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#15 極私的“文化系”ヒップホップトラック・ベスト10

 あー、またしても年末年始のバタバタをなんとかやり過ごしているうちに、夏フェスのラインナップが発表される季節になってしまいましたね。サマソニはBlurとKendrick Lamarが、フジロックはFoo Fighters, LizzoとThe Strokesが、それぞれヘッドライナーとして発表されました。
 ブリットポップ全盛期に青春期を過ごし、高校生の頃にはデーモンアルバーンが表紙のロッキングオンを持参して散髪屋に行っていたっていう、なんとも恥ずかしい過去を持つ不肖ワタクシ、もちろん活動再開したBlurに盛り上がらないわけはないのですが、それよりもLizzoがあの苗場のグリーンステージで、どんなステージをぶちかましてくれるのか、Kendrick Lamarがあの2019の苗場を経て、新しいアルバムを提げてどんなステージが繰り広げられるのか、ぶっちゃけそれが1番楽しみなわけです。

 というわけで、なぜかいわゆるヒップホップ、ラップミュージックがなかなかメインストリームど真ん中で盛り上がらない日本のポップシーンに風穴をあけたい、などど大きな志があるわけではないのですが、これだけポップミュージックとして世界のスタンダードになっているラップを、特にハードな出自を持つわけでも、喧嘩上等なBreaking Downライフを送っているわけでもない自分が好きになったのか、そのきっかけになった曲たちの中から10曲選んで紹介したいな、と。
 ヒップホップのカルチャーが、セルフボースティングをラップして周りをなぎ倒しながら成り上がっていく、みたいなそうした側面を否定するつもりも何もないし、そうした中で重要な作品やアーティストがたくさん生まれてきたとも思うのですが、それ以外にももっとこの音楽の楽しみ方ってあるんじゃないか、と常々考えているわけで、その辺りが見過ごされるのがちょっと残念だなぁ、なんて。
 なんだかんだまた今回も長々と書き連ねてしまいましたが、じゃあ、ちょっといってみましょうか。

  1. Jurassic 5 “Jayou”  

 もう、とりあえずこの動画の2分くらいからの数分間を聴いてください。とにかくこのハーモニーとビートがもう… 歌詞の意味も何もよくわからなかった自分が、それでもその下半身を直撃する”ビート”と口ずさまずにはいられなくなる”フロウ”の楽しみ方を教えてもらったのが、2000年にリリースされたこのJurassic 5のデビューアルバム、”Quality Control”なのです。アメリカ西海岸出身の4MC+2DJ、肌の色も何もかもバラバラなこのクルーの奏でるこの音楽、特に個性もバラバラな4人のMCが醸し出すフックとハーモニーを、したり顔で”ヒップホップ界のビーチボーイズなんだ”とかぶち上げて周りに聴かせまくったあの頃の自分が懐かしいです。

2. Cibo Matto "Working for Vacation"

 で、そのJurassic 5ともう1組、自分がラップに本格的に興味を持ったきっかけになったのが、この日本出身ニューヨーク在住の2人組、チボマットの2ndアルバム、”Stereotype A"の衝撃でしたね。チボマットを知ったきっかけはスパイクジョーンズのビデオ(#4参照)だったんですけど、1stの頃はもっと何かアバンギャルドな感じで、リリックも割とシュールな感じだったのが、1999年にリリースされたこの2ndアルバムは無茶苦茶洗練されつつちょっとシリアスで、ビートもかなりファットな感じがあって最高で。一般的には今でも1stの頃のイメージが根強いのかもしれませんけど、この2ndはほんとに傑作ではないかと今も思ってます。
ちなみにメンバーの1人であるハトリミホさんは、ゴリラズへの参加などを経て、本人名義やNew Optimism名義で今もクールでホットな曲をリリースされてます。

3. De La Soul "The Magic Number"

 Jurassic 5とチボマットがキッカケになって、そこから過去の色々を掘っていくことになるんですけど、そうすると当然行き着くんですよね、ネイティブタン一派に。冒頭で述べたみたいなヒップホップカルチャーへの反動と称され、いわゆるニュースクールと言われた世代を代表する3人組、デラソウルの1989年にリリースされた1stアルバムからの曲。超ファンキーなビートと特に意味があるのかないのか分からない記号的なリリックが印象的…とかまあいろいろ語れることもありますが、まあとにかく最高です。
 特にこの頃のラップは過去のあらゆる音源をサンプリングしていることもあって、権利関係がクリアにならずに曲がストリーミング公開されてなかったりして、その代表格がデラソウルって感じでしたけど、ようやくレコード会社と話もついて、3月ごろにはこの頃のアルバムがまた聞けるようになるみたいです。
 デラソウルといえば、映画のサントラの曲でTeenage Fanclubとも共演してて、
そちらはギターロック界隈で何度もフィーチャーされがちなジャンルを超えたコラボレーションとして語られるんですけど、ラップのフロウとTeenageみたいなコーラスワークって、意外と共通点が無茶苦茶あるような気もして。

