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羽田空港地上衝突事故 浮かび上がった疑問点からの考察 総まとめ

前3つの記事で事故の疑問点について考察した。
交信記録と海保機の挙動の不一致、管制用語の誇大な曲解、存在を無視されている副操縦士などである。
それらから導かれる考察のまとめを本記事では行う。


最大の疑問点を考察した結論

これまでの記事で、直接の原因を究明するために考察をして来た。
細かく探ればまだまだあろうが、最大の焦点はここであると筆者は考える。

「滑走路進入の許可が出ていた」と考えれば、考察した疑問は全て解決する。

この一点が全てであると言っても過言ではない。
この前提に立てば、すべてに説明が行くのである。

「滑走路進入」から視えること

「滑走路進入許可」の有無は別として、最終的に海保機は滑走路に進入した。
その時、正副パイロットの認識は一致していたのだろうか。
海保機の動きから、筆者には一致していたと見える。

海保機の復唱「Taxi to holding point C5 JA722 No.1 Thank you.」を視る限り、少なくとも「滑走路上で待機」とはならない。
仮に海保機パイロットの錯誤、誤認があったとすれば「滑走路進入+離陸許可」となる可能性が高い。
「No.1」を誤認し離陸を急いだとすれば、尚更ではないか。

何度も言及して来たが、「No.1」をパイロットであれ航空無線愛好家等であれ、意味を知るものならば錯誤や誤認は有り得ない。
ましてや資質と経験を兼ね備えたパイロットであれば尚更である。

仮にいずれかのパイロットが錯誤、誤認したとしても、他方のパイロットも同時に錯誤、誤認するだろうか。
それはさらに有り得ないことだと筆者は考える。

では何故、海保機は滑走路に進入したのであろうか。
考えられるのはひとつである。
実際の許可の有無はともかく、二人のパイロットが「滑走路進入許可が出た」と認識したからに他ならない。
そうでなけでば、続く「40秒の滑走路上停止」も説明がつかない。

「No.1」を錯誤、誤認する可能性が極めて低いならば、両パイロットを「滑走路進入許可が出た」と認識させる要因がなければならない。
それは一体、何であったのだろうか。

あくまでも可能性であるが、考えられるのは次である。
◆ 管制官から「滑走路進入許可」が実際に出ていた
◆ 一方のパイロットの錯誤、誤認を他方も共有してしまった

次にそれぞれのケースについて考える。

ケース1 管制官から「滑走路進入許可」が出ていた

国土交通省発表の交信記録は、2024年1月3日に公開されたものである。
発表された交信記録は、当然管制塔側で録音していたものであろう。
筆者の「交信記録の視覚化」表もそれを元に作成した。
(参考資料として記事の最後に再掲しておく)

ここではタワーと海保機の部分抜粋を使用する。

タワー・コントロールと海保機の交信抜粋(国土交通省発表) 補足加筆版

③の90秒間に交信があったとすれば、「C5到着」と「滑走路進入許可+離陸 or 滑走路上待機」であろう。
C5で停止してからか、Taxing 中に許可を受けたかは重要ではない。
この間に少なくとも「滑走路進入許可+離陸体制で滑走路上に待機」が出ていたと推測される。

管制官から「滑走路進入」のみが指示されることはまずない。
「滑走路進入の許可」は、同時に「滑走路上で待機」か「離陸許可」と同時である。
「進入を許可」するということは、滑走路が安全に使用可能になったからである。
つまり離陸させるためであり、「滑走路進入許可+離陸 or 滑走路上待機」でなければ意味がない。

「滑走路上で待機(離陸体制で)」は滑走路に入るのは安全だが、離陸にはまだ支障がある場合だ。
滑走路上に着陸した機体がまだいる、ジャンボジェット着陸後で滑走路上に乱気流が残っているなどある。

通常の離陸プロセスは次にようになる。

離陸リクエスト後の指示パターン

離陸プロセスを実際の交信にしてみる。
交信文は架空の例である。

離陸許可リクエストの手順:交信例

滑走路進入時点で海保機のパイロットが「進入許可は出た」が「離陸許可は受けていない」と認識した可能性はある。
だが、「Holding Point C5」の指示&復唱と「滑走路上で待機」は全く結びつかない。
「滑走路進入+離陸体制で待機」であれば、明確に違う交信となる。
上記の交信例の赤字の部分を参照されたい。

「ABC Air001 Tokyo Tower, at Runway34R Line up and wait.
タワーがABC航空001便(架空)に、34R滑走路に進入して待機せよと指示している交信である。
ABC航空001便も同じように復唱している。
「Tokyo Tower, ABC Air001 at Runway34R Line up and wait.

