見出し画像

『ハードコア・テクノ・ガイドブック』本編未収録編 / ハードコアとベースラインの邂逅

『ハードコア・テクノ・ガイドブック インダストリアル編』での日本ハードコア史に収録予定だったハードコアとベースライン・ハウスの関係について、Kanji Kineticとmadmaid氏のインタビューから発言を引用させていただき、記事を再構成して公開する。

日本のハードコアとUKのベースライン・ハウス
近年、ハードコアとベースミュージックの融合は珍しくなく、双方のジャンルの良い部分を溶け合わせたクオリティの高いトラックが国内からもリリースされている。
ベースミュージックの中でも、ダブステップの次にハードコアとの融合が盛んといえるのがベースライン・ハウスである。最近でも、PhatworldやThorpey、The Squire Of Gothosのリリースでベースライン・ファンから人気を集めるレーベルOff Me Nut Recordsから日本のM-Projectは『Tokyo Rave EP』と『Rave Expedition (OMN Edition)』をリリースし、ハードコアとベースラインのハイブリッドを披露した。

DJ Sharpnelの存在
日本でのハードコアとベースラインの繋がりは古く、その始まりは2000年代後半まで遡る。J-Coreはハードコア系のダンスミュージック以外にも、意外なジャンルにも影響を与えており、ベースライン・ハウスもその一つだ。ドラムンベース、ドラムステップ、スカルステップ、ダブステップ、エレクトロなどをベースライン・ハウスとミックスしたミュータント・ベースというスタイルを生み出したイギリスのKanji Kineticは『涼宮ハルヒの憂鬱』、『ラブひな』、『ファイナルファンタジーVII』などの日本のアニメやゲームをサンプリングしたトラックをリリースしているが、彼もその一人であった。

「俺は、日本の文化とマルティメディアに興味があるんだ。それで、ハードコアやガバにアニメのサンプルを使うDJ Sharpnelって言うアーティストの曲を聞いて、ガレージやベースラインにもアニメサンプルを使えばいいと思ったんだ。(2011年12月2日 MxCx Interview Vol.4 - Kanji Kinetic)」
「さっき話した代々木公園でのイベントが「MAD MAX」って名前だったので、そこからMADを取って、maidはDJ Sharpnelさんの「ワタシはメイド」という曲から拝借して「madmaid」になりました。(2016年10月18日 GHz Junglist interview #4 madmaid)」

多種多様なダンスミュージックのエッセンスを混合させたトラックに、アニメやゲームのサンプルを織り交ぜた情報量の多いミュータント・ベースの誕生に、DJ Sharpnelからの影響があったというのは驚きであった。Kanji KineticはMaltine RecordsからもEPをリリースし、日本のM-Project100madoのリミックスも手掛け、過去に2回の来日経験もあり、ベースミュージックからJ-Core/ハードコア界隈にもファンがいる。

Kanji Kineticと同時期に表れ、Mutant Bass Recordsにも参加していたイギリスのSubmerseも、日本のアニメを大胆にサンプリングしたベースライン・ハウスのトラックやアニメ主題歌のブートレグ・リミックスをリリースしており、DJ Shimamuraへのリミックス提供も行っている。Mutant Bass Records周辺には、日本のサブカルチャーからの影響が色濃く出た作品が集まり、J-Coreとの親和性が強かった。

「Mutant Bass Recordsは、もっといろんな音楽が広く知られるべきだと思ったのがきっかけで始まった。そういう楽曲をより多くのオーディエンスに届けたいと思ったから。ジャンルの定義付けは難しいけど、Mutant Bass Records自体がジャンルになっていくと思う。俺の音楽と同じく、ベースラインと、フィジット、ダブステップ、ブレイクビートハードコアの要素が結びついてたりする。
そういうアーティストの大半はUK出身だけど、USのDouble Oh Noとか、日本のMadmaidもいるし、この調子でどんどん発展したら良いと思ってる。(2011年12月2日 MxCx Interview Vol.4 - Kanji Kinetic)」
「Kanjiや僕が作っていたようなBasslineはMutant Bassと呼ばれていて、元々はビートはUKGでベースはFidget Houseっていうスタイルに近かったんですよ。なので自分としてはBassline Houseを作っている意識はあって、なんならUK Garageの流れの上にある音楽だと思っているんですけど、UK GarageのDJには中々受け入れられていないのが現状ですね。(2016年10月18日 GHz Junglist interview #4 madmaid)」

Mutant Bass Recordsのベースライン・ハウスに触圧されたのか、ハードコア系でもこの頃にベースライン・ハウスを取り入れた楽曲も増えており、UKハードコアのプロデューサーであったShoujoはMatra Magic名義にてMaltine Recordsからの影響を受けたと思われるトラックを制作し、Mob Squad Black Labelから『Electro x Life EP』をリリース。JAKAZiDもMutant Bass Recordsのリリースに参加するなど、UKハードコア・シーンとベースライン・ハウスが一部で接近していた。

国内でも、DJ Technorchのシングルにmadmaidがリミキサーとして参加。DJ Sharpnelはベースライン・ハウスの要素を反映させたアルバム『危ないベースライン = Bassline Crisis』を発表。2010年代前半はハードコアとベースラインの結びつきは以前よりは落ち着いていたが、Spongebob Squarewaveが表れたのも手伝い、新たなコンビネーションを生み出し始めている。

引用元
INTERVIEW / KANJI KINETIC
GHz Junglist interview #4 madmaid


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?