見出し画像

メイキング|「Re:tune」リメイク #19 推敲:Introduction

第3章 推敲

 さて、ここからは本文の誤字・脱字の修正とともに、内容を詰めていきます。前述した通り、ここまでの文章は思い浮かんだ情景を文字に起こしただけですので、物語としてはまだ不十分です。また、ストーリーとして成立させつつ、このお話を通じて考察した結果についてもまとめる必要があります。

 このお話の目的は、世界の在り方も含め本来知り得ない情報を得てしまった際に、その存在にどのような影響を与えるのかを考察することでした。リメイクである以上その結末は「世界の孤立」と決まっていましたが、その過程がどのようなものであったかを、物語の展開とともに整理していきます。
 まず、この物語の発端となったのは1.3.2で示した通り「認識する力の強い存在が[共通しない選択肢]を認識してしまうこと」です。具体的には「[僕]が[彼女]と世界にまつわる話をする」という事象を夢を通じて見てしまうこと。それにより世界から異物と判定され、結果的に世界から孤立することになってしまいます。ですが、ここでひとつ矛盾が生じます。夢の中で[僕]の[共通しない選択肢]を見たとなっていますが、その夢を見た時点ではまだその事象は起こっていません。本来の世界では[僕]は[彼女]と話をせずに立ち去ったということですが、どうして[彼女]はまだ起きていない事象の[選ばれなかった選択肢]を認識することができたのでしょうか?
 考えられるひとつの可能性として、一種のイレギュラーが発生したことが挙げられます。時系列が前後してしまうことは時折あり、世界によって修正されるようになっていますが、[彼女]がどうしてか認識できてしまったというもの。私たちの身体を構成する細胞の中には情報が格納されたDNAが存在しますが、それらがなんらかの原因で障害されてしまうと細胞分裂やタンパク質合成に悪い影響が出てしまい、がん化してしまったり異常なタンパク質を生成してしまいます。それらを修正する酵素が存在し、正常に稼働することで私たちの身体は健康に保たれています。これに類似した事象が起きたと考えると、[未来の選ばれなかった選択肢]というのは[選ばれるかどうか分からない選択肢]、つまり[期待値の低い選択肢]と読み替えることができます。これを[彼女]が認識し、その事象が起こるタイミングで[期待値の低い選択肢]に引き寄せられるように[僕]は[彼女]と話す選択をしてしまった、というのはどうでしょうか。でも、「期待値が低い」だけではその事象が起こる可能性は少しでもあるわけで、そんな不安定な理由で[僕]を巻き込んだ孤立が起こるというのも腑に落ちません。
 もしくは、その選択の先にある「話した内容」がよくなかったというものはどうでしょう。世界にとって、その真相を知るものが存在するというのはリスクでしかなく、異物として排除するだけの理由になり得ます。ですが、これでは[僕]でも引き起こせてしまう内容ですし、[彼女]が発端となって世界から孤立するというギミックを成立させるためには、仕組みとして弱くなってしまいます。
 ここで注目したいのが、2.3.1で提示している「夢には時間の概念がない」という考え方です。これを採用することで、未来で起こるかもしれない事象を認識してもおかしくはありません。さらに「夢は[共通しない選択肢]を再生する機能を有する」ということに注目すれば、認識力の強い[彼女]が見た夢は悉く[捨てられた選択肢]であることが確定します。これらより未来の[共通しない選択肢]を見ることは正当であり、また「本来起こり得ない事象」のため世界から孤立するだけの熱量を持ち得ます。ただ、それだけでは[僕]を巻き込む理由にはならず、この物語を進めるにあたってはもう少し工夫が必要です。
 そこで、条件の解釈を少し変えてみます。「認識する力の強い存在が[共通しない選択肢]を認識してしまうこと」というギミックはそのまま、どのタイミングのことなのかを調整しましょう。冒頭で提示していたのは、リメイク前での一番の見せ場である「[僕]が[彼女]と世界にまつわる話をする」こと。ただこれだと上手くいかないことが分かったので、「もっと前から起きていること」としましょう。認識力が徐々に強まるにつれ、[彼女]は世界の[共通しない選択肢]を夢で見るようになります。それは過去/未来に限らず、自身のことだけではなく、周囲の人々についてのものも含まれます。そんな中、世界で起こる事象と自分の知っている事象に差があることを感じ、少しずつ彼女はこの世界から浮いていきます。本文中で何度か指摘される「重なりがない状態」「自分だけが置いていかれるような感覚」として自覚しますが、これがまさに世界から孤立する過程となります。このままではひとりぼっちになってしまうことを悟り、でもどうにもならないと諦めていた時に「[僕]が[彼女]と世界にまつわる話をする」という夢を見て、孤独にならないように他者を巻き込むことを計画します。
 つまりこの物語は[彼女]が世界から孤立する過程に[僕]が干渉し、孤立が完了するまでの最後の数日を[僕]目線で語るお話ということになります。こうすれば[彼女]にまつわる[共通しない選択肢]の認識方法や、[僕]との関わりに問題が発生しません。強いて言えば「どうやって[僕]が[共通しない選択肢]と同じ行動をとったのか」が分からないというところですが、これは[彼女]の願いが叶ったということにしましょうか。[彼女]が強引にあの事象を呼び出し、[僕]がそれに呼応することによって[僕]自身も同様に異物判定されるため、[彼女]と一緒に世界から弾き出されます。もはやこの世界の理が適応されない存在になりつつある[彼女]ですから、それくらいのことができてもおかしくありません。

