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『ハードコア・テクノ・ガイドブック』本編未収録編 / メタル-グラインドとハードコア・テクノ

『ハードコア・テクノ・ガイドブック インダストリアル編』の「エクストリーム・ハードコア」と「ジャパニーズ・ハードコア」のチャプターに収録予定であったコラムを再編集して公開。
これは、メタルとグラインドコアとハードコア・テクノの繋がりについての記録である。
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名門グラインドコア/メタル・レーベルEaracheは、ハードコア・テクノの発展においても重要な関わりがある。
Earacheの看板バンドの一つであるNapalm Deathのドラマーであり、グラインドコアの名付け親としても知られるMick Harrisは1993年にEaracheからリリースされたアメリカのグラインドコア・バンドO.L.D.のリミックス・アルバム『Hold On To Your Face』にハードコア・テクノのリミックスを提供。Mick Harrisはバンド界隈からハードコア・テクノに接近した最初の一人でもあった。
『Hold On To Your Face』にはRob GeeとUltraviolenceも参加しており、Earacheがハードコア・テクノを扱った最初期の作品でもある。


『Hold On To Your Face』以降、EaracheはUltraviolence、Delta 9、Disciples Of AnnihilationのアルバムとIndustrial Fucking Strengthのコンピレーションを発表。これらのアルバムはToy's Factoryから日本盤CDがリリースされ、国内のメタルやグラインドコアのリスナーにハードコア・テクノが伝わることになる。
他にも、1998年にEaracheはコンピレーション『Hellspawn (Extreme Metal Meets Extreme Techno)』で、ハードコア・テクノやドラムンベース系アーティストとEaracheのバンドをコラボレーションさせるという企画を行い、Morbid Angel vs The Berzerker、Napalm Death vs Delta 9、Brutal Truth vs Freak、Dub War vs Panaceaのコラボレーションを実現させ、ハードコア・テクノとメタル/グラインドコアのクロスオーバーを試みていた。


ドラムマシーンを用いた超高速ブラストを駆使したマシーン・グラインドの代表格であるAgoraphobic NosebleedのボーカルJay Randallは、Submachine Drum名義でスピードコアのレコードを自身主宰レーベルBlast Beatから発表。さらに、Noizefucker & Noisekick 、Nevermind、The Tyrant & DJ Fiend、Drokzといったスピードコア・シーンの重鎮達が参加したAgoraphobic Nosebleedのリミックス・レコード『PCP Torpedo (Agoraphobic Nosebleed Remixed)』も製作。Dev/Null & Xanopticon、Merzbow、Justin Broadrickのリミックスを追加した『PCP Torpedo / ANbRX』というアルバムや、Delta 9がAgoraphobic Nosebleedの楽曲を再構築した『ANBRx Pharmaceuticals II』というアルバムも発表し、グラインドコアとスピードコアの混合を押し進めていた。

日本でハードコア・テクノをバンドに取り込んだ存在として、最初に思い浮かぶのがDef.Masterである。1994年に発表されたアルバム『Destroyer Has Godmind』には、インダストリアル・メタルにハードコア・テクノをミックスさせた楽曲がある。『Destroyer Has Godmind』はハードコア・テクノを取り込んだバンドの作品として、最初期にして最良なバランスを保っていたと思う。
Def.MasterのYoumi氏がリミックスで参加しているCocobatのアルバム『Footprints In The Sky』にも、インダストリアル・メタルにハードコア・テクノ的なエッセンスが活かされていた。


そして、更にストレートな形でハードコア・テクノを取り入れていたのが、The Mad Capsule Marketsである。The Mad Capsule Marketsはデビュー当初から、肉体的な感覚を最大限に活かした厚みのあるバンド・サウンドとキャッチーでありながらも、深く心に残るメロディが特徴であり、早い段階からインダストリアル・メタルを独自解釈した唯一無二のエレクトロニック・パンク的なスタイルを確立していた。Yellow Magic Orchestraの「Solid State Survivor」をカバーしたり、Adrian Sherwood、Audio Active、Alec Empireをリミキサーに起用していたりと、電子音楽やダンスミュージック的な要素を積極的に取り入れ、数多くの名盤を残している。
1999年に発表されたアルバム『OSC-DIS (Oscillator In Distortion)』では、デジタルハードコア/ハードコア・テクノをバンド・サウンドと完璧に融合させることを成功させ、アグレッシブなダンスミュージックとバンド・サウンドをミックスさせた最高峰として、今も多くの人を魅了し続けている。
その後、2001年にリリースされたアルバム『010』収録の「Chaos Step」は、ハードコア・パンクとハードコア・テクノがパワフルにぶつかり合い、そのどちらの要素も欠けることなく、双方のジャンルのコアな部分が合体した名曲も生み出す。アルバムの先行シングルとしてリリースされた「Chaos Step」は、オリコンの上位にも入り、TVで頻繁にミュージックビデオが放送され、その衝撃的な楽曲を多くの人が体感した。


The Mad Capsule Marketsの上田剛士氏はリミックス・ワークやアイドルのプロデュースなどでも、ハードコア・テクノやデジタル・ハードコアを交えた楽曲を制作し、現在のメイン・プロジェクトとされているAA=にもそれらの要素は強く反映されている。上田氏がRIDGE RACER Vやアイドル・グループBiSに提供した曲(「STUPiG」)、MERRYやMAN WITH A MISSIONなどのバンドに提供したリミックス、最近ではM4 SOPMODⅡ(CV:田村ゆかり)「add ME」などでも、ハードコア・テクノを取り入れた楽曲を制作している。
世界的に見ても、上田剛士氏程にハードコア・テクノやデジタル・ハードコア、さらに辿ってインダストリアル・メタルを自身のスタイルに完璧に消化して取り込み、オリジナルな楽曲を作り出せるアーティストはいないだろう。

日本のハードコア・テクノ史において、最も重要なレーベルの一つであるZK Recordsはバンドの音源をメインにリリースするレーベルであり、Coaltar Of The Deepers、Guitar Wolf、Wrench、Nukey Pikesといった日本を代表する実力派バンドの名盤を発表していたが、Hammer Brosの7"レコード『1to3for Hiroshima E.P』もリリースしており、ハードコア・テクノにもフォーカスしていた。
1997年にZK RecordsはDigital Hardcore Recordingsとのコラボレーション作『Digital Catastroph 1997』を発表。Alec Empire、Shizuo、Christoph De Babalon、EC8ORといったDigital Hardcore Recordings所属のアーティスト達がZK Records所属のバンドをリミックスするという企画で、デジタル・ハードコアというジャンルが日本に浸透するキッカケの一つともなった。
1999年にリリースされた続編『Digital Catastroph 1999』では、Industrial Strength Recordsとのコラボレーションを実現させ、Wrench、Volume Dealers、Masonna、2 Terror Crew、Blasterheadといった日本勢の楽曲をUnexist、Delta 9、Suicide Squad、Industrial Terror Squad、Three Bad Brothers(Manu Le Malin, Torgull、El Doctor)がリミックスした。
そして、1997年にZK Recordsは、Bass2 RecordsとKAK-A Recordingsを母体としたハードコア・テクノ専門のサブレーベルKill The Restを立ち上げ、日本のハードコア・テクノに特化した展開を行う。

他にも、本編ではブラックメタルとの邂逅やJason Mendonca、Miroslav Pajicといったキーパーソンの活動歴を紹介している。気になった方は是非『ハードコア・テクノ・ガイドブック インダストリアル編』をチェックしていただきたい。

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