架空の交信例の信憑性を問われないため、実際の交信記録も載せる。
2024年1月2日にJAL516便、海保機と同時刻にタワーと交信していたJAL131便の交信記録である。
別の滑走路での交信なので発表された交信記録には入っていないが、アーカイブ音声では確認できる。

2014年1月2日 午後5時45分 JAL131と管制塔の交信

このように、「滑走路進入+滑走路上で待機」は、「誘導路上の指定場所で停止」とはまったく違う交信となる。
「Line up and Wait」
このやりとりが無ければ、滑走路上に停止しているなど有り得ない。
「Holding Point C5」と、「Line up and Wait」の全く違う指示をどうしたら取り違えられるだろうか。
そちらの方がかなり不自然である。

何度でも言及するが「No.1・・・」は世界中で日常的に使用されており、錯誤、誤解するような交信ではない。
事故当日も海保機の次にタワーと交信したJAL179に対して「No.3」と言っている。
このようにタワーはコンタクトする航空機に次々と番号を伝えている。
国土交通省発表の交信記録内にもそれらは残っている。

それらを海保機が聞いていないはずがない。
この状況で、海保機が錯誤、誤認をする可能性の方が極めて低いと感じるのは筆者だけだろうか。

「Line up and wait」が 出ていれば何ら不思議ではない。
「滑走路上に離陸体制で待機」の指示が出ていたならば、海保機の動きには何らの矛盾もない。
滑走路上に40秒停止していたことも説明がつく。

しかし①と②の交信が本当に最後であれば、報道のような錯誤、誤認が起こったと考える方がよほど不自然なのである。

ケース2 一方のパイロットの錯誤、誤認を他方も共有してしまった

仮にどちらかのパイロットが錯誤、誤認したとする。
だが他方も同時に錯誤、誤認をしてしまうだろうか。

無線交信がノイズなどでうまく聞き取れずに誤認することはあるだろう。
しかし正副二人のパイロットが確認し合えば済むことである。
二人とも聞き取れなければ管制塔に確認するば良いことである。

では一人が錯誤、誤認した場合に他方のパイロットは制止しなかったのだろうか。
残念ながら、言えない状況も有り得ると思う。

錯誤、誤認したのが機長の場合、副操縦士の立場では言い難かった可能性は高い。
通常の民間航空の中でも上下の関係がある以上、そういう面は否めないであろう。
階級制が強く根付いている海上保安庁や自衛隊等であれば尚更である。
筆者の周りにはこれらのOBや関係者が複数おり、肌感覚でわかるのである。

副操縦士が錯誤、誤認した場合には機長がフォロー出来たであろう。
だがこの時、機長も他の事に気を取られていたなどの状況があれば、機長自身も錯誤、誤認を見逃した可能性はある。
特に当日は地震発生後の非常時であり、隊員の方々もかなり疲労していたのは想像に固くない。

交信で錯誤、誤認があり、不運が重なって制止や助言がなかったとする。
それでも他機との交信は聞こえていたはずである。
羽田空港の過密さも充分にわかっていたはずである。
ましてや離発着が一番多い、夕刻から夜にかけての時間帯である。
最高潮の時間帯には、離発着の間隔は1分を切ることもある。

人である以上、ミスはするものである。
だが今回のようなケースで、本当に最後までミスに気づかないものであろうか。
滑走路の危険性は、パイロットが一番良く知っているからだ。
大型の旅客機がひっきりなしに離着陸している滑走路に、錯誤や誤認で入ることの結果を予測出来ないパイロットはいないだろう。
もちろん管制官も空港関係者も同様であろう。
疲労していようとも、「No.1」と言われようとも、焦りがあったとしても、許可無く滑走路に進入したとは考えにくい。
指摘や進言を躊躇していたパイロットであっても、命の危険がある以上は何らかのアクションを起こすであろう。

海保機が滑走路に進入した前後に、機体の停止やタワーへの交信は確認されていない。
海保機の一連の動きを視る限り、パイロット間で喰い違い等があったようには見えない。
そこから海保機の滑走路進入前後には既に、正副のパイロットの認識が一致していたと推測される。

「一致した認識」が錯誤側なのか、修正された側なのかは不明であるが。

国土交通省発表の交信記録では、①と②の「C5で停止します」と復唱したのが最後である。
その後海保機は滑走路に進入し、40秒間滑走路上で停止していた。

前記したとおり、離陸時の滑走路進入許可は「滑走路進入許可+離陸 or 滑走路上待機」である。
海保機が滑走路上で停止していたとすれば、「滑走路進入許可+滑走路上待機」と指示されたことになる。
だが、その交信は記録にない。

「C5で停止(Holding Point C5)」と「滑走路に進入して待機(Line up and Wait)」の交信は全く違う。
交信記録にない「Line up and Wait」を受けずに、滑走路に進入して停止していたと考えるのには無理があると思う。

