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メイキング|「Re:tune」リメイク #21 推敲:起【3】②&【4】

「みんなにはちゃんと存在しててほしいし。全部が私の想像なのだとしたら、寂しい人みたいだし」
 自分でもそう思っているようだった。
「でもしっくりこないっていうのはあるんだよね。周りの期待とか一般的な考え方とかに反抗したい、というよりは、本当にそれでいいのかな、みたいな」

【推敲前】

 [彼女]のセリフが長くなってしまわないよう地の文を挟んで調整していましたが、心のツッコミがちょっと煩わしいので[僕]のセリフに変えます。
 その後の[彼女]のセリフも少し分かりづらくなっているので言葉を変えます。

「みんなにはちゃんと存在しててほしいし。全部が私の想像なのだとしたら、寂しい人みたいだし」
「うん」
「でもしっくりこないっていうのはあるんだよね。周りの期待とか常識とかに反抗したい、というよりは、本当にそれでいいのかな、みたいな」

【推敲後】


「だから、学校も、駅も、家も、生活してる範囲は全て知っている場所だから、自分の世界って言えるーーかな、なんて……」
 向けられた視線に耐えられず、自信がなくなってしまって声が小さくなってしまった。集中して聞いてくれているのは分かっているけど、少し怖い。

【推敲前】

 ダッシュがうまくつながってないので直しましょう。
 [彼女]に対する怖さを感じる必要はあまりないので、ここの表現も少し変えます。このあと彼女が少しピリッとしますが、それはイラついたり不機嫌になったからではなく、難しいことを考えるにあたって集中しているからです。

「だから、学校も、駅も、家も、生活してる範囲は全て知っている場所だから、自分の世界って言える──かな、なんて……」
 向けられた視線に耐えられず、自信がなくなってしまって声が小さくなってしまった。集中して聞いてくれているのは分かっているけど、緊張してしまう。

【推敲後】


 彼女は組んだ腕に顔を埋めて眉を顰めた。いつも穏やかそうな彼女の空気が、すこし張っているような気もする。
 僕は何も声をかけられず、ただ静かに座っていることしかできなかった。瞳を閉じて唸るひとを見守りながら、その言葉が生まれるのを待っている。

【推敲前】

 少し文章が詰まって見えるので漢字は開きましょう。
 [彼女]という言葉が重ならないように配慮したのでしょうが、より分からなくなってしまったため調整します。

 彼女は組んだ腕に顔を埋めて眉をひそめた。いつも穏やかそうな彼女の空気が、すこし張っているような気もする。
 僕は何も声をかけられず、ただ静かに座っていることしかできなかった。瞳を閉じて唸る様子を見守りながら、その言葉が生まれるのを待っている。

【推敲後】


 穏やかで、すこし冷たい声だった。こちらに歩み寄ろうとしてくれる意思は感じるけれど、どこか納得できていないような気配がある。

【推敲前】

「~けれど、どこか~」と読点を挟んで「ど」が重なりリズムが良くないので調整します。

 穏やかで、すこし冷たい声だった。こちらに歩み寄ろうとしてくれる意思は感じるけれど、うまく納得できていないような気配がある。

【推敲後】


 彼女は腕を組み、頭の中にある考えをどうにか言葉にしようと唸っている。
 チョークを持ち、描こうとして止め、また腕を持ち上げ、下ろし、と相当悩んでいるのが見てて分かる。

【推敲前】

 理由なく文末の「~る」が重なっているので修正します。

 彼女は腕を組み、頭の中にある考えをどうにか言葉にしようと唸っていた。
 チョークを持ち、描こうとして止め、また腕を持ち上げて、下ろしてを繰り返している。なかなか言葉に変換できないのだろう。それでもどうにか形にできないか、試行錯誤していた。

【推敲後】


 彼女の円の外側に属する部分を、また違う色で埋めていく。
 こうして整理してみると、彼女の言いたいことが少し分かりやすくなった気がする。

【推敲前】

 ここも文末がしっくり来ないので調整します。

 彼女の円の外側に属する部分を、また違う色で埋めていく。こうして整理してみると、彼女の言いたいことが少し分かった気がした。

【推敲後】

【4】

 僕が答えあぐねていると、彼女は困ったように肩を落とし、黒板の文字を消していった。彼女の思考の結晶が、徐々に薄れていく。
 でも不思議と、この教室の空気は嫌ではなかった。
 琥珀の色はやがて輝きを落ち着かせ、夜の色を纏っている。街にも少しずつ明かりが灯り始めていた。

