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Shimon_Harbig『Grimdark』発売に寄せて / インダストリアル・ハードコア~ハード・テクノ~ブレイクコアの邂逅

12月16日にMurder Channelから日本の若手プロデューサー/DJ「Shimon_Harbig」の4曲入りEP『Grimdark』を発表した。

Shimon_Harbigは今年6月にインダストリアル・テクノを主体とした活動を行っているyumeoとのスプリット作『Grace』と『Grace Remix EP』をMurder Channelからリリースしてくれており、去年DOMMUNEで行った『ハードコア・テクノ・ガイドブック発売記念SP』にも出演してくれている。

オールドスクールなガバに影響を受けたという彼は、現行のハードコア・テクノ~インダストリアル・テクノ/ハードコア~ブレイクコアを柔軟に取り込んだハードなダンスミュージックのスタイルを確立している。

『Grace』で表現しきれていなかった彼の攻撃的な側面やディストーションへの拘りなどが『Grimdark』には詰まっており、UKインダストリアルとインダストリアル・テクノ/ハードコアを独自配合したオリジナルな楽曲を生み出してくれた。
アートワークはAnt-Zenのオーナーでもあり、デザイナーとしても素晴らしい作品を多数手掛けているSaltに担当して貰った。『Grimdark』のカオスなサウンドを視覚化出来ていて個人的にもお気に入りである。

そして、PRSPCT radioでレギュラー放送しているMurder Channel Showの最新回にもShimon_Harbigとyumeoは出演してくれており、アーカイブが以下から視聴可能となっている。Shimon_Harbigは『Grace』と『Grimdark』からの曲を中心として、UKインダストリアル~インダストリアル・ハードコア~ブレイクコアまで繋ぎ合わせたスキルフルなミックスを披露し、yumeoはインダストリアル・テクノ~EBM~ハード・テクノに自作曲のマッシュアップなども織り交ぜたパンキッシュなライブ・セットとなっている。彼等のずば抜けた才能とセンスが感じられる刺激的なセットだ。

Murder Channelからリリースした『Grace』と『Grace Remix EP』は予想していたよりも広範囲に受け入れられ、Gabber EleganzaやSlave To Societyといったレフトフィールドなハードコア・テクノを追求するアーティスト達から支持され、DoormouseやDave Skywalker、DJ TECHNORCHのミックスにも収録。特に、Gabber Eleganzaは彼等の作品を高く評価してくれており、Shimon_Harbig「Iwannabe (yumeo Remix) Feat​.​MOCHIZUKI From MAGICALMAN」(『Grace Remix EP』)を今年のベスト・トラックの一つと称してくれた。更に、HATEのポッドキャストに提供した彼のミックスにはyumeo「Intrigue (Shimon_Harbig Remix)」を収録してくれている。

Shimon_Harbigの『Grimdark』はハイブリッド化していくハード・テクノ~インダストリアル・テクノ/ハードコア~ブレイクコアの流れの中で、特殊な存在感を放っている。『Grimdark』は昨今のハイブリッド思考を象徴する部分もあるが、強固な姿勢で自身の揺るがないコアをジャンルに頼らずに表現した傑作と言える。

このタイミングで2022年に巻き起こったハイブリッド化の流れを少し辿ってみよう。

ハード・テクノとハードコア・テクノ

2022年に突入してからBPMはどんどんと上がっていき、ディストーションの主張も激しくなっているハード・テクノ界隈。2010年代後半からテクノとハードコア・シーンとの邂逅が強まっていたが、その流れは現在のハード・テクノに集約されていったと思える。

ハードコア側で印象的だったのが、インダストリアル・ハードコア・プロデューサーSomniac Oneの変化である。
POSSESSIONのコンピレーションに収録された「Midnight Intruder」というインダストリアル・ハードコアにトランスをミックスさせた曲がヒットしていたが、この曲が一つのキッカケとなってSomniac Oneとハード・テクノ勢との共鳴が進んでいったように見える。

Somniac Oneは自主レーベルをスタートさせ、第一弾として『Deer in the Headlights』という2曲入りのレコードを発表。彼女が元々持っていたテクノの要素を拡大させた「Arp Track #1」と、ミレニアム・ハードコアを意識したという「MNDKNTRL」という現行のハードコア・テクノ/ハード・テクノ・シーンのトレンドを無意識ながらも具現化させた興味深い作品だ。

DJセットではハード・テクノとインダストリアル・ハードコアを軸に展開しており、ハード・テクノとハードコア・テクノを繋げるアイコン的な存在にもなっていっている。

Miss HysteriaことAdamant ScreamはPRSPCTから発表した『Incinerate』でインダストリアル・ハードコアとハード・テクノの融合を以前よりも具体的に推し進めようとしている。今作では、Tymonとの共作でインダストリアル・ハードコアとシュランツをミックスした名作を残しているWaldhausの「Ad Vesperum」をAdamant Screamがリミックスしているのが見逃せない。

