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ジローナが示す「弱者の生き抜き方」、要は”連携”

今季のスペインのラ・リーガ最大の驚きは、ジローナと言って差し支えないでしょう。13節終了時点でR・マドリードに勝ち点2ポイント差をつけて堂々の首位です。ミチェル監督が展開する躍動感があるポゼッションサッカーは、中小クラブでも戦術次第で十分戦えることを示し、かつ改めてスペイン人監督の人材の豊富さを証明しました。

しかし、私が注目するのは経営手腕です。ジローナの経営を見ていると、中小クラブが生き抜く方法と、スペインはやっぱり育成、という魅力をガシガシ感じます。そんな経営メソッドを分析しました。ポイントは”連携”。具体的には①グローバルチームと連携、②地元チームと連携、➂国内ビッグチームとの連携です。さぁ、いざスペイン蹴球の世界へ!


グローバルチームと連携

ジローナと言えば、プレミアのマンチェスター・シティのグループであるシティ・フットボール・クラブ(CFC)の一員です。当初はグアルディオラ監督の弟さんであるペペ・グアルディオラが買収を主導し、CFCが呼応する形となりました。現在、ペペ氏はボリビア系米国人実業家のマルセロ氏に持ち株の過半を譲渡しているため、主株主はCFC(47%)となっています。

シティが2部にいたジローナを買収したのは、明らかにシティのユース選手の活躍の場を設けるためだと考えられます。実際、2017年の買収以降、ローン移籍で多くの選手が活躍の場を求めてマンチェスター・シティやマンチェスター・シティ傘下のクラブから来ました。昨季主力だったカスティージャノスも実はCFC傘下のニューヨーク・シティ所属の選手でした(今期はラツィオへ完全移籍)。

(注)年齢は加入当時の推定年齢

カスティージャノスのように南米クラブ→ニューヨーク・シティ→ジローナというパターンはまま見られます。中盤の主力になっているヤンヘル・エレーラもベネズエラの強豪クラブからニューヨーク・シティへ加入し、その後ジローナという経路をたどっています。恐らく、FIFAとUEFAのレンタル選手数の制限の抜け道を作るため、マンチェスター・シティ本尊ではなく傘下のニューヨーク・シティを使ったと考えられます。

(注)年齢は現在の年齢

いずれにせよ、ジローナにとってはメリットが大きいです。何せ、自前で南米強豪クラブにアクセスしても、札束攻勢で競り負けるか、相手にされないのがオチです。しかし、CFCの胸を借りれば、南米強豪クラブの選手を加入させることができます。現在、右サイドバックで出場しているコウト選手はブラジルの古豪コリチーバ出身。そのほか、ウルグアイのCAトルケ(CFC傘下)やアルゼンチンのエストゥアンディアスなど名だたる強豪クラブから選手が入ってきてくれていました。自前では持つことができない地域の有望選手を受け入れることが、グローバルな提携の最大メリットと言えるのです。

なお、今期無双しているブラジル人選手のサビオはフランスのトロワFCから加入しました。トロワFCはCFC傘下のクラブです。

地元チームとの連携

だがしかし、ジローナをただ単なるシティの若手受け皿とみては困ります。正直、筆者も最初は「どうせシティの隷属クラブだろぉ」と鼻をほじりながらタイピングし始めたのですが、いやいやかなり地元パワーを大切にするクラブなのです。

下図はCFCがジローナを買収してから、今期の夏移籍市場まで獲得した選手のクラブ別人数です。先ほど述べたように、シティが多いものの、実は提携クラブのペララーダとユースのジローナBからの昇格選手の方が人数は多いのです。

ペララーダとはジローナと地元同じにするプロチームであり、現在は5部に相当するテルセーラ・ディビジョンに所属します。当時のジローナは、ユースに力を入れていたのですが、中小クラブのユースチームはバルサ、レアル、ビジャレアルのように2部や3部で戦える力を持ち合わせていません。必然的にレベルの低い環境でしかプレーできず、引き上げてもすぐに育たないという悩みを抱えていました。

そこで2016年にBチームとして提携したのがペララーダです。ペララーダに選手を送り込み、4部や5部で揉まれた選手を2部で活用するのです。残念ながらリーガに昇格してからペララーダからの移籍選手は見かけなくなってしまいました。しかしながら万が一、降格するようなことがあっても、提携クラブからの選手供給があれば2部で戦える陣容を素早くそろえてリーガに再挑戦できます。この地元力が安定的な経営基盤の一助となっていると言えます。余談ですが、ペララーダはヴィッセル神戸に所属する中坂勇哉選手が18/19シーズンにローン移籍しておりました。

国内ビッグチームとの連携

ペララーダと提携しているとは言え、4部や5部で育ててリーガ(1部)に生き抜く戦力の供給はなかなか難しいです。かといって、ジローナのような中小クラブにまとまった移籍金が出せるわけもありません

22/23シーズンは一部昇格により、収入が1,400万ユーロから5,500万ユーロへ跳ね上がりました。だからと言って、ジローナが移籍市場に投じれるお金は大体1,000万ユーロ台です。シティ本尊と比較すると、以下に規模が小さいか分かります。

そこで目を付けたと考えられるのが、ジローナのいるカタルーニャ州の強豪であり、スペイン2強の一角であるバルセロナです。元々、バルサBの選手が加入することは以前からあったのですが、今期からはトップチームの2選手がレンタル移籍でジローナへ加入しました。

  • エリック・ガルシア(CB)

  • パブロ・トーレ(CM)

さらに主力だったオリオール・ロメウをバルサへ売却しています。急にバルサへ接近したのは、恐らくリーガで戦える戦力確保の一環でしょう。ジローナが公式にバルサとの接近をうたっているわけではないのですが、エリック・ガルシアのようにバルサでは出番があまりなさそうな選手を狙いローン移籍を持ちかけるという動きは今後も見られていくかもしれません。来季はF・トーレスやマルコス・アロンソがジローナのユニフォームを着ていたっておかしくないでしょう。

予算がない!だったらグローバル、地元、国内と連携の輪を広げればいいじゃない。ジローナは中小クラブの新たな生き方を提示してくれています。中小クラブは旬が速いので、今の内見ておくといいかもしれません。では、本日も良いサッカー生活を!


#ラ・リーガ


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