自分が昔いた界隈の話

最初に。
今から書く話は、
TGSで発表された新作で大人単独の試遊を禁止されたり、
隠れファンとしてやってた自分を引っ張り出してくれたお方が、
公式に向かって「俺らを裏切った」とブチ切れ、
オフ会でもお会いして絵の交換等もさせて頂いた神絵師の方が、
ブログにリスカ写真を上げるに至るぐらいの話、です。
ヤバい雰囲気を感じ取った方は、今のうちに回れ右してください。

また、今から書く内容はあくまで個人の主観のものなので、
同界隈の人であっても「そうだっけ?」となる部分はあると思われます。
ご了承ください。


まずは時代背景の説明。
今から20~15年ぐらい前、2001~2006年あたり。
Twitterどころか、SNSもスマホもなく、web日記の代わりにブログが登場し始めた頃。
まだまだ個人サイトによる交流が主流だった時代。
トップページがエンターページと呼ばれ、注意書きの他にカウンターが置かれ「キリリク」とかいう文化があり、
レンタルCGIでBBSやお絵描きBBS、テキストチャットやお絵描きチャットを借りてきてサイトに設置したり、
相互リンクや同盟やウェブリングといったものが主流の、
今だとまさにインターネット老人会で語られるような昔の話。

元々長い歴史のある、国内外問わず人気なゲームタイトルの界隈だった。
メインタイトル以外にも、サブタイトルで様々なジャンルが発表されているだけでなく、
メインタイトルそのものも、デザインや世界観を含めた大きな路線変更が行われ始め、
その路線変更がきっかけで、さらに多くのファンが増えていた。
日本では、なかなか特殊な形態でファン活動が活発になっていた。

当時、公式と間違えられるほどの日本最大級の非公式ファンサイトが存在した。
そこには公式が提示する情報…
ゲーム本編や公式資料から読み取れる限りの設定をまとめたwikiのようなページがあり、
多くのファンはその情報を元に二次創作をしていた。
お絵描きBBSやお絵かきチャット等で交流が行われる他、長編・短編問わず書いた小説を投稿する場もあった。
後期には、なんと声優さんから頂いたというコメントが記載されていたり、
界隈の最新情報やファンの活動の宣伝などが書かれたメルマガが発行されるようになったりもした。

その巨大ファンサイトでは、管理人が自らをモデルにしたオリキャラを作っていた。
今でいうところの、代理キャラとか呼ばれるタイプのものだ。
他のファンたちもそれに習うかのように、オリキャラを作るのが当たり前になった。
二次創作では、自分のキャラが登場する小説を書いたり、イラストを描くのが通例になり、
お互い交流を行うときは、互いのキャラを褒めあい、描き合うところから始まるぐらいだった。
チャットではそのキャラになりきって話す文化もあった。
人によっては100人を超えるオリキャラを作り、サイトに設定資料を載せているツワモノもいた。

巨大ファンサイトの情報ベースでの設定の共有や、オリキャラを作る文化は、没入感を与えるには十分だったようで。
一般的にファンが『好き』で活動する中、この界隈では『憧れ』で活動する人も多くいた。
「このキャラのこの生き様に憧れる」「このキャラのこの考え方に憧れる」といった言葉はよく耳にした。
この状況で、自分たちが『好き』や『憧れ』と呼んでいるものが、非公式にまとめられ、
自分たちで勝手に作り上げた非公式のものであることを考慮するに至るはずもなく…


ぼちぼち自分視点の話をば。
当時小学生。路線変更が行われた後のメインタイトルをプレイし「いいなこのゲーム」ぐらいに思っていた。
中学になり、その続編が発表され、プレイして、さらにハマる。
自分用として親にもらったお古のWindows98パソコンで、ネットを徘徊し、ファンサイトを見るようになる。
見事に界隈の文化にハマり、自分のオリキャラを作り、レンタルサーバーで借りてきたサイトを運営する。
BBSやチャットを設置し、小説やイラスト置き場を作り、web日記も書くようになった。
とはいえ、積極的に交流しに行くようなタイプではなかったので、リア友が来てくれればいいところだった。

転機はweb日記で「同人本を作ってみたい」と書いたことだ。
なんと2人の方から「作りましょう!」と連絡が来た。
いくら消極的なチキンだとはいえ、これにはさすがにやる気になった。
「じゃあ合同本作りましょうよ」と、打ち合わせ用に非公開のBBSを開設し、打ち合わせを行った。
当時はまだまだアナログの原稿で、スクリーントーンをカッターで切って貼り付け、
奥付には自分の本名や住所を書いていた頃。
イベントの選定も含め、顔合わせもせずやり取りするのもどうか、ということになった。

原稿や経費を受け取り、印刷・製本は自分がやることにはなるものの、
互いの住んでいる場所が見事にバラバラだったもんで、
「間を取って参加するイベントの会場はここ、事前に一度会いましょう」という結論に至る。
間を取ったにせよ、距離にして300km以上離れた土地。青春18きっぷを使って長旅をした。
初めての1人での長旅、田舎の人間で電車の普通や快速といったものがなんなのかもよく分からない。
事前に電車の時間をすべてメモし、構内地図も全部ガラケーに画像保存して行った。

