして浮かび上がるのがCoilである。
John BalanceとPeter ChristophersonによるCoilはインダストリアル・ミュージックをダンスフロアに接続させた存在として、テクノやエレクトロニカ・シーンにも深く関わっており、Coilの影響を公言するアーティストは様々なジャンルにいる。

CoilはNine Inch Nailsのリミックス・アルバム『Fixed』『Further Down the Spiral』とシングル『Closer』にDanny Hyde(Coilのアルバムにてプロデュース/ミキシングを多数担当しているエンジニア)と共に参加。2014年にCoilが手掛けたNine Inch Nailsのリミックスをまとめた『Recoiled』という作品が発売されている。
Peter Christophersonは「Wish」「March of the Pigs」のMV、さらに悪名高い「Broken Movie」の監督を担当しており、Trent Reznorとは映画『Lost Highway』のサウンドトラックにて「Videodrones; Questions」「Driver Down」の2曲を共作している。
ちなみに、Peter ChristophersonはMinistry「Just One Fix」「N.W.O.」、Front 242「Rhythm of Time」、Sepultura「Refuse/Resist」、Rage Against the Machine「Bulls on Parade」「Freedom」のMVも手掛けるなど、映像作家としても偉大なキャリアがある。

Peter ChristophersonとTrent Reznor

Trent Reznorは大学生の頃に出会ったCabaret VoltaireをキッカケにTest Department、Throbbing Gristle、Wax Trax!といったインダストリアル・ミュージックに夢中になったという。その中でも、1986年に発表されたCoilの2ndアルバム『Horse Rotorvator』には強い影響を受けたと話しており、Coil「Tainted Love」のMVを史上最高のミュージックビデオの一つと称している。
2010年に始動したTrent ReznorのサイドプロジェクトHow to Destroy Angelsは、1984年に発表されたCoilのEP『How to Destroy Angels』から付けられており、残念ながら実現しなかったがPeter Christophersonとのコラボレーションを計画していたという。
Trent Reznorの世界観を象徴する艶麗な電子音の核となる部分にはCoilからの影響が深く刻まれており、彼等は音楽や視覚表現において共通の感覚を持ち得ていたのだと思う。

後にNothing Recordsに関わることになるAutechreもCoilからの影響を公言しており、DJセットでCoilの曲をプレイし、未完成であるが90年代後半にコラボレーションも行う。Aphex Twinが『Further Down the Spiral』に提供した「At the Heart of It All」は、1985年に発表されたCoilの1stアルバム『Scatology』収録の同名曲からの引用とされている。

Aphex TwinとAutechreのインダストリアルな質感を持ったビートと神秘的なアンビエンスが交差する曲にはCoilと繋がる部分があり、インダストリアル・ミュージックとブリープ・テクノの避けられない血脈の関係性を浮立たせている。Trent ReznorがWARPのアーティスト達に興味を持ったのは、彼等の音楽にインダストリアル・ミュージックの匂いと質感を感じたからかもしれない。
Nothing RecordsはAutechre『Peel Session』『LP5』『EP7』をライセンスし、Autechreの音楽をアメリカに広めた。

Meat Beat Manifest

Nine Inch Nails、Marilyn Mansonに続いてNothing RecordsがプッシュしていたのがJack Dangers率いるMeat Beat Manifestである。

1990年に行われたNine Inch NailsのPretty Hate Machine TourにMeat Beat Manifestは参加しており、1996年に開催されたNothing Recordsのショウケース・ツアーNights Of Nothingにも参加。
Nothing Recordsからはアルバム『Subliminal Sandwich』『Actual Sounds + Voices』と過去にリリースしたシングルをまとめたコンピレーション『Original Fire』、そして数枚のシングルを発表している。
Meat Beat Manifestのヒップホップ〜ノイズ〜ロック〜ハウス〜インダストリアルをズタズタに切り刻んでファンキーにミックスしたインダストリアル・ファンクを世界的に認知させたのはNothing Recordsの後押しがあったからかもしれない。

Meat Beat ManifestやWARPといったイギリスを拠点にヨーロッパのダンスミュージック・シーンで展開されていたエレクトロニカやブレイクビーツ・ミュージックをロックのフィールドに持込み、リスナー層を拡大できたのはNine Inch NailsとNothing Recordsの役割が大きかったと思える。


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