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メイキング|「Re:tune」リメイク #20 推敲:起【1】〜【3】①

3.1 起:物語の方向性についての提示

 それでは、修正する部分のみピックアップしながら見ていきましょう。

【1】

 きっとあの時から、戻れなかったんだと思う。
 欲が出たから、ばちが当たったのかもしれない。
 もしも許されるなら。
 どうか全てを、無かったことに。

【推敲前】

 ここの導入は、[彼女]視点での物語の始まりと終わりを描くことにしましょう。
 ①夢の中で[共通しない選択肢]を見てしまうこと、②夢と現実との差を見て違和感を抱いてしまうこと、③それらの積み重ねで世界から外れていくような気がすること、④[僕]との会話によりひとりぼっちを回避できるかもしれないという期待を、それぞれ言葉にしていきます。似た表現をするときも、同じフレーズや漢字が重ならないように注意します。同時に、性別を限定しないように調整しましょう。後から読んだときに、「彼女の言葉だったのか」と思ってもらえるようにしたいです。

 たまに見る夢は、どこか変で。
 昔の出来事を追体験していたかと思ったら、全然違う結末になってしまったり。夢で見た内容が現実に起こり始めて、その後の展開を思い出していたら全く別のことが起きたり。
 それはきっと、間違ってはいないけど、正しくもないことで。
 目が覚めるたびに、自分がどこにいるのか分からなくなってしまう。
 もうこのまま居場所を無くしてしまうのかな、と諦めた時だった。

 夕暮れの教室、光に包まれて窓の外も見えない中で、あの人とお喋りをする夢だった。ひとりぼっちだった自分を、この世界に繋ぎ止めてくれるような気がした。

 ああ、どうか。
 この光景が、本当のことになりますように。

【推敲後】


琥珀色に満たされた教室は、透き通る宝石のように眩しかった。夕陽に照らされ、宙に舞った塵がきらきらと光る。

リメイク本文

 この「宙を舞う塵」の描写も手を加えるとくどくなってしまいそうなので、このままにしておきましょう。

【2】

 彼女は座ったまま、椅子を軽く引いてこちらに向き直る。整った顔立ちは決して驕ることなく、しかし自信に満ち溢れていた。廊下ですれ違えばほとんどの人は振り返ってしまうほどにきれいで、でも高嶺の花ということもなくクラスメイトにも分け隔てなく接してくれる。みなの憧れであり、夢だった。

【推敲前】

 やはり少し気になるので彼女の描写は直しましょう。「綺麗で優等生で高嶺の花だけど、接しやすいし雰囲気も柔らかい人」と言うことを書きたいです。

 彼女は座ったまま、椅子を軽く引いてこちらに向き直る。学年を問わず認識されていて性別に関わらず憧れの象徴であり、成績も良くて先生からの評価も高い人。それなのに、クラスメイトや先輩、後輩にも分け隔てなく接してくれる、優しい人だった。

【推敲後】

【3】

 このまま聞こえなかったふりをして帰ってしまおうか。もしかしたら彼女の気まぐれかもしれないし。クラスの中でもひとりぼっちの僕と関わっても彼女には何の得もないし。僕が無視したことだって、彼女はきっと気にしない。

【推敲前】

 文の流れがしっくりこないので調整します。

 このまま聞こえなかったふりをして帰ってしまおうか。もしかしたら彼女の気まぐれかもしれないし。クラスの中でもひとりぼっちの僕と関わっても彼女には何の得もないし。僕が無視したとしても、彼女はきっと気にしない。

【推敲後】


 でも、普段絶対に関われない彼女との特別な時間を、過ごしてみてもいいんじゃないか。誰に自慢するわけでもないけれど、しばらくは僕の心の支えになるかもしれないけど、そんな邪な考えで彼女に関わってもいいのだろうか。

【推敲前】

 「~けれど」と「~けど」のように似た言葉が重なっているため、微調整します。

 でも、普段絶対に関われない彼女との特別な時間を過ごしてみてもいいんじゃないか。誰に自慢するわけでもないけれど、しばらくは僕の心の支えになるかもしれないし。でも、そんな邪な考えで彼女に関わってもいいのだろうか。

【推敲後】


 彼女は顔を輝かせ、胸元で手をぱちぱちと音なく叩いた。どうやら彼女は僕がそのまま帰ると思っていたようで、思わぬ反応にすごく居心地が悪くなる。もうすべてを捨てて教室を飛び出しても、許されるんじゃないか?

