ミキシングトリートメント(4)~面倒だけどプラグインを挿してから書き出す~

 ミキシングトリートメントシリーズは、ミックスの手法やプラグインの使い方を解説するようなものよりも、豆知識だったりプチテクニック的な内容の記事を中心に書いている。今回もまたそんな豆知識的なプチテクニックを扱っていく。

 今回のテクニックは完全に面倒そのものであるし、そもそも要る?って言われたらそれまでの話ではあるので、どちらかと言うと私の考え方という意味合いの強いテクニックではあるのだが、やっている人は確実に居る手法なので気になる人はこのまま読んで頂きたい。

 今回のプラグインを挿してから書き出すっていう話なのだが、ミックス前の音素材を作る時の話だ。録音や打ち込みを行った素材は基本的にオーディオデータとしてちゃんと音素材にして書き出していると思う。ベースならベース。ドラムならドラムのパーツごとに書き出しを行うと思う。

 ここまで書いて「打ち込み音源のエフェクターは外してバウンスをしなければならない」と教わった事のある人は「え?プラグイン挿すの?」となると思う。当然の疑問である。考えている事が文面上は真逆の概念になるからだ。

 まず打ち込みの音源に付属しているエフェクターを外せと教えられる理由としては、単純にエフェクトを扱うタイミングというのは、ミックスの工程で行うべき処理であり、音源のエフェクターというのは音を派手に聞こえさせる為の機能なのである。リバーブが派手に鳴っているとやはりかっこよく聞こえるもので、付属音源のほとんどはリバーブをソフト側でつける事が出来るものが多い。

 しかし、ソフトについているプラグインは申し訳ないのだがチープな性能の物がおおく、何よりセンドリターンで共有することが出来ないので、音像としてその音源にしかリバーブを掛ける事ができないので、それなら音源のリバーブは外してミックスの工程でちゃんとリバーブを掛けた方がいい。となるので、ミックス前の素材としては余計なものは外してほしいと言うエンジニアがほとんどである。何よりリバーブやディレイは厄介で、その効果が掛かった状態で別のプラグインの処理をやるとなれば、リバーブやディレイの要素にまでプラグインの効果が乗ってしまう。

 ダイナミクス系のプラグインで音圧を稼いだ場合、リバーブまで大きくなってしまう。これが空間系のプラグインを使ってしまおうものなら、リバーブに対してリバーブが発生するので、もう飽和も良い所である。そうなるので、基本的にミックス前の音素材にエフェクトはかけるなと言われるのである。勿論ギターのようなディストーションに関してはまた話が違ってくるのだが….

 今回書きたいプラグインを挿して書き出しをするっていうのは、違う目的がある。

 例えばボーカルを録音する時に、大体の人はオーディオインターフェースにマイクを繋いで録音するというのが基本ではないだろうか?しかし、エンジニアによってはオーディオインターフェースとマイクの間に実機のコンプレッサーやEQを挟む人が居る。スタジオによく分からないハードの機材を置いている場面を見るだろう。あれは録音機材で、あれらを挟むかどうかで倍音を豊かにしたり、予め音量差を縮めた状態で録音をしたり、録音の段階で良い仕上がりにすることを目的に設置をされている機材である。

 もし家でボーカル録りやギター録りをしたいという人は、マイクプリアンプを1台でもあると全然音質が違ってくる。恐らく多くのボーカリストはインターフェースにマイクを直接挿して、音割れがしない所にインプットゲインを調整して何とかするって人が多いのではないだろうか?それだと音量差が激しくなり、少し大きな声を出したらすぐピークを越えて音割れがしてしまうというような人が多いのではないだろうか?それも、マイクプリアンプのコンプレッサーで一定の音量を超えたら抑えてくれる機能があるので、そういったものを活用してピークを超えないように調整する方法もある。まあ、これに関してはまたコンプレッサーの話の時にでも執筆したいと思う。

 また、他にもマイクプリアンプやEQなどのハードの機材というのは、メーカーや機種によって音の雰囲気や質も変わるので、そのメーカーの音が好きで使うというエンジニアは多い。Tube-techなんかは特にどのスタジオにも1台は置いてあるってぐらい使う人が多いハードだと思う。私も正直欲しい。

 しかし、現実問題として宅録をする人はただでさえ機材費が掛かって辛いという人は多いと思う。楽器なんてやっていたら楽器もそうだし、ギターなんかはエフェクターも揃えていたらそれだけで数十万は飛ぶので、この手のハードまで買おうとなると、だいぶ現実的に辛いものがあるのではないだろうか?

 と、ここまで読んでくれた方にこそ、今回の書きたい事を試してみる事もありですよ?という事を書きたい。

 私の場合何をするのかというと、自分で作る音素材や貰う音素材に予め実機再現系のサチュレーターを通した状態で書き出しを行う。例えばPSP VintageWarmerのような分かりやすいサチュレーターなんかは挿すだけで暖かい音になる。これを各トラックに挿したものを書き出して、それを音素材としてミックスを行うのである。

 処理としては滅茶苦茶面倒ではあるものの、これを挿して且つゲインも少しだけ上げた状態で書き出せば、サチュレーターの効果を付与した状態で且つ音圧も稼げるので、下ごしらえをした素材からミックスをスタート出来ると個性を出しやすくなる。

 この処理は録音時にマイクとオーディオインターフェースの間にマイクプリアンプを挟むのと同じような考え方だと思って頂けると、この処理の狙いが何となくわかって頂けると思う。

 ちなみに各トラックごとに書き出していると書いたが、このプラグイン自体はマスタートラックに一本挿しておけば、全てのトラックにプラグインの効果を与える事が出来るので、そこから書き出してみる事を勧めたい。

 どうしても全てのトラックにかけるのは怠いと思う方は、ボーカルトラックやギターソロのトラックにだけでもかけてみる事を勧める。

 何より昨今のDTM環境といえば、どのDAWにもビンテージ系のプラグインはあるだろうし、サチュレーターだけじゃなく実機モデルのプラグインで試してみたり、複数のプラグインを重ね掛けしてみるのも面白い。何よりミックスでプラグインの重ね掛けをしすぎると何かと飽和状態になる要因にもなるし、昨今のマシンパワーを気にしなくてもいいぐらいの性能になってきてはいるが、それでも余計なプラグインを挿す量を減らした方が、マシンには優しいのでいずれにせよオーディオ素材にしてしまった方が良い。

 ちなみに私が仕事でミックスをする時は比較的高頻度でこの処理を行うし、最低でもボーカルにはこの処理を行う事が多い。

 もし私にミックスの仕事を振って頂けるようであれば、このようなトリートメントもしっかり行うので、検討してみて頂きたい。

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