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Gypsycore(ジプシーコア)

先日のPRSPCT radioでのMurder Channel Showにて、ノルウェーのArs DadaとベルギーのAudiotistのミックスを放送した。Ars Dada新作からの曲を中心としたベースメタル/メタリック・ブレイクコアなセットでBong-RaやDJ Skull Vomitに並ぶ強烈なサウンドを披露してくれた。Audiotistにはこちらのリクエストを引き受けて貰い、ジプシーコアを中心としたセットを提供して頂いた。
両者共に素晴らしいセットなので、PRSPCT radioのアプリでアーカイブが公開されたら是非チェックして欲しい。

Murder Channel Showに提供してくれたAudiotistのミックスを聴けば、底抜けにアッパーで楽し気なジプシーコアに魅了されるはずだ。アーカイブが公開される前にジプシーコアについて、過去に行ったインタビューからの引用を交えて纏めてみよう。

Ringe Raja Records

代表的なアーティスト/レーベル

まず、ジプシーコアはブレイクコア、ジャングル、ハードコアのトラックにチョチェク、タラバ、チフテテリ、ポップフォーク、ポルカフォークといったロマ音楽をミックスしたスタイルとされる。
通常のブレイクコアよりもダンスミュージックとしての機能性が強く、アヴァンギャルドな側面が少なく聴きやすい曲調なので、ブレイクコアが苦手だとしてもジプシーコアは好きという人もいるかもしれない。

ジプシーコアという単語が使われ始めたのは2010年代からで、Ringe Raja Recordsが代表的なレーベルの一つであり、同レーベルを運営しているFexomatはジプシーコアをサブジャンルとして確立させたアーティストの一人である。
Ringe Raja Recordsのカタログは全て無料公開されており、現在もダウンロードが可能となっている。Ringe Raja Recordsにアクセスすればジプシーコアについて大体は知れるだろう。

2005年頃にDJ Sickhead からバルカン音楽を紹介されてから、曲作りを始めたんだ。彼からジプシーのヴォーカル・チャントからトランペット・バンドに至るまでたくさんの曲をもらったよ。僕たち(NSF – Neurotic Sound Foundation)はそこからリミックスやサンプリングをしたんだ。それから2年後に、DJ Sickhead と僕はRinge Raja Records を立ち上げようと決めたんだ。ワールド・ミュージック・コアに関連する全てのプラットフォームだ。
(Fexomat)

GHz Blog / ジプシーコア特集

Ringe Raja Recordsはジプシーコアのみに着目した最初のレーベルとして評価する、それ以前はジプシーコアのみをリリースしていたのはどこもなかった。でもバルカン音楽と電子音をミックスするというアイディアは、もちろん目新しいことじゃない。僕のホームタウンにでさえ、2006年からバルカン音楽にテクノ、ハウス、ドラムンベースやハードコアをミックスしているBalkan HotseppersというDJ がいるよ。
(Wan Bushi)

GHz Blog / ジプシーコア特集

Ringe Raja RecordsからリリースされたWan Bushi、E-Coli、Batard Troniqueのジプシーコアがヨーロッパのブレイクコアやジャングルテック周辺で人気を集め、AudiotistやKatch Pyroといったアーティストが合流し、ジプシーコアのシーン/コミュニティが出来上がる。Erisian、Jigsore Record、Otherman Recordsなどのレーベルもジプシーコアの作品を展開していき、イギリスのBalter Festivalでジプシーコアがフィーチャーされ、イギリス/ベルギー/ドイツを中心に広がっていった。

バルカン音楽は好きだね。でも実際、歌そのものより、メロディーや合奏法の方が好きなんだ。昔から好きだった金管楽器の音が中核となっているところが良い。似たような楽曲を作っているアーティストで初めて聴いたのは、Ed CoxとFreddy Frogsで、その後、Ringe Raja Recordsが始動して、Gypsyrcoreのホームになった。正確な経緯や時系列は憶えていないけど、Gypsycoreを制作している人は当時も少なかったし、今もあまりいないよ!他に特筆すべき重要なアーティストは、Fexomat、Wan Bush、Audiotistと彼らのCircus Brekovicプロジェクト、そしてRRR所属アーティスト全員。
(E-Coli)

“GHz Interview18” E-Coli

2010年代中頃になるとジプシーコアの表現方法が広がる。
AudiotistとWan Bushiはジプシーコア・ユニットCircus Brekovicとしての活動をスタートさせ、2016年にErisianからEPを発表。E-ColiはEd CoxとのコラボレーションEP『La Alchemista』を2017年にUndergroundteknoからリリースし、楽器演奏を全面に押し出したライブパフォーマンスも人気を集める。
Circus BrekovicとE-Coli & Ed Coxの作品はジプシーコアというスタイルをアップデートさせたが、この頃からハードテックとの繋がりが強くなり、ジプシーコアは徐々に本来の姿から形を変えていった。

Ed Coxと E-Coli が一緒にやっている最高に素晴らしいライブセットが大好きだし、リスペクトしている。こういうジャンルでのライブセットやDJセットでは中々ないから、毎回聴くたびに痛感しているよ。
(Audiotist)

