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大曲都市さんのセミナー参加記(前編)

2023年6月。ロンドン在住の書体デザイナー、大曲都市さんが来日して各所で講義・講演を行われました。フォントかるた制作チームの2号こと、伊達がそのうち2つに参加し、大いに刺激を受けてきたので、備忘録のつもりで記録しておきます。

大曲さんのプロフィール。ご自身のサイトから。

トークのひとつめは、6月19日にSBテクノロジーで行われた、『FONTPLUS DAYセミナー Vol. 57 [来日記念開催]タイプデザインの現在』

久しぶりのリアル開催。いつも素晴らしい場所を提供してくださってありがとうございます

大曲さんは2008年に武蔵野美術大学(以下ムサビ)を卒業されていますが、卒業制作の際に指導されたのが白井敬尚先生。ムサビでの特別講義も含め今回の東京ツアーは白井先生がアレンジしてくださったとのこと。
ムサビは本当に先生方が豪華です。うらやましい。

大曲さんはムサビを卒業後にイギリスのレディング大学に留学。森と湖が美しいキャンパスの写真を紹介してくださいました。レディングは郊外の街で日本で言うと八王子に当たるような場所だそう。

大曲さんの留学について書かれた記事を見つけました↑

そしてその後、Monotypeに入社。Monotypeには豊富なアーカイブがあるそうで(すごそう…)、その中のBerthold Wolpe(ベルトルト・ヴォルペ)氏の5つの書体を大曲さんがデジタル版として制作。「The Wolpe Collection」としてリリースしたそうです。

↑ヴォルペさんについて(英語)

↑こちらの動画で、Wolpeさんのことや大曲さんがThe Wolpe Collectionに取り組む姿が見られます。素晴らしい動画で何度も見てしまった。

またこのCollectionの中でも一番の人気書体であるAlbertus Novaについては、先日「戴冠式を飾るフォント」としてnoteにも書きました。

このお話の中で興味深かったのは、「映画などのスクリーンで見ると映える書体」や、「VHS時代のタイトル文字」「印刷の文字」といった、フォントの用途について多く言及された点でした。

もとのAlbertusが使われていた例として、映画『DUNE』やTVドラマ『プリズナー No.6』が取り上げられました(プリズナーは知らなかったので、ちょっと調べてみてめっちゃ観たくなってます)。Albertusは見た目にインパクトがあり、不安な心理描写に合い、そして何より1960年代の不鮮明なTV画面でも読みやすかったのでしょうか。

続いてのお仕事として、Noto Sansのお話がありました。
Notoについては、こちらを。

大曲さんはモンゴル文字やチベット文字、梵字などを担当されたそうです。読めない、しゃべれない言語のフォントって作れるの?と思ってしまいますが、フォント製作の時間の半分をリサーチに当て、文字の書き手にアクセスすることや、可能であれば現地に行って調査することによって作り上げたそうです。「読めなくても文字は視覚言語だから大丈夫」とおっしゃってしました。

そして大曲さんの「書体の不平等をなくしたい」という言葉はとても胸に響きました。
われわれはこうやって文字を入力して自分の考えを表すことや、自動翻訳などの機能も使いつつ海外の情報に触れることができますが、そもそもフォントがなければ情報にアクセスすることも、自分の意見をコンピュータで書き記したり、SNSやブログに書くこともできないわけです。
フォントがないだけで、ネットやデータベース上で「ない」ものとして見過ごされてしまう。そんなこと、あっていいはずがないと。
本当にその通りだと思いました。Notoフォントのようなプロジェクトは、大きな資本や才能を集めないとできないことで、Googleのこの取り組みは素晴らしいことです。

話題は変わって、Glyphsの書籍について、プラグイン「BubbleKern」について、楽しみながらカーニング作業をするためのコントローラーの開発、オリジナルルービックキューブなどのお話も。ゲーム好きな大曲さんならではの文字作り・書体の楽しみ方を見せていただきました。

↑大曲さんをはじめ、製作陣がヤバすぎるGlyphs本の決定版。

↑BubbleKern

↑ちょっとおかしいルービックキューブ

モデレーターの白井先生から、大学時代の大曲さんの話を伺えたのも楽しかったです。冒頭に白井先生は「我々とは世代が違うことを実感する」とおっしゃっていましたが、大曲さんのお話を伺っていると、ご自身の世界や楽しみと、タイプデザインとが自然に楽しく融合されていて、実に軽やかにお仕事をされているように見えました。
白井先生は「しかも、しっかりとした知識や技術・経験の土台の上に成り立っていることが素晴らしい」とも。本当に。

かっちょいい名刺。合紙になっていて、カット面からわずかに色が見えます
大曲さんのフォントを使ったパッケージのお菓子と、ご自身で焙煎されたコーヒー。フランスの豪華コミックなどをお土産に持ってきてくださいました。残念ながらジャンケン勝てなかった…


終演後に白井先生にムサビのお話を伺っていたら、「こういう人(大曲さん)が出てきてくれると、(先生として)冥利に尽きるよね」とおっしゃっておられて、本当にお幸せそうな表情をされてました。

もうひとつのセミナーの話は後編へ

(追記)
大曲さんおすすめの『アメリカン・ポップ(1981年|アメリカ)』をU-NEXTで観ました!よかったです。なんでこれ知らなかったんだろう。



フォント名を読み上げて、そのフォントで書かれた札を取る。「フォントかるた」の制作チームです。書体やフォントに関するあれやこれを楽しく綴ります。https://www.fontkaruta.com