歌ってみたのミックスで弄れる場所(2)

 そもそも論の話から入るのもどうかと思ったのだが、結局現実問題としてオケに馴染まないとか、ボーカルが前に出てこないっていう悩みの大半って、使っているプラグインだとかテクニックとか以前の話なのである。

 何度も口すっぱく言っているのだが、歌ってみたで出来る事なんてそもそもミックスではなくて、オケにボーカルを乗せるだけの工程でしかなくて、それ以外の事は出来ないのである。やってる風に見えている作業工程はあくまでそれっぽく見えているのであって、ミックスのそれとは天と地の差がある。

 トドメのような事を書くと、所詮ボーカルとオケ、或いは両方を弄るという3パターンしか出来る事が無い。その3パターンの中で細かく出来る事を分岐させているだけに過ぎない。滅茶苦茶シビアな事を言っているようだが、恐らくちゃんと正しくミックスをやっているエンジニアであれば、この私のような極論染みた発言を否定する者は誰一人として居ないだろう。何故なら私が悩むような事は、全エンジニアが悩むのだから。

 それでも出来る事はあるにはある。これを歌い手がちゃんと納得できるかどうかの話であるが、これを納得できると作品の仕上がりは大きく上がる。これだけは言える。

身の丈にあった曲を選ぶ

 これが一番歌い手にとって実は辛い話だと思う。何故なら歌い手っていうのは歌手とは違い、歌いたい曲を好きに歌いたいという人がやっているもので、嫌いな曲を選ぶ人は居ない。職業ボーカリストではないのだから。

 しかし、残念ながら貴方が楽曲を選ぶ事はあっても、楽曲が貴方を選んでくれるとは限らないのである。これを私は相性というのだが、メジャーアーティストですら相性問題で合わない奴は合わないのだから、歌い手なんていったらもっと合わない曲が出てくる。

 本題としては、その合う合わないというのを歌い手自身が理解をしないのだ。

 私の経験から言わせると、ダメな歌い手であればある程バカみたいに高音の楽曲を選ぶし、#や♭が4つ以上出てくる音程を取るのが非常に難しい楽曲を選ぶ。そして案の定音程はハズレまくっていて、正直キーを一つ上げるか下げるかした方が修正が楽なレベルでズレる。それだけなら御の字だが、そういう人に限って連符の多い楽曲だったり、リズムまで揺らいでいたり、そもそも波形がボソボソとしていて修正不可能なテイクを送ってきたりする。

 要するに作品としてアップしたいと思っているにも関わらず、余りにも歌いこみが足りな過ぎて、逆にエンジニアの方が愛を持って楽曲に接しているレベルで、楽曲に対する愛が不足しているような状況が発生する。

 未だにジェバンニとか言う文化があるのかもしれないが、本当にその楽曲が好きで歌いたい、その楽曲で勝負をしたい、もっとこの楽曲を広めたいと愛を持って歌いたいと思っているのであれば、私が歌い手とやらをやるのであればジェバンニとかいう最速投稿なんてことはしない。プラン上即日納品を承っている立場で言うのもナンセンスな事は承知だが、あくまで私が歌い手と名乗るのであればの話なので、そこは共感して頂かなくても結構。あくまでちゃんとしたテイクさえ録れれば、エンジニアをやる我々からしたら仕事は出来るので。

 しかし、ここまで書いて思い当たる節があり、図星だと思ってしまった人がいるのであれば、一度考え方を改めてほしい。テクニック以前に楽曲に対する姿勢を見直す事を勧めたい。本当に大事にしたい楽曲であれば、自分の願望よりも、まずその楽曲をちゃんと歌えるようになってから録音に望む事を勧める。これに関してはプロもそうだが、ボーカリストになりたい人、ちゃんとした歌い手になりたいのであればプロもアマも関係なく、基礎練習だと思って欲しい。

 こうして楽曲にちゃんと向き合っていけば、歌える楽曲がどんなものなのか、自分に合っているのかどうかというのが分かるようになってくる。ちゃんと向き合った楽曲って、ヘタクソなテイクでもヘタクソなりのちゃんとしたデータになっているものだ。

 そこからは我々がそのヘタクソなテイクをちゃんと魅力のある楽曲にするので、是非依頼をしてほしい。勿論自分で作業をするにしても、確実にミックスがやりやすいデータになっているはずだ。

 身も蓋もない話を今回は書いてしまったが、作品の完成度を高める為には必須な考え方だと思うし、本当は楽曲と向き合わなければならない事なので、これを期に自身の姿勢が本当に歌い手として正しく楽曲に向き合う事が出来ているのか考えるきっかけにしてほしい。必ずミックス後の仕上がりに影響を与えるから。

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