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【フットボリスタ・ラボ発】「ココロとカラダの研究所」(片野道郎×ロベルト・ロッシ)書評 その1

【書いた人】黒田 泰孝(twitter:@an_tropical
フットボリスタ・ラボ3期生
サッカーの指導者でもなく、サッカーチームの運営に関わるでもない一般人だが、ラボ内ではあっちこっち顔を出して色々勉強したい欲張り。
わっきーさんのゲームモデル本でも座談会にお邪魔している。


 フットボリスタ発書籍群の第一弾として刊行された、片野道郎さんの「ココロとカラダ研究所」。本書を拝読した際に、真っ先に頭に浮かんだことがある。

「確かに、メンタルというのはスポーツゲームの中においても数値設定されている程に認識されているものなのに、これまで論理的な解釈というもがはなされていないのでは?」

 サカつくにおいては六角形グラフのパラメータ構成要素に入り、ウイニングイレブンにおいては「コンディショニング安定度」という項目で(メンタルを考慮したと想像できる)パラメータ設定がなされている。そして競技は違うが、実況パワフルプロ野球では「やる気」パラメータの高低がケガの発生率やパフォーマンスの良し悪しに直結する。
 ビデオゲームに限らず、パフォーマンスの発揮において能力とメンタルは掛け算の関係で語られる事もあり、メンタル面でのケアが軽視されてきたわけではない。
 NBAの世界においても、シカゴ・ブルズやロサンゼルス・レイカーズでヘッドコーチとして数々のトロフィーを獲得したフィル・ジャクソン氏が、メンタルコンディショニングとして禅を取り入れた事があるのは割と知られた話だろう。また日本のプロ野球でも、護摩行や滝行を精神修行の一環として取り入れる選手がいる事も知られている。(パフォーマンスへの効果は不明だったが、絵面のインパクトと言う意味でスポーツ紙への露出と言う意味では大成功だった)
 ただ、その評価方法においては論理的な裏付けがあった訳ではなく、ピッチ上での振る舞いやエピソード、言動の印象で語られる事の多い部分であったようにも思える。

 これまで語られる事の多かったメンタル、人間的情緒の働きがパフォーマンスに与える影響というのは重要であると認識されていたものの、それをコントロールする事の出来る指導者はレアな存在であり、またその存在が披露してきた数々のエピソードや、公衆の面前で語る所を目撃された、または伝聞で伝わったモチベーションコントロールの為の言動がカリスマ性と称されるある種の神通力として捉えられる事もある現状から一歩踏み込んだ、と言う部分で本書が大きな一歩を踏み出したことは間違いない。

 本書は前著「モダンサッカーの教科書」からの地続きとして読むことを推奨するが、本書単体を起点としていただいても全く問題はない。

本書の冒頭ではサッカーを取り巻く環境の変化、選手のパフォーマンスに影響を与える諸条件などに始まり、果ては戦術的ピリオダイゼーションを始めとした体系的で論理的なトレーニング理論まで、おおよそ現代サッカーにおけるパフォーマンス構築の歴史が俯瞰的に語られている。なので前半部分をご覧いただくだけでも、現代サッカーの根底に流れる戦術的なバックボーンとその先に起こりうるであろう変化の予感にワクワクする事は請け合いだ。

 是非とも本書を手に取っていただき、サッカー界に起きてきた変化を捉えながらその先のサッカーの変化に思いを馳せてもらいたい。


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