Institut de Cerdaでのヒアリング

ヒアリング日時:2017年10月20日

 Institut de Cerdaはプライベートの財団であり、港や空港の拡張工事などの地域にインパクトのある開発のモニタリングや、環境政策の中でプライベートとパブリックの連携事業などを手がける。
 ヒアリングに応じてくれたAngal氏はIESEの教員でもあり観光ビジネス会社の立ち上げなども手がける。もう一人のFransisco氏はバークリーで学位を取得した交通関係のエンジニアである。

 92年のオリンピックのでエンジニアとしてロジスティックのチームに関わった。最も良かったと言われるバルセロナオリンピックだが、1984年のアメリカのLAオリンピックのパートナーだったベクターグループのエンジニアリングで行われた。
 LAの際は会場にお金をかけない、映画のセットのようなものを作ることが目指された。しかしバルセロナオリンピックでは遺産として残るものを整備することが目指された。
(後ほど補足 https://www.nippon.com/ja/column/g00283/)
92年オリンピックの際は、バルセロナは「無駄なものは作らない、すぐ市民が使えるものを」というコンセプトで、スポーツ施設よりも都市整備に公共投資を十分に投入し、バルセロナの企業家たちもホテルや住宅建設へ動いた。


●バルセロナ観光局について
 1992年のオリンピックまではバルセロナは観光地ではなかった。すでに国際会議などは開かれていたので、平日には人がやってくるが、週末は20%まで人が落ち込む。週末にやってくる人たちはコスタブラバやコスタドラドといった周辺のビーチへ行くための通過点としてバルセロナを利用していた。
92年のオリンピック招致が決定したことで、地元企業からバルセロナを観光化してほしいという声があがり1986年に市と商工会議所の協定によってTurisme de Barcelona(バルセロナ観光局)という観光の専門チームが組織された。今でいうところのDMOの先駆的な形で当初は民間事業者から一定の年会費をとって観光振興に向けた事業を展開していた。市から100万ユーロ、商工会議所から100万ユーロを分担し、年間200万ユーロの予算で10年計画で行う予定を立て、その先は独立採算としてやっていく計画であった。
市の観光行政とバルセロナ観光局との事業の役割分担としては、受益者が明確である事業に関しては観光局が担い、そうでないものに関しては観光行政が担うという形となる。具体的には、観光バスの運行や観光施設の運営、観光商品の製作販売やツアーオペレーションなどは観光局が行い、都市ブランディングの展開や広報キャンペーンなどは観光行政が行うという形態である。
 1994年スタート当初の予算400万ユーロ(要確認!)から2013年では自主財源が4400万ユーロ、市と会議所の100万ユーロずつの分担金を合わせて4400万円の事業収入となっている。そして2016年時点では市役所のみが支払っている100万ユーロの分担金を含めてそう事業収益が6000万ユーロとなっている。その5900万ユーロの内訳の中には42%が二階建てのツーリストバスの収益が含まれるが、このうちの41%は経費として支出されるので実質1%の収入となる。
 2014年からカタルーニャ州政府が宿泊税を徴税し始めたため、カテゴリーによって0.5%〜2.5%が税金として徴税される。ちなみに2016年までのバルセロナ市の宿泊税の内30%が市の収入、70%はカタルーニャ州のプロモーションに使われていたが、2017年からその内訳が50%ずつになった。つまりバルセロナ市で徴収している2000万ユーロの宿泊税の中で1000万ユーロが市の収入となる。その収入のうち500万ユーロがバルセロナ観光局のプロモーションへ使われ、もう半分が市役所内部に設けられたDirection Turismo de Barcelonaという部局の運営へ投下される。

●DIRECCION TURISMO DE BARCELONAについて
 バルセロナ市役所の方では2010年に来た観光客をどうするのかを考える部局がないことに気づき、経済プロモーション(Promocion Economica)の中に観光部署(Direccion Turismo Barcelona)が設けられる。
この部署には25人の専属のスタッフがおり、翌月に来るクルーズ船やイベントなどを分析さし、そのインパクトを把握している。
 その内の4人が専属スタッフとして、ツーリストと住民との関係を考えるというミッションの元、モビリティやインフラ、セキュリティやロジスティクスなどの各部局から担当者を集めたラウンドテーブル(Mesa de Turismo y ciudad)を2ヶ月に1度開催する。2016年には持続的観光をめぐり企業、政治家、住民や労組などを含め60名ほどのラウンドテーブルが開催された。議長は市職員(?)、副議長は住民代表と企業となっている。
 カタルーニャ州の商工労働部(?)のような部局の中にDireccion de General Turismoという部局があり、そこで計画とプロモーションを担当する部局がそれぞれあるという構造となっている。かつてはバルセロナ市や県と州とはバラバラに動いていたが、今は協力して動くようにしているとのこと(要確認)