【推敲前】

 この文章も終わりに近づけて書いたのでしょうが、もう少し工夫が出来そうな気がするので修正します。居心地の良さを感じた後に、最初の教室の描写との対比を入れて時間が経ったことを表現したいです。視線の順番としては「消えていく文字」→「???」→「窓の外の景色」のため、それに合わせて「???」を考えましょう。
 初めの『琥珀色に満たされた教室は、透き通る宝石のように眩しかった。夕陽に照らされ、宙に舞った塵がきらきらと光る。』の文章を上手く使っていきたいです。そうすると、何かが光によって輝き、その後に窓の外の様子を描写することで時間の推移を表現できないでしょうか。同じ言葉を使うほどリンクさせたいわけではないため、似た言葉で代用していきます。
 また、居心地の良さとしては「気まずい雰囲気ではなく、お互いの意見が尊重された温かさがあり、言葉を発しなくとも二人だけの時間は心地よい」というところを書けたらいいですね。今後の伏線として「時間がゆっくり進んでいる」といったことも書けたらいいかもしれません。このお話では[時間]については細かく語りませんが、選択肢がなくなる(=それ以上発展しなくなる)ということは「時間が進まなくなる」のと同義ですので。

 僕が答えあぐねていると、彼女は困ったように肩を落とし、黒板の文字を消していった。彼女の思考の結晶が、徐々に薄れていく。チョークの粉が風に乗ってふわふわと広がっていった。それらが光を含み、霞のように充満する。開いた窓から流れてくる風に巻かれて消えていった。
 この教室の空気はとても穏やかだった。時間はゆっくりと進み、僕と彼女しかここにはいない。見下されたり、邪険にされるようなことは全くなかった。会話のないこの瞬間も、とても大切なもののように思える。
 外を見れば、琥珀の色は薄まり重たい紺の色を纏い始めている。街もまばらに明かりがつき、夜になろうとしていた。

【推敲後】


 彼女は慌てて手を払い、ついた粉を振り落とす。小走りに自身の机にかけられた鞄を取り、中から何かを取り出した。

【推敲前】

 「に」が重複している箇所があるので調整します。

 彼女は慌てて手を払い、ついた粉を振り落とす。小走りで自身の机にかけられた鞄を取り、中から何かを取り出した。

【推敲後】


「私がアルバイトしてるお店なんだけど、マスターがこういう話好きで。あんまりお客さんも来ないし、コーヒー苦手じゃなかったら」
「あ、ありがとう」
「あ、でも、私がアルバイトしてるのは誰にも言っちゃダメだからね」
 アルバイト禁止だし、と彼女は目を細めて笑う。

【推敲前】

 「アルバイト」と言う単語が短い間隔で重なっているため、2個目を「働いてる」に変えます。また、ふたりのセリフの初めが同じ「あ、」で始まっており、緊張によるものなのか思い出したことによるものなのかが分かりづらくなってしまうため、ここも調整します。[彼女]の「あ、でも」を「そうそう」に変えます。校則に気づいて念を押すことが表現できればいいです。

「私がアルバイトしてるお店なんだけど、マスターがこういう話好きで。あんまりお客さんも来ないし、コーヒー苦手じゃなかったら」
「あ、ありがとう」
「そうそう、私が働いてるのは誰にも言っちゃダメだからね」
 アルバイト禁止だし、と彼女は目を細めて笑う。

【推敲後】


「コーヒーは好き?」
 踊り場に差し掛かったところで、彼女は僕を見上げるようにして問うた。
「あんまり飲まないけど、嫌いじゃないよ」

【推敲前】

 [僕]と[彼女]の立ち位置からも想像はできるはずですが、もう少し情報を追加してよりイメージしやすくします。

「コーヒーは好き?」
 踊り場に差し掛かったところで、先行している彼女は僕を見上げるようにして問うた。
「あんまり飲まないけど、嫌いじゃないよ」

【推敲後】


「あっ、」
 踏んでしまった踵の部分を直していると、彼女が何かに気づいたように声を上げた。階段の麓で女子が手を振っている。彼女も応えるように大きく腕を上げた。
 ここまでか。
「じゃあね。今日はありがとう」
「うん」
 彼女は小さく手を振り、階段を駆け降りていった。最後に気の利いたことを言えばよかったかな、と少し後悔が残る。

リメイク本文

 この部分はそこまで変ではないので、このままにしておきます。


 今までの生活では考えられないような日だった。彼女の話はあまり分からなかったけど、こんなに意見の交換ができたのは初めてだった。

【推敲前】

 1日がずっと特別だったわけではないため、調整します。

 今までの生活では考えられないような出来事だった。彼女の話はあまり分からなかったけど、こんなに意見の交換ができたのは初めてだった。

【推敲後】

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