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静かな朝ごはん。

映画の効果音を演じて録音するという変わった仕事をしています。その仕事柄、私がなぜ朝ごはんのメニューを気にしているのかというお話です。

私は毎朝、仕事場であるレコーディングスタジオへ行って、マイクの前に立ちます。と言うと、歌手がヘッドフォンをして、鼻のあたりにぶら下がったマイクに向かってその声を録音するイメージが浮かぶかもしれませんが、私の場合は違います。私達が録音する効果音の多くは手元、足元で発生しますから、私の前に置かれるマイクは、足音を録る時以外、常に手元に向けられています。つまりお腹のあたりに向いていることが多いわけです。感度の高いマイクを使いますから、お腹のちょっとした「コロコロ〜」や「キュルル〜」もよく聞こえてしまいます。もちろんNGです。

お腹は、空腹の時やお腹を壊した時だけキュルキュル言っているわけではありません。何か食べ物が胃に入れば、自ずと消化作業が始まるわけで、小さな音を伴うことも多いです。もちろん、一日中高感度マイクロフォンをお腹に向けなければ、大抵の場合、気になるようなボリュームではないわけですが。

足音の間や、単発の音の録音中にお腹が少しなった時は、編集で切り抜く「クリーニング」ができますが、それが厄介になるのは「クロース」と呼ばれる、衣擦れの音を録る時です。この作業は映画の最初から最後まで、登場人物が来ている衣類に合わせて、俳優さんの全ての動作をリアルタイムで録っていく作業です。この繊細でしかも長回しの作業中、しょっちゅうお腹がキュルキュル鳴っていては、クリーニングの作業にとんでもなく時間がかかってしまいます。

ここでやっと朝ごはん登場!

どうにかお腹を静かに保てないものか、と長年模索した結果、お腹のコロコロをある程度コントロールする方法を学びました。

クロースを録る日の朝ごはんは、「お粥」です。それを仕事が始まる1時間前までに食べ終えておきます。それと一緒に水をたくさん飲みます。大好きなコーヒーも、作業が終わるまでお預けです。パンやクッキーなど小麦粉ベースの食品は私の胃の中では、大きな声で歌うのでダメです。生野菜やフルーツ、ヨーグルトも残念ながらアウト。でもバナナだけは非常に協力的で、ベストフレンドです。クロース録りの作業は4時間にもなることもあり、そうなるともうお腹がランチモードにもなってきますから、その場合はバナナを用意しておき、お腹が朝のスナックを注文し始めそうな頃、食べます。そしてまた水を飲みます。

お粥、バナナ、水。これが私の「静かな朝ごはん」のメニューです。

読んでいただきありがとうございました。








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私の朝ごはん

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