私たちは、人生のすべての「瞬間」の総和である。
「好きな言葉は何ですか?」と訊かれたら、間違いなくこの言葉を答える。
"We are the sum of all the moments of our lives."
私たちは、人生のすべての「瞬間」の総和である。
映画「Before Sunset」のなかで、イーサン・ホーク演じる主人公がいった言葉。その言葉を聞いた時、ハッとしてすぐメモをした。
リチャード・リンクレイター監督のこのビフォア3部作が大好きで、それぞれ3回ずつくらい見ている。イーサン・ホークとジュリー・デルピーの掛け合いが好きだ。見ていてまったく飽きない。
下がり眉でなよっとした頼りなげな男と、何にでも自分の意見をはっきり言う(ややめんどくさい)女のやりとりの、いったい何がどうおもしろいのか。その話はまた今度たっぷりと。
で。
どうしてこの言葉がそんなに刺さったのか。
そのときは「永遠に忘れられないような恋をした」から、とか「一瞬、一瞬を大切にしよう」みたいなうっすい解釈をしていたのだけれど、この動画に出会ったときにわかった。
この動画、今この時期だからこそ、ぜひ見て欲しい。
たった4分の動画のなかに、数えきれないほどの「瞬間」が出てくる。その、それぞれの瞬間の中に、小さく折りたたまれるようにストーリーが詰まっている。それがびっくり箱のように、見ている人間にせまってくる。
たしかに自分のことを振り返ってみると、思い出の残り方というのは、意外と何気ないシーンとか、スナップショットとして覚えているものも多い。「出来事」や「体験」というまあまあ大きなかたまりやストーリーで残っている思い出であっても、そのハイライトは「瞬間」だ。
たとえば、
池に落ちた同級生が救出されて、救急隊員に胸を押されピュッと噴き出した水
学校のプールの下(探検基地)の乾いた土の匂い
怖いのについつい通ってしまううっそうとした雑木林
母が入院していた病院の、ぼてっとしたグレーの床の色
めちゃめちゃ練習したあとの水泳大会で、飛び込む直前の緊張
バレー部の大事な試合でピンチサーバーとして出たときに失敗したサーブ
母の火葬のとき、火葬場の煙突からのぼっていた蒼い煙
高校の世界史の先生の仮面ライダーみたいな黒い眼鏡
センター試験を受けた日の赤門
浪人生のとき、マンションの屋上で友達と一緒にみた星空
成人式の日に降っていたみぞれまじりの雨
英検の試験で、炭酸水を床に落としてぷしゅーっと飛び散らしたこと
妊娠中、赤ちゃんが足を伸ばしてお腹の皮がひっぱられる感じ
子どもが「ママへ」と拾ってきてくれた、桜の花がついた小枝
休日出勤が何カ月も続いたあとに行ったバーベキューの、空の広さと空気のさわやかさ
飼い猫のジャックが、家族みんなの前で息を引き取ったその瞬間
屋久島の山の上で見た岩の巨大さ
旭山動物園で見た、消防車のホースから出る水のように空間に放出されたカバのウ〇チ
論文を書き終わったときの心のなかの拍手
から揚げの味つけと揚げ方が、今までで一番うまくいったとき
ほんの一部だけれど、これらの瞬間には全部、自分という人間のこれまでの悲喜こもごもの瞬間が、数珠つなぎにつながっているのだ。
どの瞬間も、過去にも未来にもつながっている。
それはつまり、時空を超えた世界への扉が、あらゆる瞬間瞬間にあるということだ。
痛みも、悲しみも、そういう瞬間があったから、今の自分がある。怪我をしても、時間がたつとかさぶたができて前より皮膚が分厚くなるように、そういった苦しい経験が、自分を分厚くしてくれた。
今思い出しても涙が出る、うれしい瞬間もある。その瞬間を思い出すたびに、幸せや感謝や喜びを何度でも運んでくれる。
以前の投稿で紹介した、プラユキ・ナラテボー師の言葉をここでもまた思い出す。
今は過去の集大成。今を善く生きられるとき、自ずと過去の一切は今の善き生のための「因」となる。同時に、未来とは今の「果」。ゆえに、今を善く生きられるとき、自ずとその「因」により、未来にも善き生という「果」が待ち受ける。「今を善く生きる」ことによって、過去と未来の一切が善き生に染め上げられる。
『自由に生きる: よき縁となし、よき縁となる。抜苦与楽の実践哲学』から
今日のこの投稿は、過去の自分の「瞬間」の「果」であり、今日のこの投稿は、未来の自分の「因」となる。
ささやかな毎日が、人生を善きものに染め上げるように、自分に起こることをよき「縁」となし、そして他者のよき「縁」になれればと思う。
このささやかな投稿を、ここまで読んでくれたあなたが、今、私の人生の瞬間に、ほんのすこしでも関わってくれたことに心から感謝します。
あなたの生に、さらなる善き瞬間がおとずれますように。
過去と未来の一切が、より善い生に染まりますように。
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