Trippedもアルバム『Unboxed』でシュランツを取り入れた「Shinjuku Heat」という名曲を生み出しており、ハード・テクノとインダストリアル・ハードコアのクロスオーバーだけではなく、シュランツコアの再燃にも期待が高まる。

「私にとってインダストリアル・ハードコアとは、曲のある特定の感情、雰囲気、サウンドである。フェスティバルの大観衆が喜ぶような、基本的な公式に沿って曲を制作するのではなく、アイディアやストーリーを念頭に置いて作っている。聴きやすい音楽ではないから、このジャンルが好きな少数の観衆のために常に頑張りたいと思っているよ。サウンドは、もっと歪んで、怒りに燃えて、攻撃的で、または不気味でダーク・・もっとエクスペリメンタルで多様でもある。個人的には、内容的にも構造的にもルールが少ないように感じている。」

“GHz Interview30” Adamant Scream a.k.a. Miss Hysteria / Lucy Furr

テクノ側からのアプローチとしてはPerc Traxが幾つかの重要作を今年発表。Scalameriyaのアルバム『Aeon Core』や、2010年代前半に開拓しようとしていたハードなインダストリアル・テクノ・スタイルを更にブラシュアップしたPercのシングル『Dirt』、Pilldriverのカルト・クラシックを現代に呼び覚ました『Pitch-Hiker Remixes』などは、ハード・テクノ/ハードコア・テクノ双方のDJがプレイ出来るようになっており、既にここに境界線は無くなってきている。

kilbourneとの共作でも知られるハード・テクノ/インダストリアル・テクノ系プロデューサーPLEXØSはThe Third Movementからシングル『Behind The Screens EP』をリリース後、よりストレートにハードコアに特化。自身のBandcampではハード・テクノとインダストリアル・ハードコアを混合させた独自のハイブリッド・スタイルを提示している。

Perc Traxとは違った側面からハード・テクノとハードコア・テクノをリンクさせているレーベルScuderiaからデビューしたMutterspracheのEP『Perpetuality』はハードさを求めるダンスフロアならどこでもフィットするような万能なトラックが収録されており、昨今のジャンルが液状化している状況を証明しているようであった。今後、彼等のようなスタイルがもっと拡張されていき、新たなムーブメントを巻き起こすかもしれない。

トラディショナルなインダストリアル・ハードコアやダークコアの魅力を現代的に解釈した動きも一部で進んでおり、14Anger『Louder Than A Thousand Thunders』、Starving Insect & Catscan『The Rainmaker』といった作品はそれらのジャンルの根本的な部分を崩さずに伝えている。DJとしては、Miyuki OmuraがPRSPCT radioで披露したセットでインダストリアル・ハードコアから枝分かれしていった様々なサブジャンルや可能性を一つのグルーブとして纏め上げていた。今後、これらのトラディショナルなサウンドもハード・テクノとの共鳴が進んでいくのかもしれない。

インダストリアル・ハードコアとブレイクコア

ハードコア・テクノとインダストリアル・ハードコアがハード・テクノとシンクロしていく最中、もう一方ではブレイクコアとの融合を奨励するアーティスト達が出現。

インダストリアル・ハードコアよりもブレイクコアに影響を受けていると公言していたDJIPEは、同じくブレイクコアのルーツがあるNagazakiとのユニットSpare Limbsで我々にブレイクコアを再考するキッカケを与えてくれた。
インダストリアル・ハードコア界の重鎮から注目株まで参加したPrototypes Recordsのコンピレーション・シリーズ『Industrial Engineers #3』にもブレイクコアの背景が随所で感じられる。

他には、ブレイクコア・シーンとの繋がりが深かったKhaoz EngineはMykozのコラボ作『Balance』で、ブレイクコアの攻撃性をUKインダストリアルと掛け合わせていた。

The SATANもブレイクコアに回帰しようとする動きを進めている。去年、Murder Channel Showに提供してくれた自身のブレイクコア/ダークステップ・トラックのみで構成したミックスが再生数も多く話題となっていたが、Heresyのレーベルナイトでもブレイクコア・セットを披露していた。Superbad MIDI BreaksからリリースしたシングルではPeace Off期を連想させるブルータルさが戻っており、来年からどういった作品を発表するか楽しみである。

こういった上記の流れとシンクロしながらも、Shimon_Harbigの『Grimdark』は独自路線をひた走る。ハード・テクノ~インダストリアル・ハードコア~ブレイクコアを繋ぎ合わせた今年の象徴的な作品であるが、それ以上にShimon_Harbigの独創性と個性が強く光っており、今後更に進化していくのを感じさせる。
2023年も彼とは幾つかの作品を作っていく予定なので、これからも是非チェックして欲しい。







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