「選手権は本当に"ドラマチック"なのか -過去10大会から見える事実-」

■要約すると
・メディアの見せ方で、選手権を「ドラマチック」だと思い込んでいるかもしれない。
・実際に、過去10大会においてドラマチックな試合はどれくらいあるのか調べてみた。
・結果を踏まえて、「これからの選手権をどう見ていくか」を考える。

堀本 麦(ホリモト バク)25歳。桐光学園高校在籍時、第90回高校サッカー選手権大会出場し全国ベスト16進出。同志社大学を経て一般企業に就職後、アナリストを目指しドイツに留学予定。今回のnoteは、経験則ではなく、データから得られる数字によって、直感的には理解できなかった事実を明らかにしていく。その上で「新たな視点でサッカーを捉えること」を目的としている。個人のnoteへのリンク

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思い込みと現実。

"The Premier League seems better than it is because of the way it's sold and the way they broadcast the product."
                 ーPep Guardiola on Premier League

「プレミアリーグは、その "見せ方" によって実際よりも良く見えている。」
2016年からマンチェスター・シティの指揮を執るグアルディオラ監督は、これまでのイングランドでの経験をもとに、このように語った。

これが単にメディアを褒めたかったのか、実態について訴えたかったのか、真意のほどはわからないが、今回はこの言葉をもとに少し考えていきたい。

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正月と、テレビと、高校サッカー選手権。

高校球児であれば「甲子園」に憧れ、そこを目指すように、サッカー部に所属する高校生にとって「冬の高校サッカー選手権」は大舞台であり、注目の的になる。テレビ中継や雑誌特集などを通して、もはや「選手権」はひとつのブランドとなり、箱根駅伝と同等にお正月の風物詩となっている。

"大迫半端ないって"をはじめ、多くの名言を生んだ「涙のロッカールーム」
"うつむくなよ、ふり向くなよ"で馴染みの大会歌「ふり向くな君は美しい」
"ロスタイムでの劇的な決勝ゴール"等の、手に汗握るような「試合展開」...

おそらく、一度でも選手権を見たことがある人ならば、
「選手権は、"ドラマチック" で "感動的" で "青春" だ。」
そんなイメージを抱くことが多いかもしれない。

実際に、今年の決勝(第96回) 流通経済大柏vs前橋育英は、90+2分の劇的ゴールによって、2014年決勝(第92回) 富山第一vs星稜は、87分から2点差を追い付き、延長戦の逆転ゴールによって決着がついている。どちらも当時リアルタイムでテレビ観戦をしていたが、劇的で、本当に素晴らしい試合だった。

「選手権は"ドラマチック"な試合が多いと思いますか?」
突然聞かれたら、僕はおそらく「そうだと思います。」と答えるだろう。
それくらい、強烈なインパクトが残る試合が選手権には存在する。


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そのイメージは "正しい" か?

"ドラマチック"にも様々な側面があるが、「試合展開」の部分に焦点を当てて考えてみる。

実際に "ドラマチック" な展開の試合はどれくらいあるのだろうか?
僕らが抱いている "イメージ" は、現実とどの程度乖離があるのか?
選手権についても、"グアルディオラの言葉"がそのまま当てはまるのか?

問いを立て、そして、調べてみることにした。

定義とサンプルはこの通り。
勝敗に関わる1点が「残り5分以降」に入った試合をカウントしていく。つまり、2-0で勝利した試合の1点目が前半に入っていた試合はカウントしないが、2-0の2点とも後半35分以降に入った場合はカウントする。といった具合である。

では、どうだったのか。

結果として、過去10大会の470試合において「ドラマチック」な展開の試合は63試合で、全体のわずか13.4%しかないことがわかった。(※小数点二位以下切り捨て)言い換えるのならば、470試合中の86.6%、407試合は「普通の試合」ということになる。


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常識を、疑ってみる。

"脳は、印象的な出来事を重視し、それらを記憶しようとする。実際に生じた出来事は記憶されやすいが、可能性がありながら実際には生じなかった出来事は記憶されにくい。(中略) つまり、私たちは目に見えているものを客観的にとらえて信じるのではなく、信じたいと思っているものに目を向けようとする。" (1)

テレビ中継をはじめとするメディアの"見せ方"と相まって、ドラマチックな試合は、他よりも輝きを増して映る。その意味では、グアルディオラの言葉は正しい。しかし、それだけでは不十分だ。

"見る側" が、「見たい試合だけを見て(記憶して)いないか?」
という部分が抜けているのである。

記憶しているドラマチックな試合は、全体の13.4%の「偶然」で、残りの86.6%は「ごく普通の試合」である。そして、その偶然を取り出して、選手権の"イメージ"を自ら作り上げていることを、僕らは理解する必要がある。

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陰と陽、光と影、攻めと守り。

"  びっくりするような好プレーが、勝ちに結びつくことは少ないです。確実にこなさないといけないプレーを、確実にこなせるチームは強いと思います。"  
                            ーイチロー

面白いことに、「偶然」が起きなかった大会は、過去10大会で一度もない。
毎大会、必ず一定数の「偶然」は起こり、おそらく今年もそうなるだろう。
「偶然」が多くの人を魅了する。そしてその「光」は消えないし、なくてはならないものであることは間違いない。

ただ、サッカーのほとんどの部分は「影」でできている。470試合中の407試合は普通の試合だし、選手がボールを保持する時間は平均で53.4秒しかなく、ボールと共に移動する距離は191mで走行距離の約1.5%に過ぎない。(2)残りの5,346秒と10,809mの部分は目立たないし、地味である。

では、「影」が重要ではないかというと、そんなことはない。
「影」の延長線上に「光」があり、その逆はない。
イチロー選手も、肌感覚でそれを理解している。


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「光」以外に目を向けることで、選手権をより楽しむことができる。

幸いなことに、僕らはロシアW杯の「ポーランドvs日本 残り10分の戦い」でそれを経験している。攻めるか守るか。得点ではなくその戦術や選択について多くの議論を生んだこの試合のように、過程の部分に注目する土壌は出来上がっている。

いきなり暗闇になると何も見えないが、ずっとそこにいると目が慣れてきて、暗闇の中が見えるようになる。そんな感覚で丁寧に試合を見ていくと、選手権の中にもまた新たな"ドラマチック"な部分が見つかるかもしれない。

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※(1)(2) 書籍「The Numbers Game (サッカー データ革命 -ロングボールは時代遅れか- 」より引用

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