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# 56 園芸業界の情報 in NY。Plant-O-Rama レポート(2)。 Javits Center編

こんにちは。前回に引き続き、ニューヨークで1月25日に行われたバーチャル・シンポジウムのレポートです。
講演の部分の続きになります。今回は、見本市などで知られるジェヴィッツ・センターのルーフトップ・ファーム最新情報と現場の声をお届けします。

ジェヴィッツ・センターは、サステイナビリティのリーダー

今年(2022年)注目のルーフトップ・ファーム(屋上農園)は、ニューヨーク州が巨額の予算を投じて拡張した、ジェヴィッツ・コンヴェンション・センター (Javits Convention Center, 通称 ジェヴィッツ・センター)の屋根の上にあり、6月頃お披露目予定です。
ジェヴィッツ・センターは、日本でいう幕張メッセのような役割を担っており、国際ボートショー、コミックコンベンションなど、たくさんの商業イベントのための会場として有名です。ニューヨーク市、ミッドタウンの西側に位置しています(下の地図参照)。

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キラキラしたガラスと金属の建物で、あまりグリーン関係の人に縁がなさそうな気がするのですが、実は。。。
既存の建物の屋根の部分は、2014年からグリーン・ルーフ。屋根の温度を下げてくれ、環境に優しい。ミツバチの巣箱もあります。野鳥の観察、調査も行われています。
とはいえ、2cmくらいの浅い土にシーダム(sedum)をグラウンド・カバーとして植えてあるだけの、上から見ると、人工芝のような感じです。

ビル拡張計画によって新たなルーフトップ・ファームの誕生


2018年に始まった今回のプロジェクトでは、新たに拡張された建物(北の部分)の屋根で野菜を作ることが、サステイナビリティの一環として重要視され、莫大な予算が組まれました。

このプロジェクトのチームの一員として、ルーフトップ・ファームのデザインに携わったのが、「ブルックリン・グレンジ (Brooklyn Grange)」。
12年前に設立されたこの会社は、ブルックリンを中心に、街を緑化するデザイン、施工、管理を主に行っています。得意分野は、ルーフトップ・ファーム。屋根の上の農場です、それも大規模な。

写真を提供できないのが残念ですが、スケールとイメージがお分かりになるかと思いますので ブルックリン・グレンジのサイト の最初のページの動画だけでもご覧になってみてください。

今回は、この会社の共同創立者である、グウェン・シャンツ(Gwen Schantz) さんと、プロジェクトマネージャーの、ウィル・アクセルロッド(Will Axelrod)さんから、ルーフトップ・ファーム(以下ファーム)のお話を聴くことができました。まだジェヴィッツ・センターのウェブサイトにも載っていない、最新の情報と現場の声です。
(「  」は、お二人のお話です)

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(青緑で示された部分が、新しく拡張された今回のプロジェクトです。南北2ブロック=38m、東西1ブロック=30m の広さ!
モスグリーンに見えるのは既存のグリーンルーフ。グウェンさん〈写真右上〉のプレゼンテーションより)

ルーフトップ・ファームの全体像

新たなルーフトップエリアは、大きく4つのエリアに分かれています。

1.  ベジタブルファーム(農場, 約2790 ㎡) +  グリーンハウス (温室, 約325 ㎡)
2. オーチャード (果樹園, 約930 ㎡)
3. ネイティブ・メドウ(地元で育つ植物を中心とした、草原風のガーデン, 370 ㎡)
4. イベントエリア (可動式コンテイナーでのディスプレイ)

面積から見ても、農場が一番重要だというのがわかります。
イベントや来場者1万人に提供できる食事分の野菜が収穫できる予定だそうです。

設計の段階からルーフトップ・ファームを想定して作られたのが幸いでした。通常の建物の構造なら、重量の関係で、土の深さは30cmが限度のところ、46cm以上の深さを可能にし、果樹園では、画期的な約1m。雨が降って飽和状態になった時の重さを 先に考えて作られた構造です。
灌水のために、水をリサイクルするシステムも最初からデザインされています。
地下に114万リットルの水を貯めることができ、その水が汲み上げられてルーフトップで使われ、また地下に戻り、を繰り返し、水を無駄なく使えるというものです(おそらくフィルターなどを使って浄水されているはずです)。

