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「論理の反転」(2020年11月)

●11月6日/6th Nov
3日には寺を降りたが、一応昨日で瞑想期間を終える。本当に学びが多い機会と環境を整えて頂いた皆様に心より感謝。

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●11月8日/8th Nov
今回の大統領選で起こっていること。それそのものにも思うところはもちろんあるが、一連の状況を見る人がどのような態度を示すのかを観察している方が興味深い。どういう人がどのぐらいの情報を持っていて、どれぐらい理解や考察の深度があるのかで世相が見えてくるからだ。
背景となることの表裏をどこまで知っているのか、それをどのように受け止めるのか、それはどこまで掘り下げられたのか。そういうものが態度に現れてくる。つまり何を知っているか、どこまで考えたのかが垂直的に浮き彫りになる。
深度には何段階もあるが、どの段階にいるのかは知識人や学者であろうと、学とはまるで無縁の人であろうと関係ない。そしてどのような政治的な立場であるのかはあまり見るべきポイントではないのが面白いところだ。何を"信じて"いるのかを水平に並べても意味はない。
拙著「まなざしのデザイン」の終章では、今の社会は情報化社会というより「空想社会」だと定義づけたが、本当のことが何なのかはメディアが報道するほど「単純」ではない。そんな世だからこそ生々しくその人の知性・感性・理性が浮き彫りになる。
良くも悪くもさらに面白くなるのはこれから。天地返し、陰陽反転が起こるときにどこが最も安定しているのか。サインカーブや上下運動を二次元的に見ていてもゼロポイントは発見できない。

●11月9日/9th Nov
明けて日本では11月9日になってしまったか。
今日から明日にかけて、世界が平穏無事であることを心から祈る。

●11月10日/10th Nov
色んなことが明るみに出始めてきたので、主客の交代がそろそろかと。司法とメディアと芸能を押さえておけばなんとかなるという構造が、いよいよ表でも崩れ始めてきたか。

本日の卒論ゼミはジャニーズ研究と食パンブーム研究の二つ。この一年で、このトピックも随分と詳しくなった。
1985年の少年隊デビュー以降からジャニー喜多川が最後にプロデュースしたSix-TonesとSnowmanまで全21グループ中、現在活動する16グループのメンバーを中心に分析する。
食パンの方は2017年以降のテレビ、新聞報道、出店状況などのデータが集まり、そろそろ結論も見え始めてきたので、まとめにかかる方向でゼミを進める。
ディズニーランド研究もランドが再開したのでフィールドワークに行って綿密に調査するように指導した。
鬼滅の刃とコンテイジョン及び感染列島の分析はまだもう少しかかりそうだが、こうして並べてみると流行り物ばかりのラインナップになっている。学生に自由にテーマを選ばせるとこうなるのか。
僕自身はランドスケープアーキテクチャの専攻だったのに、何の因果か芸術と哲学を経由して経済学研究に来て文化研究をすることになったおかげで、随分と勉強させてもらっている。学生たちに感謝。

●11月12日/12th Nov
フランクロイドライトの旧山邑邸の視察に。
1924年に芦屋に建てられた建物だが、今はヨドコウ迎賓館になっている。ライトのこだわりが細部にまで行き渡っている素晴らしいデザイン。
国指定の重要文化財になっていて阪神間モダニズムを代表する建築。さてどうするか。

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●11月14日/14th Nov
人が何を語りどういう行動するのかは、その人が理解したこと腑に落ちたことと対応している。そしてその深度やキャパシティはその人生の中である程度決まっているのだろうと思うようになってきた。それを業と呼ぶのか定めと呼ぶのか。
人によって求める対象物の違いはあれど、人はすべからく何かを求めていることには変わりない。その「求める」ということ自体には、方向性の違いや考えの違いなどという相対的なものが当てはまらない。
若い頃は自分の未熟さゆえに、間違ったことを正そうと人を諫めることもあった。だがある時にその自分の不遜さと同時に、それが意味をなさない不毛さに気づいた。なので自分の見方を変えて、暖かく見守ることしか出来ないのだと思うようになった。耳を傾けるというのは一つの才覚であり、そう誰もが持っているものではないことに気づいたこともある。
心には年齢はなく、賢さや愚かさは年齢とは関係ないことは、自分が小さい頃から分かっていた。大人が言っていることが必ずしも正しいとは限らず、世間知らずの子供が言うことは間違っているとは限らない。ほとんどの大人は間違っているのだから素直に言うことを聞くこともないだろう。