実際に会って、打ち合わせもしたものの、半分はただのオフ会状態。
頂いた漫画の原稿は、もちろん互いの二次創作であり、自分たちが作ったキャラも登場する。
流れでそのまま公式タイトルの話や、互いのオリキャラの話でも盛り上がった。
そこで、とある方のファンサイトの話になる。
同じ界隈の方で、絵柄が独特な、自分もよく見に行くサイト。
そのサイトの管理人は、あの巨大ファンサイトの副管理人も務めてらっしゃる方。
(ご本人曰く「あまり副管理人らしいことはしてなかったけど」とのこと)

どうやら今回参加して下さった方の1人が、そのサイトの方と知り合いだったらしく、
「自分もあのサイト見てますよ。あの人の絵いいですよね」
と漏らしたところ
「マジですか!?本人に伝えます!!」
ということで、その方に自分のことが伝達されることとなった。
後々、その方とメールのやり取りや、電話もするようになる。


合同本の作成も、イベント本番も無事終了。売れ行きはゼロ。
とはいえ「やった」という事実だけで十分だった。
そして、この件がきっかけで知り合った巨大ファンサイトの副管理人の方から、
「オフ会しようぜ。あのサイトの管理人も呼ぶから」
と連絡が来る。あのサイトとは、例のあの巨大ファンサイトである。

どうやら、副管理人と呼ばれる方は複数人いる他、副管理人・管理人は同じ専門学校の学生らしい。
特に先導して活動してらっしゃる管理人は、自身のあらゆるweb技術を駆使し、
CGIを自作し、Flashでサイトを作成し、イラストもご自身で書いてらっしゃったようだった。
熱意もすごく、いろんなファンの方と積極的に交流しながら、サイトを運用している、と。
そりゃあもう、会えるなんて、夢にも思わず、オフ会参加に二つ返事OKである。

オフ会には他にも、副管理人の方に自分のことを伝えて頂いたあの方を含め3人が参加されていた。
管理人、副管理人、自分を含めると、合計6人でのオフ会。
飲食店で適当に飲み食いし、カラオケで熱唱もする。
互いに絵を描き合い、絵を交換する。
さらに管理人から「今度あのサイト改装するんだよね。まだ開発中だけど」と、
あの巨大ファンサイトのリニューアル後の見た目を見せて頂いた。

Flashを活用した、地図をモチーフにしたデザインだった。
地図上にある場所をクリックすると、対応したページに飛んでいく。
アニメーションも含め、めちゃくちゃ凝っている。
そりゃあもう感激だ。
間違いなくそこにいる方は、あの巨大ファンサイトの管理人さんで、
自分は公開前のサイトデザインを目の当たりにできたわけだ。

後日、巨大ファンサイトは予定通りそのサイトデザインへ改装された。
なんやかんやあったせいもあり、どんどん自分の活動も脇目を振らなくなっていく。
アニメ化運動への参加だけならまだしも、
発行を開始するというメルマガで、今行われている楽譜化運動の宣伝をしてくれという、
依頼のメールを、あの管理人に送り、実際宣伝して頂いたりもした。
が、この時期になって、どんどん公式側から不穏な空気が漂うようになってくる。


前作で死んだはずのキャラが、生きていたことにされているだけでなく、
どう考えても後付けの設定付きで、新たなタイトルが発表された。
公式からはわざわざ「これは前作の続編ではありません」とアナウンスがかかる。
アニメ化運動の甲斐あってか、アニメ化もされたが、世界観が全く新しい別のものだった。
各キャラの性格も、どこかギャグテイストに変更されていた。

ファンの間では
「続編じゃないなら続編を出せ」
「あのキャラはこんなことを言わない」
「前作にあったあのシステムをどうして消した」
等々、不満の声が散見されるようになった。
今の言葉でいうと、解釈違いや、設定厨とかというヤツだ。当時そんな概念は存在しない。
挙句、ファンとして一番気にするべきだった「公式への投資」について、あまりにも無頓着だった。

こんなにファン同士も仲が良く、ファンの活動も活発なのに、
なんで公式にそんなことをされるのかと、ファン側は最早パニック状態である。
非公式であっても、公式を元に纏められた設定の情報が簡易に閲覧でき、
それを事細かに把握した上で、二次創作をしていたファンからすれば、
自分が付け足した設定部分が非公式であることは重々に理解できていたにせよ、
公式に公式の設定のどんでん返しを食らうとは思ってもいなかったわけで。
『好き』どころか『憧れ』のレベルまで言っていたファンたちは、
人生のどん底と言わんがばかりの様子も見せていた。

公式側からすれば、このまま過去作やその設定に事細かく依存され続けると、
新しいタイトルを出しにくくなる挙句、新しいタイトルを出さない限り、
大きな利益を得られない状況だっただろうことは、安易に想像できる。
そして元々は路線変更をした結果のブレイクだったわけで、
もう一度路線変更してしまえばいいじゃない、という判断も恐らくあっただろう。
つまり、公式としてはもう、ターゲット層を変える他ないところまで来ていたわけだ。
そして開発スタッフ陣側も、日本からアメリカへと、開発環境が大きく変わっている最中だったようだ。