【推敲前】

 この時点で[彼女]はすでに[僕]が話をするために教室に残ってくれることは分かっているため、「僕がそのまま帰ると思っていたようで」という表記は不適です。そのままセリフに入る前にもう少し地の文を入れておきたいので、もう少し文章を追加します。「慣れない出来事やリアクションに対する歪な対応」と言うニュアンスを加えたいです。

 彼女は顔を輝かせ、胸元で手をぱちぱちと音なく叩いた。僕もどうしたらいいか分からず、ひとまず笑顔を作ってみたものの、なんだかぎこちなくなってしまう。

【推敲後】


「ありがとね、残ってくれて。なかなかこういう話を聞いてくれる人、いなくって」
 そう言って立ち上がり、隣の席の椅子を引き出した。改めて席につき、手招きをする。

【推敲前】

 [彼女]が[僕]をお話しに誘う際、椅子を引き出すために立ち上がるのは少し身体の動きとして遠くなってしまうかな、と思うので細部を修正していきましょう。その後も、同じ席に座ることが分かるように調整します。

「ありがとね、残ってくれて。なかなかこういう話を聞いてくれる人、いなくって」
 そう言って腰を上げ、隣の席の椅子を引き出した。元いた席につき、手招きをする。

【推敲後】


「でも、その……。キミが見てない部分を僕が見ていたら、それは存在することにならないかな」
「たしかに」
「僕だけじゃなくて、キミと一緒によくいるクラスメイトたちが見ている視界を重ねていけば、ひとつの大きな世界にならないかな」

【推敲前】

[僕]の[彼女]への呼び方を修正します。

「でも、その……。きみが見てない部分を僕が見ていたら、それは存在することにならないかな」
「たしかに」
「僕だけじゃなくて、きみと一緒によくいるクラスメイトたちが見ている視界を重ねていけば、ひとつの大きな世界にならないかな」

【推敲後】


 眉間に皺を寄せて考え込む彼女は、それだけで絵になるようだった。腕を組んだり、首を捻ったりしてても、嫌な感じがしない。 

【推敲前】

 この文章の意図がわからないので修正します。[彼女]が思考をしている間の時間を表現しつつ、普段は見られないその姿をありがたがる[僕]という構図にしましょうか。

 腕を組んだり、首を捻ったりして考え込む彼女の姿を見るのは新鮮だった。普段は授業で指名されてもスラスラ答えるのに、今はそうもいかないらしい。困らせてしまったのではないかと言う一抹の不安は感じつつも、言葉が出てくるのを待つ。

【推敲後】


「でもやっぱり、それは私の世界じゃないと思う」
「そ、そっか」

【推敲前】

 いくら緊張するとはいえ、ずっとつっかえるのも文章としては合わないように思うので普通に話してもらいます。

「でもやっぱり、それは私の世界じゃないと思う」
「そっか」

【推敲後】


「うん。だって、他の人が見ていたとしても、それは私の視界ではないし、私自身の実感としてあるわけではないし。あなたの言ってることは多分正しいけど、視点が違うと思う」
 神様の視点じゃないかな、と彼女は呟いた。
「神様の視点──」
「まぁ、なんの神様かは分からないけどね」

【推敲前】

 「視点」と言う単語が重なってしまっているため工夫しましょう。ここで示したいのは「自分に見えてないところはやっぱり自分の世界とは感じられない」「見られている部分も世界に含めるのは大きく括りすぎているのでは?」の2点です。その後も「神様」が何度も出ているため併せて修正していきます。今回のお話ではこの「神様」はあまり重要ではないため、別の内容に置き換えた方がいいかもしれませんね。次のステップに繋がるように上手く調整していきます。

「うん。だって、他の人が見ていたとしても、それは私の視界ではないし、私自身の実感としてあるわけではないし。キミの言っていることは間違ってないかもしれないけど、そうなると途轍もなく広くならないかな」
 僕たちのことをクラスメイトが、それをそれぞれの家族が、さらにそれを街の人たちが見ている。彼女は指を折りながら、一人ひとりが視界を重ねていく様子を考えていた。
「いつか地球全体を覆っちゃいそうだね」

【推敲後】


 そんな笑い方もするんだ、と驚いていると、彼女はおもむろに立ち上がった。教卓の中からチョークを取り出し、黒板に向かう。
 かつ、こつ、と文字が浮かぶたびに白い欠片が落ちていく。外からはすっかり生徒の声が消え、代わりに遠くから電車の音が響いてくる。教室棟からも人の気配が薄れ、しん、とした沈黙で満たされていた。
 よし、という彼女の言葉に顔をあげると、黒板にはいろんな図と言葉が書き連ねてあった。
「さっきのキミの言ってた視界の重なりの話、この世界を形作るものとしては正しいと思う」

【推敲前】

 文章の流れとリズムが整うように調整していきます。

 そんな笑い方もするんだ、と驚いていると、彼女はおもむろに立ち上がる。教卓の中からチョークを取り出し、黒板に向かった。かつ、こつ、と文字が浮かぶたびに白い欠片が落ちていく。
 外からはすっかり生徒の声が消え、代わりに遠くから電車の音が響いてくる。教室棟からも人の気配が薄れ、しん、とした沈黙で満たされていた。
 よし、という彼女の言葉に顔をあげると、黒板にはいろんな図と言葉が書き連ねてあった。
「さっきのキミの言ってた視界の重なりの話、この世界を形作るものとしてはやっぱり正しいと思う」

【推敲後】

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