●しかしTPPの時はあんなに騒いでいたのに、今回は大統領選の陰にかくれてあっさり通るのかな。

●日本は夜中だが、欧州で開催されているフェスティバルにオンラインで参加。久しぶりにスペイン語を耳にして嬉しくなる。

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●11月16日/16th Nov
先日、ハナムラが昨年監督した映画「Seeing Differently 」が、ギリシアのアモルゴス島で行われた「アモルゴス観光映画祭2020」で、受賞いたしました。City Promotion 部門でのSilver賞の受賞です。
ラトビアの国際映画祭、スペインのTerresフェスティバルに続いて3つ目の受賞で、正直どういうことになっているのか自分でもよく分かりません。
これもひとえに本映画の制作に関わっていただきました関係者の皆様及び、映画祭のジュリーの皆様、支えて頂いた多くの皆様のおかげ以外の何ものでもありません。皆様に心より深く感謝致します。
本年度はコロナの影響で、オンライン開催になったため、エーゲ海の素晴らしい島へ訪れる機会を失いましたが、受賞式にはリアルタイムで参加致しました。
四日目の受賞式には、世界中からズームで受賞者が訪れており、それぞれのコメントも寄せられております。
時差のためハナムラは夜中2時で眠気まなこをこすりつつの受賞コメントでしたが、ご関心ある方は映画祭の様子をリンクにてご覧ください。
The movie "Seeing Differently" directed by Hanamura last year won the award at the "Amorgos Tourism Film Festival 2020" held on the island of Amorgos in Greece last Saturday. We are the winner of the Silver Award in the City Promotion category.
This is the third award after the Latvian International Film Festival and the Terres Festival in Spain. I honestly can't understand what's going on.
I would like to express my deepest gratitude to all the people involved in the production of this film, the Julie at the festival, and the many people who supported me.
Because the influence of COVID-19 this year, the festival was held online.
So we lost the opportunity to visit the wonderful island of the Aegean Sea, but I participated in the award ceremony in real time.
At the award ceremony on the fourth day, the award winners from all over the world are visiting with zoom, and their comments are also received.
Due to the time difference, I did award-winning comment while rubbing sleepy manako at 2 o'clock in the middle of the night,
If you are interested, please see the link of the film festival.

●11月17日/17th Nov
寄稿のために、猫シCorp.からヴェイパーウェイブの流れについて色々と調べていて、この10年ぐらいの音楽の潮流と時代の空気の関係に合点がいった。
80年代のヒップポップから、レアグルーブ、そしてアシッドジャズや渋谷系を通じて拡散したサンプリングの系譜が9.11と3.11以降にこんな形で表現されているのね。
サカナクションやモンキーマジック、PUNPEEやtofubeatsくんとかがなんであんな楽曲やPVのテイストになるのかさっぱり分からなかったけど、そういうことかと納得。
その中で、こないだから考え続けていた、くるりの「琥珀色の街、上海蟹の朝」の謎もこれで解けたわ。ん?と思ったけど、コロナの空気もかなり早くから先取りしていたのね。トランプ政権を意識していたかどうかは分からないが、凄いタイミングでリリースしたものだ。

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●11月19日/19th Nov
Today I received the super cool Trophy from Terres Festival in Spain!!!
Our movie got the first place in tourism product.
I was so surprised to have the special mask printed the logo of terres!!
We hope to visit Tortosa and meet juries of festival next year.
Thank you very much all the Team at Terres festival and all the members related to our movie.
#terresfestival #terresfestival2020 #Seeingdifferently

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●11月21日/21th Nov
個人的に興味はほとんど抱かないが、一応テック系の本にも一通り目を通してみる。ずっと感じている違和感として改めて認識するのは、情報系は言うまでもなくバイオ系であろうと最近流行のフード系であろうと、発想の根底にある「工学的無意識」という問題が共通していることであろうか。
中には哲学のような考察を装ってみてはするものの、やはり西洋中心だからかモダニズムの範囲からいまだに抜け出せずに苦しんでいる感が否めない。社会がまだ工学を中心に動いている間はそのズレが表面化しないかもしれないが、そろそろ破綻し始めている。
当たり前だが、工学系よりもまだ理学系の方が真摯に迫っている感じはするが、サイエンスの円熟からテックに落ちるまではタイムラグがあるものだろう。自分が死ぬまでの間に、それが健全な方向に進み始めることを期待したい。
人工知能領域の極々一部の研究者の中にはかなり核心に迫りつつある人もいるが、もう一方の極には生命への稚拙な理解ゆえにトランスヒューマニズムのような所へ行き着いてしまう人々もいるのかもしれない。

●11月23日/23th Nov
11.23の本日が平穏無事な世界でありますように。
どうも日々の忙しさにかまけてつい怠りがちだが、この週末は心を入れ替えて少し整理整頓する。気がつけばひと月で書籍が膨大に増えていて、もはや置き場所がなくなってきたからだ。
人間は常に見えている風景に影響を受ける。環境の整理は情報の整理であり、思考の整理でもある。モノを整えながら心を整えることこそが修行のイロハだと改めて自覚。