報道をはじめ、大半が「No.1」に振り回されすぎているとしか思えない。
重要なのはそこではなく、最後の交信が「C5で停止」であるのにもかかわらず、海保機が滑走路に進入した理由である。
資質も経験も充分兼ね備えているベテランのパイロット達が、である。

「No.1」の取り違え、誤認と結論付けるには無理が有りすぎると筆者には思える。
海保機の正副パイロットが錯誤、誤認を共有してしまったとして、それは何を錯誤して誤認したのだろうか。
「Holding Point C5」と全く違う「Line up and Wait」を取り違えさせた何かが存在するのだろうか。
それはあまりにも無理がないだろうか。

ケース1のとおり「滑走路進入許可が出ていた」と考える方が全てにおいて矛盾がなく自然である。
これまでの考察で、そう考えるのは筆者だけではないだろう。

交信記録の在りか

短い交信記録から、これだけの疑問点が浮かび上がった。

だが不思議な事に発表された交信記録が、国土交通省のWeb Pageの報道発表資料等にない。
運輸安全委員会のWeb Pageにもない。(記事作成:2024年2月14日現在)
発表当時はあったのだろうか。
それともメディア等に配布されたペーパーのみであろうか。

海保機のボイスレコーダー回収が明らかにされたのは、1月5日であった。
JAL機のボイスレコーダー回収も翌6日に明らかにされた。

海保機のボイスレコーダーは、原因究明における最重要部分のひとつである。
一日も早く詳細に解析されることを願う。

ボイスレコーダーの解析は調査のためであり公開する性質のものではないだろう。
だが交信記等に新しい発見があれば、アップデートがあってもおかしくはないと思う。
しかし交信記録のアップデートは現在のところない。

管制塔の録音から起こした交信記録であればアップデートが出ないのは不思議ではない。
しかし公式な記録として発表されたものが、何故発表元の国土交通省のWeb Pageにないのだろうか。
その後に出された緊急対策等はPDFファイルで閲覧・保存が可能である。
何故、交信記録はないのだろうか。
交信記録も是非、Web上に公開していただきたい。

総まとめとお願い

総まとめと筆者の想い

考察した疑問は、「滑走路進入の許可が出ていた」と考えれば全て解決する。
改めて最終的に筆者はこう考える。

もちろん交信記録の意図的な隠ぺいや改ざんは無いと信じている。
電波で交信する以上、ノイズで聞こえない部分があってもおかしくはない。
送信が被ってしまい、聞き取れなかった交信もあるかもしれない。
管制塔の録音であっても完璧ではない可能性がある。

だが不可解なのは事実であり、ここから紐解かなければ直接の原因は解明されないのではと危惧する。
もちろんヒューマンエラー、空港設備の問題、発着の過密さなど別の原因は多岐に渡ってある。
それらも速やかに改善されるべきであり、そう願うばかりである。

だが報道をみる限り、今回の事故原因を海保機の機長のミスで収束させようとしている。
そのように筆者には見える。
筆者の友人たちも同様に感じている。
それでは犠牲になった海上保安官の方々も浮かばれず、本当の原因究明も再発防止もされないことになる。
それだけは許してはならないと微力ながら思う。

管制官のミスなども報道されてはいる。
それも要因のひとつではあるが、核心ではないと筆者は思う。
管制官にもミスはあったかもしれないし、実際にヒューマンエラーはあったのだろう。
しかし犯人捜し的にそれらを論っても、本当の原因究明も再発防止も遠いままである。

航空機の操縦、管制の事など一般には馴染みのない事を理解して報道するのは難しいかもしれない。
しかし、少し調べればわかることも現在では多いのである。
マスコミ関係者をはじめ、自称ジャーナリストの方々、Tuberの方々等の全ての皆様にお願いする。
どうみても想像やイメージで書いている、推測や憶測にも満たないような稚拙な発信も散見される。
それを何ら疑いもなく拡散する人々も多数見受ける。

検証や考察を多くの方々がするのは大賛成であるが、最低限の知識を理解をした上でお願いしたい。
特にマスコミの方々は仕事として対価を得て報道する以上、想像やイメージで記事や動画を作成するのは厳に慎んで欲しい。
最後は筆者の愚痴めいたものになってしまったが、ご理解くだされば幸である。

最後に

最後になりましたが、犠牲になられた海上保安官の皆様のご冥福を心からお祈りしています。
怪我を負われた乗客の皆様、クルーの皆様にも心からお見舞い申し上げます。
ご遺族の方々、お怪我を負われた方々の一日も早いご回復を願ってやみません。
どうぞ無理をなさらず、ご自愛ください。

参考資料:国土交通省発表 交信記録に補足、注釈、疑問等、加筆版

国土交通省発表 交信記録に補足、注釈、疑問等、加筆版

各々の詳細にご興味がある方は一読されたい。

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