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メイキング|「Re:tune」リメイク #24 推敲:転【1】①

3.3 転:孤立する世界

【1】

 ここは教室のようだった。裏の黒板には円が重なったような絵が描いてある。ところどころ掠れていてよく読めない。窓の外は眩しくて見えないが、廊下や中庭には人の影がなかった。声もしない。教室の時計も止まっていて、まるで作られたセットのようだった。

【推敲前】

 このあと校内探検をしてあの夕方の教室にたどり着くようにするのであれば、スタートの教室は普通の状態にしておく必要があります。視線の流れとして壁面・前後の黒板の描写入れたいので、内容だけを調整します。

 ここは教室のようだった。裏の黒板には何かの落書きが描かれている。冬季講習のチラシらしいものも貼ってあるようだが、どちらも細かいところがよく読めない。窓の外は眩しくて見えないが、廊下や中庭には人の影がなかった。声もしない。教室の時計も止まっていて、まるで作られたセットのようだった。

【推敲後】


僕が歩いたり窓を引く音はするのに、車や、遠くを走る電車の音は聞こえない。たまに全ての音がなくなる夢を見ることがあるけど、今回はそういう類のものではないようだった。ただ、人は誰もいないけど。

【推敲前】

 「音」と言う文字が重なっているため調整します。でも全てを変えるのは難しいので、2つ目のみ別の形に直しましょう。
 また、最後の文もこのあと「まさか自分以外に人がいるとは思わなかった」と驚けるように無人であることを推したかったのでしょうが、ちょっと浮いちゃってますね。消しちゃいましょう。

僕が歩いたり窓を引く音はするのに、車や、遠くを走る電車の様子は聞こえない。たまに全ての音がなくなる夢を見ることがあるけど、今回はそういう類のものではないようだった。

【推敲後】


 たまには他のクラスの様子を見てみるのも面白いかもしれない。担任に頼まれてプリントを運ぶ時くらいしか別の教室に入ることはないし。夢の中とはいえこれだけ精密なのだから、いい感じに再現されてるかもしれない。
 1番奥の教室を目指して廊下を進んでいく。教室越しに差し込む夕陽が柔らかく足元を照らしていた。教室のドアにつけられた窓から漏れてくる光のパネルを、そっと踏んでみる。足にかかる陽射しがほんのり暖かい。
 ひとつ目の教室の扉を開いて中を覗き込む。掲示物や黒板、ロッカーの中身などは特に変わり映えするものではなかった。
「(意外とこんなものなのかな)」
 もう少し個性が出るものかと思ったけど。でも確かに、僕らのクラスも特別面白いものがあるわけでもなかった。

【推敲前】

 元々の性質としてしらみ潰しに探索するので、別の教室に行く動機づけはそこまで重要ではないですよね。精密さについてもあまり必要な情報とは思えないですし。ここはカットして、「とりあえず」程度にとどめておきましょうか。

 とりあえず、一番奥の教室を目指して廊下を進んでいく。教室越しに差し込む夕陽が柔らかく足元を照らしていた。教室のドアにつけられた窓から漏れてくる光のパネルを、そっと踏んでみる。足にかかる陽射しがほんのり暖かい。
 ひとつ目の教室の扉を開いて中を覗き込む。掲示物や黒板、ロッカーの中身などは特に変わり映えするものではなかった。
「(意外とこんなものなのかな)」
 もう少しクラスごとに個性が出るものかと思ったけど。でも確かに、僕らのクラスも特別面白いものがあるわけでもなかった。

【推敲後】


 どうしてあんな寂しいことを言ったのだろう。喫茶店のマスターにも相談していたようだけど、そんなに孤独だったのだろうか。周りにはたくさん人がいたのに、その誰とも繋がりを感じられずにいたのだろうか。彼女だけが世界の重なりから弾かれて、ひとりぼっちになってしまったのだろうか。
 そのまま、どこか遠くに行ってしまったらどうしよう。誰にも気づかれることもなく、世界から取り残されてしまったら。重なりがなくなってしまったら、それこそずっと独りになってしまう。

【推敲前】

 言いたいことが先行してしまって急なイメージがあるので、少し言葉を足していきます。

 どうしてあんな寂しいことを言ったのだろう。喫茶店のマスターにも相談していたようだけど、そんなに孤独だったのだろうか。周りにはたくさん人がいたのに、その誰とも繋がりを感じられずにいたのだろうか。彼女だけが世界の重なりから弾かれて、ひとりぼっちになってしまったのだろうか。
 ふと、嫌なイメージが頭をよぎる。このまま彼女が誰からも引き留められず、気付かれることもなくなってしまったらどうしよう。世界から取り残され、手の届かない遠くの場所に行ってしまったら。重なりがなくなってしまったら、それこそずっと独りになってしまう。

【推敲後】


 彼女の話を聞いて、マスターにも教えてもらったけど、やはり僕は世界についてはよく分からないままだった。辛うじて『世界は重なり合っていくもの』という意見は出せたけど、自分の中で温めていた考えというわけではないし。なにより実感がなかった。
「でも、あの時のーー」

【推敲前】

 ひとつ前の段落であんなに心配してたのにケロッと別のことを考え始めてるので、少しだけ文章を挟みましょう。この時点ではまだ「重なり合う世界」の考え方なので、個別の世界(AおよびB)同士が重ならなかったとしても、それらを内包する全体集合Uの中には含まれているから孤立はしないよね、というように。

図10 ベン図

「(いや、でも、そんなことはきっと起こらないよね)」
 いくら彼女が誰かと重ならなくなったとしても、彼女自身はその世界自体には含まれているのだし。時間が経てば、いずれ誰かに見つけてもらえるはずだ。
 彼女の話を聞いて、マスターにも教えてもらったけど、それでも僕は世界についてはよく分からないままだった。辛うじて『世界は重なり合っていくもの』という意見は出せたけど、自分の中で温めていた考えというわけではないし。なにより実感がなかった。
「でも、あの時の──」

【推敲後】


 ことん、と教室の外から音が聞こえた。突然の刺激に全身が強張る。今までずっと静かだったし、僕以外に音を出せるものが紛れ込んでるかもしれないと考えるととても恐ろしかった。

【推敲前】

 「誰か別の人がいるのかとびっくりした」と言うことを書きたいのですが上手く伝わらないので調整します。

 ことん、と教室の外から音が聞こえた。突然の刺激に全身が強張る。この夢の中に僕以外の存在がいたのかもしれないと思うと、とても恐ろしかった。

【推敲後】

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