公式の様子が変わってくると、ファン同士の喧嘩も発生してくる。
あの巨大ファンサイトの管理人・副管理人たちの間でも、そうだったらしい。
管理人は「どんなに様子が変わろうとも公式を応援し続ける」といい、
副管理人は「あいつらは俺らを裏切った」と表立ってキレまくり、
別の副管理人は「あのキャラ、あのシステムがないのなら、もう興味がない」というスタンスだったようだ。

巨大ファンサイト上のBBSもどんどん荒れていき、
他のファンの人たちも、徐々に個人のファンサイトの閉鎖や凍結をするようになっていく。
そしてそんなことは知らない、新しいファンの方々がやってきて、
お絵描きBBS等にイラストを残していく。
本来それは喜ぶべきことだっただろうに、荒れていた既存ファンの一部は
「ガキが低レベルな絵で荒らすようになった」と表現する有様だった。

いくら表で不満を漏らしていないファンであっても、
悲しさや悔しさを噛みしめているファンもいるもんで、
自分が管理しているファンサイトのweb日記で、ただただ大きな赤字フォントで
「あああああああああああああ」と書き漏らす人もいた。
オフ会で出会った方に至っては、リスカの写真を上げていた。

荒れに荒れまくり、ファン同士の交流も当時ほど活気だったものではなくなった。
巨大ファンサイトも、どんどん廃れていき、気が付けばメルマガも届かなくなっていた。
自分もファンサイトの更新が停滞し、ファンアートも描かなくなった。
が、リア友たちはそんな状況になっていることを全く知らない。
「描いたよ!」と、今まで通り自分が好きなキャラの絵を描いてプレゼントしてくれる。
嬉しいはずなのに、状況が状況だけに何も喜べない。表面だけの感謝を述べていた。


そこから数年して、ゲーム実況が文化として誕生し始めた頃。
一部のファンは、ファンとして応援し続けることを選び、
公式の動きに疑念を感じながらも、ゲーム実況動画の投稿や、配信活動を続けている人がいた。
新たなタイトルの発表があったタイミングで、自分はたまたまその人の配信の一つを見ていた。

いろんな国で、ほぼほぼ同時期に発売されることになったその新作は、
TGSにて試遊ができるぞ、といった内容だった。
が、その展示場所はファミリーコーナーと呼ばれるブース。
小学生以下の子供と親御さんのみ入場できるというブースだ。
つまり、大人単独では試遊すらできない。

これは日本でのみの対応であり、他の国ではそんな子供向けのゲームとして徹底しているものではない。
むしろ自分がハマった頃に行われた路線変更よりも前の、初期のシステムを意識して開発された、
昔のファンが歓喜する作品…のはずだった。
それがなぜか、日本でのみ、完全に子供向けのゲームとしての発表がなされた。

配信している方は、うなだれながら、悔しそうに
「俺らは応援することも許されないんか…」
と零している様子は、とても印象的だった。
自分も自分で、もはや「あの作品にハマるべきではなかった」と後悔するぐらいになっていた。

一応さらにその後、とある人気ゲーム実況者の方が、
自分がハマる原因にもなったゲームを「神ゲー」と呼び、
最後まで実況されていたこともあって、
「やっぱり自分はこのタイトルが好きだな」と思い直したのが、現状ではある。


結局のところ『好きなもの』は好きなわけだ。
問題はその『好きなもの』を、現行のものと同一視し続けるという行為は、
互いのためにはならない、というのが自分の知見ではある。
今回であれば、公式がシリーズとして発表するタイトルすべてが全部好きと思い込みたかった半面、
それは現実には差があって、嫌いな側面が全くないと言えば嘘になる。
そこを無視して「好きです」と言い続ける行為は、結局自身の足枷や負荷になっていく。

また、例え大多数の方と共有できている認識を元に活動していたからといって、
それがすべてルールや正解になるものでもない。
というか、そんなことになっちゃいけない。
作品を作り発表している組織や人たちが、その作品の在り方としては正解であり、
気に入らないことがあるのなら、黙って自分たちの方が離れるべきだ。
互いに喧嘩するべきでもないし、制作者に向かって暴言を吐いていいものでもない。

「これ、やってることがやばいかもしれませんが、指摘されたらやめます」は本当に怖い。
公式・ご本人…制作者側から注意勧告なんて来るわけがない。
実際のところ、指摘してくれる人なんていないからだ。
多くのファンに囲まれながら活動しているのなら、なおのこと。
盲目的に「自分たちが正しい」と思い込んでしまうぐらいの環境である、と自覚しなきゃいけない。
「やばいかもしれない」と察しがついてるのなら、まだ救いがあるのだから、
我に返って、自分自身で何がやばいのかを考えて、修正すべき点は修正して、
自信を持って活動できるようにして欲しいと切実に思う。

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