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Murder Channel 2021→2022

少し今更かもしれないが、自分のレーベルであるMurder Channelが2021年にリリースした作品を振り返ってご紹介したい。
2021年もお陰様で活動を続けられ、またも素晴らしい作品を発表することが出来た。
どの作品にも本気で情熱を注いでいるので、少しでも興味を持って貰えたらチェックしてみて欲しい。

Northern Lord - The Great Northern Dreadstep

2021年最初のリリースはGore TechによるNorthern Lord名義のデビュー作で始まった。
Gore Techとしてはドラムンベースを主体とした活動になっているが、昔から一貫してインダストリアルとドゥームの要素は強く表れており、バンドサウンド的な展開が彼の音楽の魅力の一つだと思う。このNorthern Lord名義は、彼のバンドサウンド的な側面を存分に引き出したプロジェクトであり、ドゥームとダブ/ベースの混合を主軸としたネオサイケデリックな曲を生み出している。
今作は70年代~80年代のヘヴィーメタル、ドゥームメタル、ストーナーロック、サイケデリックロック、ワールドミュージックのエッセンスを絶妙に織り交ぜていて、ある意味とてもイギリスらしい作風。少し前には、Hack Sabbath名義でBlack Sabbathの名曲をブート・リミックスしたレコードをリリースしたり、サイケデリック・ロック/ストーナーロック・バンドGainのベースプレイヤーとして活動するなど、サイケデリックなメタル/ロックはGore Techの音楽的要素には欠かせなかった。今作では、それらの要素に現代的なダブやベースミュージックのアプローチを掛け合わせている。BandcampではMVも公開しているので是非そちらも見てみて欲しい。PRSPCT radioでのMurder Channel Showにて、Northern Lordがホストを務めた番組も去年放送した。そちらでは、彼のお気に入りのドゥームやブレイクコアなどをプレイしており、今作が生まれた背景が読み取れる。


V.A. - Twisted Steppers

2012年から2014年頃に掛けて製作していたディストーション・ベース系コンピレーション。紆余曲折あり寝かせたままになってしまっていたが、2021年2月になって遂に放出。
Oyaarss、Devilman、Taigen Kawabe、ENA、Gorgonn、100mado、Dead Fader、Drastik Adhesive Forceがとびっきりの曲を提供してくれている。
Bandcampではライターの清家 咲乃さんによる素晴らしいライナーノーツを載せている。とても良い内容なのでチェックして欲しい。今作については、ここのnoteでも「Twisted Steppersの裏側」という記事で詳しく触れているので、歪んだベースミュージックやディストーションに塗れた音楽が好きな方には御覧頂きたい。

DieTRAX vs FFF - Hiroshima vs Rotterdam Special Edition(2CD+DL Code) 

2011年にリリースしたDieTRAXとFFFのスプリット・アルバムの10周年記念盤。
続編である『広島死闘篇~Hiroshima Deathmatch~』とサイケアウツG、FFF、Technoheadの新たなリミックスを収録したEPとのトリプル仕様。
ジャングル~レイブコア~ガバ~オールドスクール・ハードコアが入り乱れるカラフルなトラックが収録されており、Murder Channelのカタログの中でも異彩を放っているかもしれない。DieTRAXとFFFのピュアなダンスミュージックへの愛を存分に体感出来る豪華版だ。
『Hiroshima vs Rotterdam』に収録されている両者の曲を今聴くと、近年のPost Raveやモダン・ジャングルとの親和性が強く感じられる。時代性に囚われない両者の曲はこれからもずっと人々を魅了し続けるはずだ。

Babyshaker - Return to wilderness

ブレイクコア界隈の極一部で認識されているジャングルとブレイクコアの混合スタイル=ジャングルコアの代表格であるBabyshakerのシングル。
これも製作されたのは結構前であるが、Stazmaのマスタリングによって現代的な音圧に調整され、まったく違和感なく仕上がっている。
ジャングルコアというとDr Bastardoがプロダクション面においてもコンセプト的にも優れているが、Babyshakerはジャングルのシャープさとブレイクコアの複雑な手法をトラックに上手く活かしており、ジャングル/ブレイクコア双方のリスナーにも喜ばれ、DJプレイでも使いやすく、実際にジャングルのDJにもプレイして貰っている。ハード過ぎずソフト過ぎない仕上がりなので、ブレイクコアは聴きたいけど、ハードなのはちょっと、、、という気分の時は今作をオススメする。
アートワークを担当してくれたKarl Emil Öhlundとは2000年代後半からの知り合いであったが、一緒に作品を作るのは今回が初であった。彼はXÄCKSECKSという名義でメタリックなブレイクコアを作っている。

Northern Lord - Iron Mandem

Northern Lord名義でのシングル第二弾。前作よりもオカルトチックな雰囲気が若干増し、ポスト・メタルな方向にも近づいている。
重みのあるベースとドラム、そして曲の構成から普段メタルやドゥーム、スラッジ系のバンドを聴かれている方にもすんなりと受け入れられるようになっているはず。Igorrrのシンフォニックなメタルにも何処か共鳴する部分があり、Northern Lordはより泥臭くてアルコールなノリがある。薬物でのトリップというよりは、爆音のスピーカーから発せられるベースとフェードバックの繰り返しでぶっ飛ぶ感じだろうか。Northern Lordのサイケ感はかなり現実的なトリップ感がある。
2021年7月にはOhm ResistanceからGore Techとして電子音によるドゥームに特化したEPを発表。今後のGore Tech/Northern Lordがどういった方向性になっていくのかとても楽しみだ。