4. A Tribe Called Quest "Can I Kick it?"

 ジャングルブラザーズ、デラソウルと並んで、ネイティブタン一派の代表的なグループが、このア・トライブ・コールド・クエスト(ATCQ)ですよね。冒頭からルーリードの超有名曲”ワイルドサイドを歩け”のサンプリングがループする中を、Q-TIPの鼻にかかる独特のフロウが弾ける1990年の1stアルバムからの曲を。ATCQはキャリアを通じて本当にいい曲が多くて、ベストアルバムは信じられないくらい全部最高です。

5. スチャダラパー "B-BOY ブンガク”

 そうこうしているうちに、ようやく1周して気づき始めるんですよね。日本にもネイティブタン直系の、デラソウルと同じ3人組がいたってことに。もちろん小沢健二との”今夜はブギーバック”とかは世代ど真ん中なんでリアルタイムで聴いてましたが、スチャダラのホントの凄さみたいなものを思い知ったのは、デラとかATCQとかを通過した後にこの1995年のアルバムを後追いで聴いた時だったように思います。イメージ通りのひねりが効いたニヤッとしちゃうリリックはキャラ通りなんですが、そのファットなビートがホントにすごくて。中でもこの曲は何もかも完璧。
 彼らの音源もそうですけど、いろんなユニットを束ねたクルー”LBネイション”を結成して、個性的なメンバーとコラボしてライブをやったり若手をフックアップしたり、いわゆるヒップホップカルチャーの正統派、みたいな活動もずっと続けてる、ホント偉大なグループですね。

6. かせきさいだぁ "さいだぁぶるーす”

 で、そのスチャダラパー主宰のLBネイションのメンバーでもあるかせきさいだぁ、この不思議な名前のアーティストは、聴けば確かにライムしていて、ラップであることは間違い無いんですけど、リリックの引用もサンプリングも日本の歌謡曲(この曲の冒頭は原田真二の引用から始まります)やはっぴいえんど、佐野元春から梶井基次郎まで、独自のセンスがあって本当に唯一無二なんですよ。この曲が入ったセルフタイトルの1stアルバムが1996年、これぞ”文化系”ヒップホップって感じで、ヒックスヴィルの3人をフィーチャーした、確かメジャーデビューシングルだったこの曲が自分的には今でも夏のテーマソングです。

7. SHING02 "星の王子様”

 ベクトルは全然違いますが、かせきさいだぁと同じように、ラップのリリックって自由でいいんじゃない?みたいな気持ちにさせてくれたのがSHING02、こちらも初期の代表曲です。自分自身のことや社会への不満や苛立ちをライムする代わりに、何かSFみたいな創作ストーリー仕立てのリリックでポエトリーリーディングとラップの間を駆け抜けるみたいなその独自性、特に日本語でラップしている曲たちを聴くたびに、彼のことは”稀代の日本語リリシスト”と断言してしまいたくなります。
 NujabesとのLuv(sic)シリーズが多分いちばん有名で、もちろん最高なんですけど、昨年気鋭の若手であるBAKU/Daichi Yamamotoとコラボした"PLAYER"も去年ムチャクチャ聴きました。

8. The Streets "Has It Come to This?"

 UKからもこんな才能が。ビートはブレイクビートというよりは当時流行ってた2ステップマナーですが、UK訛り丸出しで英国マナーの皮肉を交えて吐き出すようにくだらない日常をライムするマイク・スキナーことストリーツ、この人も何だかクセになる声というかフックというか、そういう感じがあって、歌詞も分からない段階でもアホ程聴いてたなぁ。近年もUKから継続的にラッパーが登場していますが、割と最初に意識したのがこのストリーツだったような気がしますね。

9. 曽我部恵一 feat. PSG ”サマー・シンフォニー Ver.2"

 今やポップシーンを股にかけて活動の場を広げ続けるPUNPEEが、SLACK(実の弟さんです)、GAPPERと3人組で活動していた(る?なのかな?)PSG。彼らの活動も、いわゆるヒップホップカルチャーとはちょっと違う形ですよね。この曲は元々は曽我部恵一さんのソロの曲のB面で、元の曲も曽我部さんのラップっぽいフロウがあったりはするものの、実は全くと言っていいほど違ってて、このバージョンはPSGの曲みたいな仕上がりになっていて。新世代の到来を感じた1曲、かも知れませんね。

10. Tyler, The Creator "WUSYANAME"

 これまでに紹介してきたみたいな、文化系、って表現してみたくなるような系譜って、時代によって流行らなくなったりもしている気がするんですが、その最新型がこのタイラーとOdd Future周辺なんじゃないかと思いますね。フランクオーシャンとかまでいくともうジャンルはラップなのかもよく分かりませんが、タイラーは聴けば明らかにラップしてるんですが、山下達郎を割と思いっきりサンプリングしてみたり、引用してるものがジャンルを軽く飛び越えてしまってますし、あととにかくオシャレ。いでたちが。いっつも。そこらへんも好き。

 とまぁ、いつも通り時系列も地政学もバラッバラな10曲をまた長々と紹介してしまいました。最初に述べた通り、特にこれといった特徴もない普通の学生が普通に会社員になったような、人よりちょっとだけ音楽が好きだったってだけの自分でも、ホントに”これはオレの音楽だ!”って言えるような大切な曲たちが、一見するとコワモテで、自分とは関係なさそうなヒップホップカルチャーからも生まれてきたってことが伝えられたならいいなぁ、と思いながら紹介してみました。





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