●バルセロナと政治状況
 バルセロナ市の政治状況との関係でいうと、2010年から2015年までに市の政権を握っていたのは社会党で経済発展よりの政策であったが、2016年から2020年の与党になったポデモスはアダ・コラウ政権の元で住民サービス寄りの政策へと転じ観光政策は停滞気味となる。
 観光においても適正なサービスやサラリーを配分できることが満足度の向上につながる。
 モビリティや宿泊施設、新しい観光産業、クルーズ船などの問題が起こっている。アダ・コラウ現市長が就任時は観光には反対の立場であったが、現在は事情がわかってくると必要悪であるという認識へと変化している。
一方でアダ・コラウ政権は大衆寄りで技術を軽視する傾向にある。92年までクオリティが高かった技術が下がってきている。
 1859年のセルダによる都市計画のプランは、当時のブルジョワだけに有利な政策を取っていた政府案への対応案であった。スペイン中央省の介入がありセルダのプランになった。
 それと同様に都市計画というのは長期スパンで考えねばならないが、市が立てる戦略的プランは政党任期の4年のイデオロギーでしかない。
今の観光客問題についてはInstitut de Cerdaは2007年から警告していた。それは技術的な問題から社会的な問題へと傾きすぎたことによって起きたとも言える。
 例えばロジスティックの問題では、環境への配慮から自転車を推進して自転車専用道路をたくさん整備した。しかしそれが逆に自動車の走る道路を制限するようになった。バイクレーンばかりを作ると建物へのアクセスが難しくなり渋滞が起こる。特にCommercial Electronicsが進みインターネットで人々はモノを買い始めた。そのことで流通量が2年で10倍に激増した。商品を運ぶトラックが増えると渋滞が起こり排気ガスが問題化している。今バルセロナでは排気ガスの問題が大きくなっている。EUの基準値内に入らねば罰金を支払う必要がある。しかしバルセロナの現市役所ではこうした技術的な問題を理解せずに、短期的にしかモノを見ていない。それは4年のイデオロギーの中で成果を出さねばならないからである。

●クルーズ船
 ローコストエアラインの乗り入れが増えたため、バルセロナのエルプラット空港の拡張工事を進めている。
92年のオリンピックの期間中にホテル不足の埋め合わせのためにクルーズ船を借りて対応したが、その時にクルーズ船が使えることに気づいた。

●バルセロナのスマートシティについて
 バルセロナがスマートシティ化したのは2000年以降。市の主導でビッグデータのモニタリングとセンサリングを開始して、今では10年ほど経った。その課題や成果はどうなっているのだろうか。
(後ほど補足、http://www.itn.co.jp/?p=452)
 スペインのバルセロナでは市とマイクロソフトが手を組みインフラを最適化するスマートシティプロジェクトという取り組みをしている。
 このプロジェクトの成果としては「水道スマートメーター」という水道の使用状況や異常を即座に検知してくれるサービスや、スマートパーキングという名の空いている貸駐車場をすぐに教えてくれるサービスなどがある。(スマートコンテナも?)スマホで支払いできる仕組み、人通りが少ない通りをリアルタイムで教えてくれるサービスなどもある。これは町中に設置されているセンサーによって可能となっている。
 これがどれぐらいに利益を生んでいるかというと、水道管理のスマート化により得られた利益は年間5800万ドル(約70億円)、スマートパーキングは年間5000万ドル(約60億円)の利益となっているようである。IoT市場が大きく拡大していく可能性があり、2016年現在での推定市場価値は2020年度までに3兆4000億ドルになるのではないかと言われている。
 スマートシティを世界で初めて取り入れたのがバルセロナであり、テクノロジーを入れて数年間を実験的にしたことで戦略が見えてきた。
オープンデータの活用と公開をすることで、新テクノロジーを市民生活のサービスに適用する。例えば水やゴミなどのモニタリングというように、技術を使った市民サービスの向上に役立てる。しかしそこには企業の収益性が重要になってくる。(←採算が取れているのかどうか要確認)
 もう一つは技術開発企業に対するインセンティブを考えている。メディアやクリエイティブ、ITなどのスマート産業の誘致など。数年前まではモノづくり産業がおろそかにされてきた。しかし今は「MediaTic」などのスマートシティコングレスやMWC(Media World Congree)なども開催している。その象徴的なプロジェクトがポブレノウで行っている「22@プロジェクト」である。90年代の終わりから2000年代にかけて始まっている。

●22@プロジェクトについて
 このプロジェクトは税制とインフラと事務代行などの方法で特定の企業にインセンティブを与えてスマート企業を誘致する方向を出している。空港や港などは物流の企業が集中することに対して、ポブレノウではITメディアなどのスマート産業を集中させる方向となっている。
 一方でPPP(public-private-partnership)の事業でFunction Mixが取られている。社会福祉住宅として整備が進むことに関しては現アダ・コラウ政権の方針にも合う。しかし現在の到達度としては50%程度であり、計画年数よりも時間がかかっている現状にある。25年前にはこの場所には何もなかったが、都市再生的な意味合いが強いプロジェクトである。
 具体的ゴールに関しては特には設けていないが、スペイン経済危機の影響でストップしたのと、政権交代によって一時的にストップした。現政権は公営住宅には関心があるがスマートシティそのものやスマート企業の誘致には関心はない。
 90年代には才能と情熱とリーダーシップは政府ではなく民間から培われた。今の政党主導の愚かな方向性に問題があると考えているのため、スマートシティを目指すよりもスマートピープルを目指すべきであろう。
22@の不動産事業は失敗している。その原因の一つに委員会の運営方法の問題がある。委員会は60人という人数でするものではない。

●ジェントリフィケーションについて
 ロンドン、ニューヨークでもあったジェントリフィケーションがバルセロナでも旧市街地で最初に問題化されてきた。それは主に不動産業界によるもので、物件を買い上げていくことで起こる。基本的にマンションは月貸しするよりも日貸しのほうが収益率が高い。だから不動産業者は観光客の増加に伴って日貸しの民泊にしていく方向で整備している。特にバルセロネータ、グラシアあたりでは民泊が増加し、最近では市場の再整備が進むサンアントニあたりが期待値によって地価が上がっている。
 今バルセロナには16000件の民泊があり、9000件しかライセンスを持っているところがない。残りの7000件は違法の民泊である。
 現段階では現政権の市役所は民泊をコントロールするプランニングがない。LCCでどんどん人が来るが観光行政では基本的には観光客の増加しか考えていないため問題が起こる。
 2010年から2016年にかけてパリ、ロンドン、チュニスなどでテロが相次いだ。そして今年に入りバルセロナのテロ。

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