BLACKPHONE666 - PTN​.​YLW / HARM

オリジナルハーシュサウンドを追求する電気音響過激派「黒電話666」によるガバやデジタルハードコアを取り込んだ力作。
黒電話666とはかなり古い付き合いで、Murder Channel初期の頃からデザイン関係から細かい部分までずっと手助けして貰っている友人でもある。彼は音楽的な探求心がとても強く、自身の創作活動についてマジメに取り組んでおり、常に他とは違ったアプローチを展開していくように心がけていると思う。その姿勢は本当に素晴らしく、近くにいてダイレクトに刺激を受けられるのはとてもラッキーだ。
今作はガバ~デジタルハードコアなどの歪んだダンスミュージックを主体としている。ノイズを取り入れたダンスミュージックは自分の大好きなスタイルであるので、こういった趣向の作品は結構チェックしている方だが、客観的に見ても黒電話666の『PTN​.​YLW / HARM』は凄まじくレベルが高い。まず、ノイズの使い方と音そのものに圧倒的な説得力と存在感がある。ガバキックやシンセの使い方もユニークで、モダンなガバやハード・テクノ勢とのシンクロも感じられる。
ノイズミュージックとしても、ダンスミュージックとしても楽しめる稀な作品じゃないだろうか。GHz Blogで公開している黒電話666のインタビューと合わせてチェックするのをオススメする。

Fugenn & The White Elephants - Bress Core

日本の名門電子音楽レーベルPROGRESSIVE FOrMから作品を発表されているFugenn & The White Elephantsによるブレイクコアにフォーカスしたシングル。
去年、直接ご本人からこのシングルに収録されている曲のデモを送って頂いたのが始まりであった。Fugenn & The White Elephantsの名前は勿論知っていたので、自分のレーベルにコンタクトを取ってくれて嬉しかったのを覚えている。そして、デモのクオリティの高さに驚愕した。
World's End Girlfriend『Dream's End Come True』とSquarepusher『Go Plastic』と並ぶ歪みの美学。美しいメロディが爆音ノイズとエモーショナルにぶつかり合って生まれる生きた電子音楽。まるで小惑星の誕生をその目で見るような感動と恐怖が味わえる素晴らしい曲である。
この2曲は間違いなく、ブレイクコアだ。

Hitori Tori - If Not Now Then When

カナダのブレイクコア/アシッドコア・アーティストHitori Toriのフルアルバム。
2018年にMurder Channel Talk Showに出演して貰ったのをキッカケに、ダークでノイズな要素のあるアルバムを作ろうという話になり、このアルバムが誕生した。
ヒプノティックな電子音と抽象的なメロディ、速度感が狂うようなビートが合わさり、喜怒哀楽のどれでもない形容できない世界観に包み込まれる。Hitori Toriの最大の武器であるアシッド・サウンドは、以前よりも更にアップデートされていて、今作ではアシッド・サウンドの概念そのものを広げ始めている。何処となくであるが、同じくカナダのデヴィッド・クローネンバーグ監督による『Maps to the Stars』に近い印象を個人的に受けた。Venetian Snaresの不気味な電子音の世界とは違った、独特な音質や構成は様々なタイプのリスナーに受け入れられるはずだ。
今作はアルバムという形だからこそ表現出来たものがあるので、リスナーの皆さんには出来るだけ全曲を通して聴いて頂きたい。最も純粋なアシッド・ミュージックの一つであり、ブレイクコアが広げた電子音楽のその先がここでは展開されている。

Numb'n'dub - Old Skool Tycoon Killah

大阪のNumb'n'dubが叩きつけてきたブレイクコア魂全開のシングル。
2000年代のブレイクコア・クラシックから拝借したビートがパンキッシュな手法とメンタリティによって切り刻まれ、新たなグルーブを授けられたブレイクコアの為のブレイクコア。
リミックスにはRaxyor&Khaoz Engineによるマッスルなハードコア+ブレイクコアのハイブリッド・リミックスを収録。このリミックスとの対比で更にオリジナルの凄みが感じられるだろう。noteにてこのシングルが生まれた背景について詳しく書いているので、興味のある方は読んでみて欲しい。

去年は以上の素晴らしい作品をMurder Channelからリリースすることが出来た。
自分のレーベルはストリーミングサービスでは利用出来ないようになっており、Bandcampでしか購入出来ない。なので、直接お金を受け取って作品をご提供させて頂いていることになるのだが、その価値は十分にあると思っている。いずれはストリーミングサービスでも聴けるようにするかもしれないが、一部の作品を除いて、今後もBandcampをメインに展開させていくつもりだ。リスナーの皆さんには手間を掛けさせてしまって申し訳ない。だが、他では体験出来ない経験を今後も提供出来るようにしていくので見守って貰えたら幸いだ。

アーティストが曲を作り、デザイナーと意見を交わしてジャケットを作り、マスタリングエンジニアに依頼を掛けて曲を更に良く仕上げていく。一つ一つに大事な時間と予算が使われていて、どの作業にも責任がある。こういった過程を得て生まれた作品はどれも愛おしく、どれも平等に誇らしい。
改めて、この記事を書き終えて自分のレーベルには素晴らしい人々が関わってくれており、尊敬出来るリスナーに支えられているのを感じた。

今年は新しいアーティストとの作品も控えており、以前作品をリリースしてくれたアーティストが再び素晴らしい音楽を作り上げて戻って来たりしてくれている。
そして、Murder Channelとしては初となる本の製作を進めている。かなり濃い内容になっており、マニアの為のマニアな本になりそうだ。沢山の時間を使った分、歴史的価値の高い資料と証言が集まっている。今年上半期中には出版出来るように準備中なので、こちらも楽しみにしていて欲しい。

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