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今更UNFORGIVENとEve, Psyche & The Bluebeard's wifeの話

 EASYの時代だというのに今更UNFORGIVENとEve, Psyche & The Bluebeard's wifeの話をしてみようと思います。理由は特にありません。

 UNFORGIVENとEve以下略の二曲は、曲のテーマに類似する部分があります。どちらの曲も「禁じられたことへ踏み出す」者たちの歌です。ただ根本の問題、「誰を対象としているか?」の点でやっぱり大きく異なると思うのです。

 なおこれから述べることはすでに語りつくされたことかもしれません。まあ二番煎じだろうと私はまだ煎じておりませんので……の意地で書かせていただきます。

UNFORGIVEN

 UNFORGIVENのフックはこう。

나랑 저 너머 같이 가자(超えていこう 共に)
my "unforgiven girls"
나랑 선 넘어 같이 가자(一線を越え こっち)
my "unforgiven boys"

 my "unforgiven girls" とmy "unforgiven boys"というように、この曲では性別を限定していません。女性、男性、そしておそらくはそのどちらにも当てはまらない人々、すべての性別の人に語りかけています(明言されていませんが私はそのように解釈しています)。

 第四世代ガールクラッシュの代表を担うLE SSERAFIM。彼女たちが「一緒に行こう」と呼びかけるのは女性だけではない。私はこの歌詞を見たとき、とても「いい」と思いました。

 「ガールクラッシュ」は女性だけのもの。自分の中にそういった先入観があったことに、私はこの歌詞を見て初めて気づきました。

 ガールクラッシュは女性のものなんて決められていないんだ。ガールクラッシュは男性をも巻き込むものなんだ。それはとても新しい発見でした。LE SSERAFIMのファンには男性も多いので、彼らの存在を透明にしないこの歌詞はとても「いい」と思えたのです。


Eve, Psyche & The Bluebeard's wife

 一方で。Eve~の最終フックは対照的です。

Girl wanna have fun
Girl wanna have fun
Get it like boom-boom-boom
Get it like boom-boom-boom

 ここでは、一貫して呼びかける対象が"girl"に限定されています。二回同じ歌詞を繰り返しているのにどちらもgirlなわけですから、ここには明確な意味があるはずです。

 そもそも、タイトルの「イヴ」「プシュケ」「青髭の妻」とは何なのか。すでに知っている方も多いとは思いますが、これらはすべて伝説上の女性の名です。彼女たちは物語の中で、「食べてはいけない」「見てはいけない」「開けてはいけない」とされた禁を好奇心から破り、苦境に立たされることになります。タイトルの時点で女性の名前が並べられているんです。

 というわけで、私はこの曲はUNFORGIVENとは異なり、はっきりと女性だけを対象とした歌だと思っています。

 UNFORGIVENには「古い踏襲」という歌詞があります。UNFORGIVENで"girls"や"boys"が反逆するのは、主にこの「踏襲」なわけです。「これはしてはいけない、なぜならそんなことをした人はいなかったから」「あれはしてはいけない、なぜなら昔からそう決められているから」この古い価値観の前には性別は関係がなく、女も男も等しく反逆の呼びかけのもとにいました。

 一方でEve~において、"girl"が反旗を翻すのは「男性や権威による抑圧」なのではないかと思います。というのもイヴ、プシュケ、青髭の妻三人に「これをするな」と命令したのは、すべて男性か神だからです。

 イヴに「知恵の実を食べてはならない」といったのは神ヤハウェでした。この神は性別を持たないともされますが、父とも呼ばれ、一般的に男性としてイメージされます。

 プシュケに「私の姿を見てはならない」と言ったのは、夫である男神エロスでした。またそののち、「この箱を開けてはならない」と言ってプシュケに箱を渡したのはペルセポネという女性ではありますが、これもまた神です。

 そして青髭の妻に「この部屋に入ってはならない」と言ったのは、彼女の夫である青髭で、もちろん男性です。

 つまり、この曲は神や父、夫から抑圧されている女性、すなわち家父長制の犠牲になっている女性たちの名をタイトルに持つわけです。そういったわけで、この曲で歌われているのは「男性や権威による抑圧」に対する反逆なのではないかと思うのです。

 男性ももちろん権威からの抑圧に苦しむことはあると思います。しかし家父長制の犠牲になってきたのは、歴史的に見てやはり女性です。「人形になれ」と言われ主体性を奪われてきたのは、やはり女性なのです。

 ですからこの曲は、家父長制の下で主体性を奪われてきた女性が自らの好奇心に従い、思うままに生きることをうながしているのだと思います。

 そのため、"Girl wanna have fun"と言うとき、そこにBoyの入り込む余地はないのです。Boyだって楽しみたい、と思うかもしれませんが、Boyは今まで十分に楽しんできたのです。これは楽しみを奪われてきた女性のための曲です。


まとめ

 というわけで、UNFORGIVENとEve~は似たようなテーマを扱っているように見えますが、その根本が大きく異なっているのではないか、という話でした。

 性別に関係なく「許されない道を選ぶこと」を呼びかけるUNFORGIVENももちろん素晴らしいですが、女性の解放を歌ったEve~も今の世界でとても重要な曲だと思います。このどちらもが同じアルバムに収録されていることにとても意味を感じますし、このどちらもを歌うLE SSERAFIMが好きです。

 あとパンドラじゃなくてプシュケなところがいいな~!!とか書きたいことはほかにもあるのですが、それはまた近いうちに。

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