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羽田空港地上衝突事故 浮かび上がった疑問点からの考察③

交信記録から視える疑問点として挙げた5項目のうち、今回は、《3》《4》《5》の密接に関係している3項目をまとめて考察する。

《3》90秒の空白 +《4》滑走路上に40秒 =《5》2分30秒の怪


タワー・コントロールと海保機の交信抜粋(国土交通省発表) 補足加筆版

最終的に「2分30秒の怪」と書いたが、管制塔と航空機間にこの程度の交信がない時間があっても不思議ではない。
過密な空港等では航空機が滑走路進入の許可がなかなか下りず、停止したまま10分単位で待たされるのは日常茶飯事である。
これは地上でも、着陸待ちでも同じである。

だが前二つの記事で考察したことから、公開記録による②が最後の交信であったならば、衝突までの約2分30秒の空白は非常に不可解なのである。

「羽田空港地上衝突事故 浮かび上がった疑問点からの考察①」で実際の管制と報道がいかに食い違っているかを書いた。

「羽田空港地上衝突事故 浮かび上がった疑問点からの考察②」では何故かいないことにされている副操縦士とその役割、大いなる疑問について書いた。

「滑走路進入許可があった」のであれば、これらの時間は全く不思議ではない。
だが発表された記録のとおり、「滑走路進入許可はなかった」のであれば別である。

90秒間の海保機

②の交信はC5に向かって地上走行しながら交信していると思われる。
その前にも海保機がグランド・コントロールから受けた最後の交信から、タワーにコンタクトするまでにで18秒ある。

グランドの最後の交信からタワーにコンタクトするまで

タワーに交信する前の時間も含め、海保機はこの間にもC誘導路上をC5に向かって走行していたと思われる。
③の90秒間のうち、どこかの時点でC5に到着したのだが、時間経過から前半の時間帯に到着したのではないだろうか。

①と②の交信で「C5まで移動して停止します」と復唱している。
この時点で海保機長、副操縦士が共に「C5まで移動して停止」と認識していたはずである。
そう認識していなければならない。

この時に機長または副操縦士が「滑走路進入許可が出た」と錯誤して機体を進めたのであれば、何故、もう一方の操縦士は制止しなかったのだろうか。
制止していれば、機体は停止位置を越えた辺りで停止したはずである。
停止位置を越えて滑走路側に入ったとしても、制止があればすぐに停止出来たはずである。

Runway Hold Position Marking Google Map スクリーンショット

滑走路と誘導路は厳格に分けられており、破線と実線の4本のラインが境界である。
この4本ラインの滑走路側が「滑走路」で、誘導路側が「誘導路」である。
4本のライン上に機体がかかってはならなず、必ず手前で停止しなければならない。

参考までに停止位置標識の地上からの画像を載せておく。

2021年1月20日撮影 羽田空港34L スターフライヤー機
2021年1月9日撮影 羽田空港34R 奇しくもJALのA350-900

仮に4本ライン付近で海保機が停止したとする。
停止線を越えて機体を停止させたのであれば、海保機はタワーに交信するはずである。
誤って「許可なく滑走路に進入した」ことになるからである。

その場合に無交信だった理由としては、次の2つが考えられる。
● 実際の滑走路の手前で、着陸機に支障がないと判断してタワーに交信しなかった。
● タワーに交信するタイミングを待っていた。

だが海保機は、停止の有無にかかわらず90秒のうちのどこかで滑走路に進入したのである。
となれば考えられる理由は次の3つである。

A「滑走路進入許可が出た」ので、海保機は指示どおりに滑走路に進入した
B 海保機の機長と副操縦士が揃って「滑走路進入許可を受けた」と錯誤した
C 錯誤した操縦士を他方が制止したが、制止を聞かずに機体を滑走路に進めた

「40秒」

この3パターンで、続く「滑走路上で停止していた40秒」について考えてみる。

A「滑走路進入許可が出た」ので、海保機は指示どおりに滑走路に進入した
このケースであれば何らの疑問点はない。
滑走路進入許可を受け、滑走路上で離陸体制を整えて離陸許可を待っていたと見える。
これは至って普通の手順である。
そうであれば40秒という時間も納得出来る。

B 海保機の機長と副操縦士が揃って「滑走路進入許可を受けた」と錯誤した
このケースでは、海保機の認識は「A」と同じで普通の手順に従ったまでである。
だが海保機以外には、海保機の挙動は100%誤ったものとなる。
報道ではこのパターンでほぼ固まっている。

C 錯誤した操縦士を他方が制止したが、制止を聞かずに機体を滑走路に進めた
この場合には、「滑走路上停止40秒」が極めて不自然になる。
滑走路進入時にパイロット間で制止があったのにもかかわらず、一時停止の有無はともかく最終的に進入したことになる。
海保機内で制止や抗議が滑走路進入後にも継続していたならば、「滑走路上に40秒」も停止しているだろうか。

「2分30秒」

海保機の挙動から考えれば「滑走路進入許可」の有無に関係なく、正副パイロットが同じ認識であったと推測される。
正副パイロットの認識は、あくまでも「滑走路進入許可が出た」だったのである。
そうでなければ滑走路に進入する要素がない。

何度も書くが、「No.1 ・・・」云々は日常的に使われている交信であり、航空無線愛好家等でさえ知っている。
資質と経験を兼ね備えた、海上保安官のパイロットがそのような錯誤や誤認をするのは到底考えにくい。

①と②の交信後90秒の空白、滑走路上に停止していた40秒の空白、その間の真実はどこにあるのだろうか。
あくまでも錯誤、誤認があったという前提で考えた時、どちらかが錯誤や誤認を指摘し、確認や次の行動を取ろうとする試みはなかったのだろうか。

少なくとも公式発表の交信からは、海保機が不測の停止をしたり、確認の交信をした形跡はない。
海保機が指示外の一時停止をした形跡もない。
海保機内でパイロットの意見の食い違いがあった場合、何等かの行動が起こされると思うがそれも形跡がない。

滑走路進入開始の時間はわからないが、90秒の後半45秒として考えても合計で1分半近くある。
滑走路進入時に機体を停止して確認する時間はあったと推測されるが、その形跡は今のところない。

滑走路上で停止していた40秒の間にも、錯誤や誤認を確認して退避行動を取る時間は何とかあったと筆者は思う。
しかしこの形跡も今のところはない。

海保機の両パイロットに錯誤や誤認があったということを、もちろん筆者は否定的に視ている。
理由は各記事にて詳説して来た、様々な面の情報からの考察結果である。

次の記事で考察の総まとめをしようと思う。
ご興味があれば、おつきあいください。

基礎知識として、筆者のいくつかの記事も宜しければ参照してください。

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