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(完成予想図。左側にファームと温室、右側手前から、メドウガーデン、イベントエリア、オーチャード。グエンさんのプレゼンテーションより)

1. ベジタブルファーム(農場)

施工時、土は、特殊なトラックを使ってパイプで屋上まで吸い上げ、「まるでホースで水やりするみたいに楽でした」とのこと。その土には、ニューヨーク市のコンポスト活動(注1)で作られた堆肥も入っているそうです。
2021年秋から野菜のトライアル開始。アブラナ科系の野菜やレタスなどは例年より暖かい気候も手伝ってうまく育ったようです。「何でも普通に育ちますが、トウモロコシのような背の高い野菜は、強風で倒れるから選びません」。強風対策に重点が置かれていることがわかります。
「ソーラーパネルは、設置すると野菜に光が届かないので、ここにはありません」。

(注1)compost project:  ニューヨーク市が提供する蓋つきのバケツに、台所の生ゴミを入れておくと、定期的に清掃局が収集に来る。集めた生ゴミでコンポスト(堆肥)を作るプログラム。市内、一戸建て家屋の多い地区の一部で行われています。

2. オーチャード(果樹園)の植栽の経過


「こんな西風の強いところにリンゴの木を植えるなんて、大丈夫かと心配がる人々もいますが、まずはチャレンジです」。ニューヨーク州の別名=ビッグ・アップル、とくればメインはリンゴで、5品種32本。それに梨2品種を6本。
2021年の3月、まだ寒い時期に38本の果樹を植樹。

幸いに土の深さを1メートル近く取れたことはよかったのですが、強風の対策は万全にしないといけません。「万が一にも木が吹っ飛んで、すぐ横を走るハイウエイに落っこちたら大変ですから」。455 kgある重しを2m以上ある1本の木に対して3つ、ケーブルで固定することに。「本当は、根っこを巻いているバーラップ(麻布)とワイヤーバスケットを取り除きたかったけれど」そこは上層部とのやりとりで、妥協しなければならなかったそうです。

思ったよりよく育ち、秋10月、60個の果実が収穫できたそう。ただし「ストレスを感じた木が早く実をつけようとした可能性がある、という見識者からの指摘もあります」。今年どうなるか、です。
「一番風の強いところにあった木はうまく育たなかったので、防風対策も兼ね、ネイティブで実のなる灌木などを足していってます」。
木の回りの地面も「最初は、緑肥の目的だけだったクローバーをそのまま育て、グリーンマルチとしての効果も得ることにしました」。アメリカ人は、失敗をおそれず、次の策へと進むスピードが早いです。話の持っていき方もうまいです。

3. ネイティブ植物のメドウ風ガーデン

こちらの植栽デザインは、別会社のガーデンデザイナーによるものだそうですが、植物をできるだけネイティブにしているようで、1シーズンでもよく育っています。メインテナンスは、ブルックリン・グレンジで行うそうです(スタッフ募集中だそうです)。

4. 可動式コンテイナー

イベントごとに、セッティングを変えるのに便利だということで、導入されたのが、可動式のコンテイナー(プランター)。その数なんと115!
ここでのチャレンジは、休憩エリアの日除け棚の下の「日陰」、なおかつ「強風」に耐えうる植物選び。「実際こういう状況で育っている植物は あまりないので」
とりあえず、「ネイティブ植物を中心に45種類選んで植えてみました。様子を見ながら変更していきます。海岸に自生するネイティブツリーのピッチパイン(松)も植えてます。風で倒れなければいいですね」。トライ・アンド・エラーの感じ、とってもアメリカンです。
コンテイナーの底には、排水のため、無駄な土を入れずに、近くの会社から集めたフォームなどの梱包材を再利用。「問題は、重心が上にあるために風で倒れる可能性があるんです、実際倒れました(笑)」。「移動用なので、灌水装置が付けられず、手作業の水やり。これもチャレンジです」。

また長くなりましたので、この続きは次回とさせていただきます。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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(クリスマスデコレーションの後に残った針葉樹の枝で グランドをカバーし、寒さ対策。ニューヨークはまだまだ寒い日が続きます)


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