GHz Blog / ジプシーコア特集

Edと僕は、もともとお互いのことはあまり知らなかったんだけれど、共演がきっかけで出会ったんだ。そして数年前、スペインのイベントで一緒にブッキングされて、二人で何か面白いことを出来ないかと目論んだんだ。結局そのイベントはキャンセルとなったんだけれど、それがきっかけで一緒にセットの構成を考えたり、楽曲の制作をすることになった。二人とも自分の他のプロジェクトで忙しかったから、時間がかかったけれど、数か月前に初の共同EPをリリースできたのは嬉しかった。EPは好評で、今年はEdと一緒に面白そうなパーティーに出演したり、生楽器を取り入れたレコーディングをすることを楽しみにしているよ。
(E-Coli)

“GHz Interview18” E-Coli

ルーツ

ジプシーコアのルーツには明確な記録がないので、ここでは自分が見てきた時代の流れを大まかに記録する。

ジプシーコアの大本のルーツとされるFreddy FrogsはTekno/Tribeのトラックにトラディショナルなサンプルやオールディーズなサンプルを組み合わせたジプシーコア/バルカンテックの起源となるようなレコードを2000年中頃に残している。Freddy FrogsのレーベルFrogsからはLife4LandのEd CoxとStivsが参加しており、ブレイクコア・シーンとの関わりもあった。

日本のMilch Of Sourceもジプシーコアと言える曲を2000年代に残しており、アルバム『In Beach, Side Ill-Spot』は多国籍なサウンドの中にブレイクコアの要素も入っている。
その他にも、Doormouseの『I♥』シリーズでポルカをテーマにした『I ♥ Polka』や、Snares Man!(Venetian Snares)の「Clearance Bin」など、ジプシーコアに繋がるトラディショナルな素材を使ったブレイクコアは2000年代に幾つか存在している。

だが、ジプシーコアの誕生に最も影響を与えたのがイギリスのEd Coxによるクラウンコアだろう。

ブレイクコアやハードコアのトラックの上でアコーディオンを演奏するEd Coxのクラウンコア・スタイルはジプシーコアそのものであり、2007年に発表された1stアルバム『Clowncore』はジプシーコア並びに、バルカンテックの誕生にも深く関わっていると思われる。2014年に発表された2ndアルバム『Without The Hyena The Lion Cannot Be King Of The Jungle』では、プロダクションのレベルが格段と上がり作曲家としての深みも表れ、自身のクラウンコア・スタイルを大きく進化させた。

Ed Coxはイギリスのアンダーグラウンド・レーベル/コレクティブLife4Landの一員として活動し、StivsとのユニットThe DSCとしてはラガ・ジャングルをメインに制作。個人的にも付き合いがあり、2016年に発表したドロヘドロのオフィシャル・サウンドトラックに参加して貰い、去年はMurder Channel Showにミックスを提供して貰った。

ジプシーコアを知るために詳しく調べたりはしなかった、僕にとってジプシーコアとは伝統的なジプシー音楽やバルカン音楽を電子音楽でリミックスしたもの。誰もこんなものを作っていなかった。当時、速い伝統的なジプシー音楽を聴いて(頭の中で)バックグラウンドにハードコアのリミックスが聴こえてね、 このスタイルで何曲か作ってClowncoreが出来上がったんだ。少ないサンプリングがベースで、制作においてより満足している。
(Ed Cox)

GHz Blog / ジプシーコア特集

Ed CoxのClowncore がジプシーコアのヴァイブを持った最初のものだと思う。
(Fexomat)

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バルカンテックの到来

2010年代中頃になるとジプシーコアとハードテックが融合していき、バルカンテックというサブジャンルが誕生。元々、アンダーグラウンドのRaveやフリーパーティー・シーンでジプシーコアは支持され、ジャングルテック勢とも活動を共にしていたのでハードテックとの融合は必然であった。

E-ColiはDr. PeacockとRaggatek Live Bandにリミックスを提供し、Tanukichiとのコラボレーション作を発表。E-Coliはバルカンテック・スタイルに変化していき、ハードテック・ファンからも人気を得た。

でも最近は昔と比べてブレイクコア色が薄くなって、Tekno要素が強くなっているから、未だにGypsycoreと呼べるのかはわからない。大体自分ではGypsytekやBalkantekと呼んでいるけど、ヨーロッパでは時々Happytekと呼称されることもある。ジャンル的にニッチすぎて、定義も曖昧だから、僕が作っているものがGypsycoreに該当するのか、しないのかは何とも言えない!でもこのジャンルが好きだから、その一員として見てもらえるのであれば、嬉しいことだね。
(E-Coli)

“GHz Interview18” E-Coli

近年はジプシーコアよりバルカンテックの勢いが目立つが、2020年にリリースされたBatard Troniqueのアルバム『Turbo Gypsycore』とAudiotist & Wan Bushiのスプリット・レコード『Melos Ovilus』で伝統的なジプシーコアを披露している。
全盛期に比べるとジプシーコアのリリースは減っているが、今も一部で熱狂的な人気があり、多くの可能性を秘めている。Murder Channelとして今後もジプシーコアには出来る限り関与していきたいと思う。

ハードな音楽+スマイル。純粋に幸せな気分になる楽しいもの。今の世の中、何でも深刻になる中で、いい気晴らしになるものがあるのはとてもいいことだよ。
(Wan Bushi)

GHz Blog / ジプシーコア特集

ジプシーコアは、本来2つのハイエナジーなジャンルの融合で、ダンスフロアにおいて膨大なエネルギーを持つと思う。プロデューサーらが伝統的な音楽を使うと、普段ハードなダンスミュージックを聴かない人たちを繋ぐことが出来ると確信している。
(Ed Cox)

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