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『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』に寄せて / サイケアウツとジャングル

世界中の耳の肥えた音楽好き達から信頼を寄せられているレーベルEM Recordsから我らがサイケアウツのベスト『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』がLPとCDで今月末に発売されることになった。

大変光栄なことに今作の選曲と監修をIan Willett-Jacob氏と私で担当させて頂いた。サイケアウツ期に残された数々の名曲から厳選した15曲を収録しており、「Hellboro (Funky Hell Mix)」「Lum'n'Bass」といったサイケアウツを象徴する代表曲から、「Mujin O.B.」「God Eater」などのRed Alert Records時代のヴァーチャコア・クラシックにライブ音源も加え、サイケアウツの魅力をパッケージングしている。

さらに、マスタリングとカッティングはテクノ~ハウス~ミニマル・ダブの名作を数多く手掛けているドイツのDubplate & Masteringが担当。LPには私が執筆させて貰ったライナーノーツが付いてくる。
現在、EM RecordsのBandcampにて5曲のフルストリーミングが公開されており、LP/CDの予約も開始。diskunionでは予約特典としてライブ音源が付いてくることになっているので、気になった方は調べてみて欲しい。

サイケアウツとジャングル

『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』の詳細に記載されているように、サイケアウツこと大橋アキラ氏は「日本のハードコア・ジャングルの開拓者」であり、今作は2010年代から世界中で熱狂的な盛り上がりをみせているモダン・ジャングルと強く共鳴しあっている。

正確な時代のタイムラインが残されていないが、日本国内でジャングルを最初期にクリエイトしていたのはCOVE01、Soichi Terada、そして大橋アキラによるサイケアウツが挙げられる。この中でも、サイケアウツはジャングルにインダストリアルとノイズをミックスし、アニメや特撮といったサブカルチャーの断片を混入させた土着的でアグレッシブな唯一無二のジャングル・スタイルを90年代中頃に確立。ジャングル以降に生まれたドラムンベースやブレイクス、2ステップにもいち早く反応していた。

以前、GHz Blogにて大橋アキラ氏に影響を受けた作品を10作選んでチャートを作って貰ったことがあるが、そのチャートではDJ Nut Nut「Bloodclart Hour」をピックアップされており、「Amenといえばこれ!戯論寂滅です。」とコメントされていた。アーメン・ブレイクを特集した『The Amen Break Top 3!!!』という記事にもご参加して頂いており、そこではREMARC「Drum N Bass Wise (Remix)」とDJ Rap「Digable Bass [Heaven Remix]」を挙げて解説してくださっている。

上記のチャートから分かるように、サイケアウツがリリースしていたジャングル・トラックの元にはREMARCやDJ Nut Nutといったハードなアーメン・ジャングルの影響が色濃いが、圧倒的な技術力と狂人的ともいえる発想力で本場イギリスのジャングルと同等のクオリティを持った楽曲を90年代に残している。

『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』には、「Hit Man (Jungle Assassin Mix)」という伝統的なUKジャングルをサイケアウツ流に解釈した曲や、N2Oが90年代後半から2000年代に掛けて開拓していったハードコア・ジャングルを既に先取りしていた「Tong poo」、アブストラクト・ジャングルの元祖といえる「God Eater」といったサイケアウツにしか生み出せない異形のジャングルが収録。これらの曲はFoxy Jangle、Parallax Recordings、RuptureLDNなどがリリースしている現代的なマッシブ感を備えたジャングル・トラックとの相性もとても良いはずだ。

2020年にMurder ChannelからリリースしたサイケアウツGのミックステープ『Move Your Bodhi』は、A面がハウスでB面がジャングルの構成になっており、ハウスとジャングルの関係性をサイケアウツGによって具現化。大橋アキラ氏はジャングル以前にハウスをクリエイトし、UKジャングルのパイオニア達と同じ道筋を辿っている為、サイケアウツのジャングル・トラックには深く強い音楽的なファウンデーションが活かされている。

Chrissy、Wheez-ie、Coco BryceのChavinski名義、そしてHooversound Recordings周辺の作品に流れているフィーリングとサイケアウツには多くの類似点が見つけられる。テクノ~ハウス~ジャングルを繋ぐハイブリッド・スタイルの元祖の一つとして、『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』をオススメしたい。

『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』にはジャングル以外にも、サイケアウツ流のインダストリアル・ファンク~ダブ~ハードコア~ブレイクスが収録されており、一つ一つの曲に濃い文脈が感じられる。
ブレイクビーツを様々な側面から多角的に解釈し、サンプリングという手法に新たな切り口を与え、インダストリアル・ミュージックの根本に忠実なサイケアウツのコアな部分がぎっしりと詰まった今作は、どんなジャンルのファンでも魅了してしまう摩訶不思議な楽曲に溢れている。LP/CD、どちらのフォーマットでもいいので是非入手して聴き込んでみて欲しい。

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