見出し画像

BreakcoreとDUB

DUBはありとあらゆる音楽の中に存在している。速度感(BPM)と文化的な側面から見て、かなり離れた場所にあるように見えるブレイクコアにもDUBは入り込んでおり、その音楽的成長と姿勢に影響を与えている。DUBがブレイクコアと融合できることは、DUBが速度感に囚われずにどんな音楽にも適応できるのを証明している。

ブレイクコアとDUBの関係を辿るとそこにはやはり、ブレイクコアの始祖的存在であるAlec Empireが出てくる。1995年にMille Plateauxから発表したAlec Empireの『Low on Ice』はアンビエントをメインとしたアルバムであるが、DUBを取り入れた興味深い曲があり、イルビエントとは違ったレフトフィールドなDUBを作り上げていた。
Mille Plateauxはイルビエントにフォーカスしたコンピレーション『Electric Ladyland』でDUBの新解釈も推し進めていたが、その中にはブレイクコアへと接続されていくものがあり、『Electric Ladyland』が切り開いた可能性を追求し拡大したのがフランスのCavageやアメリカのBroklyn Beatsであり、彼等はDUB〜ブロークン・ビーツ〜ブレイクコアを繋ぎ合わせていった。

ブレイクコア・シーンにおいても凄まじい影響力があるAphex TwinがCaustic Window名義で1993年に発表した『Joyrex J9 EP』収録の「Clayhill Dub」、Squarepusherが1995年に発表したDuke Of Harringay名義での『Alroy Road Tracks』収録の「Toast For Hardy」やDUBにフォーカスしたアルバム『Budakhan Mindphone』などは、ブレイクコアに確実に大きな影響を与えている。
フリー・パーティー/Teknoから派生したアンダーグラウンドなブレイクコアはR-ZacやNetwork23周辺が展開していたTekno+DUBに影響を受けていると思われる。

最初期

1997〜1998年はブレイクコアが誕生したときであり、この時期には沢山の革命的なレコードがリリースされているが、既にDUBを取り入れたレコードが生まれている。

80年代にバンドマンとしてポスト・パンク〜インダストリアルを渡り歩き、それらの要素をハードコア・テクノとミックスした実験的な作品を発表していたChristoph FringeliがAphasicと結成したユニットSociety of Unknownsで発表した12"レコード『Society of Unknowns』に収録されている「Dead By Dawn (The Endless Mix)』は、ダブテクノをアヴァンギャルドに解釈したような鬱々としたベースがループする異常な中毒性のあるDUB要素の強い曲だ。

1998年にリリースされたDJ Scud & Nomexの7"レコード『Total Destruction』のB面に収録された「Total Destruction (Dub Version)」は、A面のブレイクコア・トラック「Total Destruction」をDUB化させるという、DUBの音楽的背景を理解して反映された重要曲。
90年代、DJ ScudはDUBとサウンドシステム・カルチャーに強く惹かれており、そこから得た経験を自身の音楽に落とし込み、ジャングル〜テックステップ〜ハーシュノイズにDUBをミックスした芸術的な作品を連発。「Trauma (Bury Your Dead Mix)」「Stormtrooper」「No Love」「Each One Teach One」「Duende (DJ Scud's In Chains Remix)」といったDJ Scudの名曲にはDUBの要素が大きく反映されている。

『ブレイクコア・ガイドブック上巻』でのDJ Scudへのインタビューでは『Total Destruction』が生まれた経緯、サウンドシステムとDUBから受けた影響を語って貰っており、ブレイクコアとDUBの興味深い繋がりを見出せる。DUB好きにもDJ Scudの作品は是非チェックして欲しい。

DJ Scudと同じく、ブレイクコアにDUBをミックスした重要人物がアメリカのI-Soundだ。
I-Soundはレゲエ/DUBと音響にブレイクコアを知的に混ぜた怪作を残しており、Broklyn Beatsからリリースした7"レコードやDUB/ダンスホールとブレイクコアを融合させたレーベルFull WattsからリリースしたJah Vengeance名義の7"レコード、そしてDJ ScudとのユニットWastelandで発表したアルバムはDUBの深部に潜り込んだ素晴らしい内容であった。