 また、そもそもの話として「なぜ世界からの孤立なのか」という点についても説明する必要があります。通常、排除される際にはその存在としての生を強制的に終了させ、ペナルティを課した上で再び生まれ変わります。このペナルティというのは、成熟に必要な経験値を差し引いて格を下げるものです。これはどの存在に対してもメリットがないため、積極的に世界の情報を収集することはしなくなります。そんななか[彼女]は認識する力が強く、一定の空間を保持するだけの力を持ってしまったため、消滅せずにそのまま弾き出されるように世界から孤立してしまいます。一見、生き残って良かったようにも思えますが、そこから先に成長はなく、本来の目的も達成できないため消滅よりも悪い結果とも言えます。
 以上が、このお話で明確になった考え方です。とはいえ、私が書いているのは設定資料集ではなくあくまで物語なので、これら全てを登場人物に語らせるつもりはありません。

 それでは次に、物語としてのバランスを整えていきます。まずは前章で書いたお話の全体像から。上段はストーリーにおける大まかなお話の役割、中段が実際の2人の主な行動、下段が日数経過です。

図8 ストーリーの進行(初稿)

 【承】が【起】と【転】を繋ぐパートであることを踏まえると、区切る場所は変えたほうがいいかもしれません。確かにこの物語のビッグイベントは「謎の眩暈(=世界からの孤立)」ですが、これは派手な演出が入るわけではないため山場・転機とはなりにくいです。なのでこの部分も【承】に含め、「朝の集会」から【転】としましょう。日付通りの進行ということになりますね。また、各パートにおける[僕]の心情をグラフのように並べ替えると以下のようになります。

図9 [僕]の心情グラフ

 ここまでで「世界がどのようになっていくか」は明確になってきましたが、[僕]の行動心理についても不明瞭な部分が多いため整理していきます。物語としてカタルシスを得られるようにするためには、ある一定の目的が必要です。「あの日の教室」にて[彼女]と関わり、その周辺の環境に触れることで[彼女]の孤独を知るところまでは作中で記述していますが、その後気持ちを出したり仕舞ったりしているがためによく分からないことになっているのでしょう。それを踏まえ「[彼女]の孤独を解消すること」を[僕]の目的とします。「あの日の教室」「喫茶店②」で彼女の孤独感を知り、それを追体験したところで「あの日に似た夢」を見て疑念が強まり、「朝の集会」・「喫茶店③」を経て確信し「彼女の世界へ」到達してその孤独を解消します。[僕]からしたらこれは解決ですが、[彼女]から見ると自分勝手な気持ちに巻き込んでしまったエゴでしかないため、きれいに物語が終わるというわけにはいきません。とはいえ、その「最後までは語られない意味深なセリフで終わる」という形式は私の好みであり今回やりたいフィナーレでもあるため、これは維持します。
 また、[時間]についてのお話はこのお話の中でやるのは少し難しいため、縮小していく予定です。

 長くなりましたが、この後の推敲で意識することは2つです。1つは「[彼女]の世界から孤立する流れに[僕]が干渉している(=本来の目的)」ということ、2つ目は「[彼女]の孤立を避けるために[僕]が奮闘する(=物語としての目的)」ことです。これらを踏まえて、文章を見ていきましょう。


次(推敲:起【1】〜【3】①)→

←前(執筆:結【2】③&【3】)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?