●11月25日/25th Nov
この2020年に入ってからの世相にまなざしを向けていると、これまでの常識が反転する転換点を迎えていることに気づかない人と気づいている人、そして前々から気づいていた人が取る行動パターンが大きな開きを見せていることがよく分かる。
これまで「利」で繋がってきた人々は、散り散りになり、「理」で繋がる人々は結束し始めている。それは今回のアメリカの大統領選挙をはじめ世界中の動きの中でも如実に現れている。だが知識人の多くは見方をいまだ反対にしている。
共和党や民主党などの政党の話をしているわけではない。どの国のどんな政党にも利権の輩がはびこっていて、それは企業や個人でも同じようなものだが、以前と比べて明らかに統制が取れなくなっている。「利」で繋がる人々は益が得られねば、すぐに裏切り散り散りになっていく。
「理」で繋がる人々が動く動機は益ではない。それは善であったり、道であったり、愛であったり、哀であるので、そこに斥力ではなく引力が働く。だから恐れることなく突き進むだろう。正反対に進む準備が出来ている人はどんどん勇気が出る。
そのどちらでもない「離」で生きている人々は、より気楽だ。世相が騒がしいことなどまるで他人事であるからだ。一度「理」を通り越え、諦観に至って「離」を得ていれば静かに世界が反転するのを眺めることになる。

●11月27日/27th Nov
全体像が見えていないと、今一体何が起こっているのかさっぱり分からないだろう。だから目に見えるところだけで部分的な批判や議論をしようとして分断が生まれる。
あるいはよくわからないので、自分が実感できる楽しいことに溺れてしまい、目を向けようとしなくなる。だが僕らが享楽に身を投じている間に世界では確実に不平等と搾取が準備される時間があった。
2017年あたりから多くの人の目に何となく見えるようになってきただけだが、これから人類が何を選択するのかによってシナリオは幾つにも分かれる。
気をつけねばならないのは、不善は善のフリをして近づき、怒りや嫌悪感は簡単に正義にすり替えられること。僕たちのまなざしは自分が考えている以上に自由ではないことを覚えておきたい。

少々気持ちが昂っていたせいか、今夜の経済学研究科の社会人大学院では、今世界で何が起こっていて、これからどうなっていくのかを3時間ぶっ通しで話してしまった。
最初は講義前の雑談のつもりで、遅刻者を待ちながら自らのまなざしを探る心理分析の話をしていたが、アメリカの選挙やコロナの質問に答えているうちにそんな感じになったので、学生に発表してもらうつもりの課題をよそに、時局の解説になってしまう。
トランプと中国の話から政治経済系面で世界秩序がどうなっていくのかを話始めたが、結局、人工知能と分子生物学のことから果てはスピリチュアル現象や八聖道のことまで久しぶりにフリーで話す。最近講演も少ないので質問を受けることがとんと減ったからか、今考えていること喋りたかったのだなと。
あまりに幅広い話をしたので、今年の僕のゼミ生は僕の専門について人に説明するのに苦労しているという苦言を呈していた。別に人に説明する必要はないのではないかと答えておいたが、なにせ僕自身も分かっていないのだから。

●11月28日/28th Nov
本日は博論の合同ゼミ。
例の如く朝から晩まで論理的思考に終日頭を使う。経済学研究科だがテーマは様々。
解釈過程から創出される文化景観の研究
地域内付加価値額と都市経営の研究
宿房の現代的意義と課題に関する研究
地域報道と都市政策に関する研究
正力松太郎の事業に関する研究
歴史的市街地の再生に関する研究
中国の接客文化に関する研究
半年に一度の合同ゼミなので博士課程の皆さんはその間に研究を進められている。前回に比べてかなり進んだ方もおられるので、例の如く初見で内容をつかんで、足りないところや論点を返していく。
観光・地域創造系の研究なので、コロナ前後で状況がガラリと変わる。だから研究の当面の時代性はひとまず置いて、研究の独自性、論理性、客観性あたりをチェックする。
自分があまり詳しくないようなテーマについては発表の中からポイントを掴まねばならない。知識がないから指導できませんでは通らないので、どんなテーマでも切り返す反射力が要求される。
個人的には全く知らない分野を理解してポイント抜き出すのは割と得意な方だが、博士レベルになると少々集中力が必要なので、ちょい疲れる。

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●11月30日/30th Nov
本日は社会人大学院の講義。普通は大学では系統だって教わらない論文の書き方についてみっちり話す。
僕は論文という形式であまりアウトプットしないタイプだが、論文を書くよりも指導する方がどちらかというと得意だと自分では思う。
研究と論文とは異なるものであり、研究のアウトプットの一つが論文であるという話。論文とはあるフォーマットに則った文章であり、問いと答えと論証さえ揃っていれば成立するという話しをする。
学部のゼミでも繰り返しこの話をしながら、論理的に物事を捉えるとはどういうことなのかをトレーニングする。修士や博士でも実はこのフォーマットが身に付いていない人が意外に多いのでここでは初歩的だが大事な話をする。
こうした訓練を積んでいると発言が軽々しくなくなる。証拠に基づいてモノを語る癖がつくと流言飛語に惑わされなくなるし、自分も根拠の無いことを言わなくなるからだ。
ただその反面、それらしい証拠を並べられて小さな範囲で論理的に整合の取れたことに対して疑いを立てにくくもなるので注意が必要だ。同時に直感力を鍛えねば簡単に論理の罠に陥るだろう。それは次の段階で指導することになるが、まずは論理性。

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