ノイズを巧みにコントロールして凶暴なブレイクコアを作り出していたKovertもDUBからの影響が強く、2001年に発表された名盤デビュー・レコード『Shock Effect』収録の「Shattered Illusions」から始まり、2002年発表の12”レコード『Versioning』と2006年発表の12”レコード『Dubcore Volume 5』などでDUBの要素を活かしており、Kovertの音楽を形成するうえでDUBが重要なパートであるのが分かる。

DJ/ruptureとOVe-NaXx

DJ ScudとI-Soundと同等にDUBに対して深く理解と情熱を持って接していたのがアメリカのDJ/rupture。自身主宰レーベルSoot Recordsから発表したレコードにて、ブレイクコアとDUBを配合したトラックに中東音楽の素材を多用したハイブリッドでグローカルなスタイルで高い評価を得た。Nettle名義でもDUBの手法と概念が機能した傑作アルバム『Build A Fort, Set That On Fire』を発表し、DJプレイではRhythm & Sound「King (Version)」とR&BシンガーAaliyah「We Need A Resolution」のアカペラとマッシュアップするなど、DUBを多角的な視点と方法で再構築していた。

日本ではOVe-NaXxが活動初期からDUBを取り入れており、彼の音楽の主軸にはDUBがある。2002年に発表した1stアルバム『Ovnx Shoot Accel Core』には「Jungle Riot」「Ragga Dub Tackle」というDUB色の強い曲が収録。Augustus Pabloをサンプリングした「Jungle Riot」は国内外のブレイクコアやジャングルのDJからサポートされ、OVe-NaXxの存在を広めた。

同じビジョンをもっていたDJ/ruptureと共鳴し、OVe-NaXxは2003年にSoot Recordsから『Bullets From Habikino City HxCx』というミニアルバムを発表。今作からOVe-NaXx印の歪んだDUBスタイルを確立し、DJ Scudとは違ったDUBの狂気性をブレイクコアと掛け合わせた。
その後、OVe-NaXxはNettleのリミックス・アルバムへの参加、DJ/ruptureとのツアーも決行。彼等はブレイクコアとDUBを融合させ、ブレイクコアに深みを与えた。

Venetian SnaresのDUB愛
ブレイクコアを体現するカナダのVenetian  SnaresもDUBを好んでおり、2011年に発表した『Cubist Reggae』でDUBに真正面から取り組んだ名作を残している。今作はPoleことStefan Betkeが作り出すDUBに通じる音響空間を作り上げており、Venetian Snaresの超人的なカットアップと空間処理をDUBの中で存分に味わえる。
Venetian SnaresのIDM/グリッチにはDUB的なものがあり、アルバム『Traditional Synthesizer Music』にもDUBから得た手法が活かされていると思える。

Snares名義でリリースしたBlack SabbathをDUB化させたシングルは原曲のドゥーミーな世界観をDUBでさらに強め、暗黒サイケトリップへと誘う怪作もある。お蔵入りになってしまったようだが、あるレーベルからDUBアルバムをリリースするという話も聞いたことがあった。

Dubcoreシリーズ 

パンクとレゲエ/DUBをブレイクコアとジャングルでマッシュアップするドイツのIstari Lasterfahrerが2003年に始動させたレーベルDubcoreは、DJ Scud/I-Soundが開拓した流れを汲みながら更にブレイクコアに特化した作品を発表。ここ数年DubcoreにはCoco BryceやChampion Soundなども参加しジャングルにシフトチェンジしているが、主宰Istari Lasterfahrerは昔から変わらずにDUBの要素を感じさせるトラックをリリースしている。

Dubcoreから2枚の12"レコードをリリースしているFFFもDUBを好み自身の曲に反映させ、ポスト・パンクの雰囲気を感じさせるハーシュなラガコアやダビーなジャングルを発表。レゲエ/ダンスホール/DUBのコレクターだけあってマニアックなネタ使いに定評があり、『Roots, Rock, Rufffness』というミックスも公開している。

フランスのElectromecaはDUBのサイケデリック感と低音のアプローチをファンキーなブレイクビーツと合体させた自称ブルータル・ファンクを開発。『ブレイクコア・ガイドブック下巻』では、お気に入りのDUBアルバムを紹介してくれている。
他にもKrumble、Gore Tech、Cardopusher、Stazma、Bong-Ra、Ruby My Dear、FRXなどがブレイクコアとDUBを結びつける曲を作っており、その繋がりには意味深いものがある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?