急性冠症候群とモルヒネ

国家試験では「ACSにはMONA療法!」みたいな感じで覚えさせられたんですけど、実際使ってるかっていうと
M:モルヒネ→使ったことない
O:酸素→サチュレーションが低ければ使う
N:硝酸薬→血圧次第 MIで使ったことはない
A:アスピリン→使う
モルヒネってどうやって使ったらええねんと思って調べてみました

モルヒネについては鎮痛効果+静脈拡張効果を期待しているみたい
【急性冠症候群ガイドライン 2018年改訂版】では

胸痛が心筋の酸素消費量を増加させるため、硝酸薬のみではコントロール不良の疼痛の場合に有効
血管拡張効果もあり肺うっ血に有効

とされています

Up To Dateでは

許容できないレベルの痛みを伴う患者のために使用し、可能であれば避けるべき

とされています

これは、NSTE-ACSでモルヒネ非投与群に対して、モルヒネ投与群における調整後全死亡が高かったためといわれています。
全死亡 OR 1.48 [95%CI 1.33-1.64]
調整後死亡 OR 1.50 [95%CI 1.26-1.78]
PSマッチング院内死亡 OR 1.41 [95%CI 1.26-1.57]

Meine TJ, Roe MT, Chen AY, Patel MR, Washam JB, Ohman EM, Peacock WF, Pollack CV Jr, Gibler WB, Peterson ED; CRUSADE Investigators. Association of intravenous morphine use and outcomes in acute coronary syndromes: results from the CRUSADE Quality Improvement Initiative. Am Heart J. 2005 Jun;149(6):1043-9. doi: 10.1016/j.ahj.2005.02.010. PMID: 15976786.

その後のメタ解析でもACSに対するモルヒネの使用による院内死亡、心血管イベントの増加が指摘されています。

Duarte GS, Nunes-Ferreira A, Rodrigues FB, Pinto FJ, Ferreira JJ, Costa J, Caldeira D. Morphine in acute coronary syndrome: systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2019 Mar 15;9(3):e025232. doi: 10.1136/bmjopen-2018-025232. PMID: 30878985; PMCID: PMC6429865.

これはモルヒネがP2Y12受容体阻害薬の作用を弱めるためではないかと考えられています。
P2Y12受容体阻害薬は新規の抗血小板薬で、ticagrelorやクロピドグレルなどのチエノピリジン系抗血小板薬です。ACSにおいてはアスピリン+チエノピリジン系抗血小板薬のに剤併用療法 (DAPT)がclass IAで推奨されています。よく「だぷと、だぷと」って言いながらアスピリンとクロピドグレル入れますよね。しかし、モルヒネがこのP2Y12受容体阻害薬 (チエノピリジン系抗血小板薬)の血中濃度を低下させる可能性があるようです。

Kubica J, Adamski P, Ostrowska M, Sikora J, Kubica JM, Sroka WD, Stankowska K, Buszko K, Navarese EP, Jilma B, Siller-Matula JM, Marszałł MP, Rość D, Koziński M. Morphine delays and attenuates ticagrelor exposure and action in patients with myocardial infarction: the randomized, double-blind, placebo-controlled IMPRESSION trial. Eur Heart J. 2016 Jan 14;37(3):245-52. doi: 10.1093/eurheartj/ehv547. Epub 2015 Oct 21. PMID: 26491112; PMCID: PMC4712351.

じゃあどないしたらええねんという話なんですが、モルヒネと比較してフェンタニルの方がticagrelorの濃度上昇が良い、っていう報告もあります。

Iglesias JF, Valgimigli M, Carbone F, Lauriers N, Masci PG, Degrauwe S. Comparative effects of fentanyl versus morphine on platelet inhibition induced by ticagrelor in patients with ST-segment elevation myocardial infarction: Full results of the PERSEUS randomized trial. Cardiol J. 2022;29(4):591-600. doi: 10.5603/CJ.a2022.0049. Epub 2022 Jun 28. PMID: 35762079; PMCID: PMC9273249.

まあ、途中で試験が終わってたりとめちゃくちゃ微妙ではありますが、、、
個人的にはモルヒネよりフェンタニルの方が使い慣れてるのでフェンタニルになってくれるとありがたいです。一応この報告だと鎮痛効果も同じみたいですし。

とはいえもちろんモルヒネを使う症例の選択バイアスは間違いなくありますし、そもそも鎮痛剤がどれだけ心血管イベントに効果があるのかとかよくわからないところです
とりあえずさっさとPCI行く準備しますかね

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