見出し画像

3Dプリントキャブレターのよくある質問

3DプリントキャブレターのQ&Aってよくよく考えたら作ったことないな…という事で作りました。詳しい説明は弊サークル同人誌へ(宣伝)

樹脂は何を使用してますか?耐ガソリン性はあるんですか?

樹脂はPLAを使用しています。どれくらい結晶化されているかにもよりますが、一応PLA自体には耐ガソリン性があり、溶解したりといったことは無いのですが、非晶状態(3Dプリンターから出力したての状態)では軟化・膨張は少しおきます。
この傾向も出力品をアニール処理することで抑えることが可能です。ので、私のキャブレターではエンジンと接するマニホールド部分のみこの処理を施して耐熱性と耐ガソリン性を向上させています。
(参考:ガソリン浸漬によるポリ乳酸樹脂の劣化評価https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmemecj/2011/0/2011__G040021-1/_pdf )
しかし、使用している樹脂フィラメントは「この様な用途を想定していないフィラメント」です。あくまでPLAに耐ガソリン性 があるというのは研究ベースのお話…純度・グレードの高い樹脂での話です。市販の樹脂には色を付けたり造形しやすくしたり機能をもたせるための添加物が含まれています。PLA自体はガソリンに耐えられてもこの添加剤が適切なものである保証はありません。 ただ、今までの使用でガソリンに晒されたことによって安全性に支障をきたすほどの変形が起こったり、危険を感じるほどの漏れが起こったことは無いです。
だからこそ使い続けていますし、消火設備は手放せないでいます。

フロート(試作品)。フロートは常にガソリンに晒されていますが、特に溶解や変形もせず使用できています。印刷設定をミスって樹脂層間に隙間ができてそこからガソリンが侵入して沈没…とかはありましたが…

なぜキャブレターを作ろうと思ったの?

キャブレターそのものに対して恰好良いなという憧れはあったのかもしれませんが、どちらかというと遊びではじめて気づいたらこうなっていたという感じが正しいのかもしれません。
私が製作を始める以前にDerKrawallkeks Maier氏がFully 3D Printable Carburetorというキャブレターを3Dプリンターで作られていて、その3Dデータが公開されていました。このキャブレターはすべての要素が3Dプリンターで出力できるものでしたが、印刷に精度を出すテクニックが必要なものでした。
しかし、私は精度高く印刷物を出力するテクニックを持ち合わせていないので、これをベースにしてキャブレターを再設計しました。これが最初の自作3Dプリントキャブレターです。
最初は一発ネタというか、ほんの遊びのつもりでFully 3D Printable Carburetorと私のキャブレターをCapriolo75に取り付けてキックしてみたら
自分の自作3Dプリントキャブレターがそれっぽく動いちゃったのです。
最初は「まぁ、なんとか走れるくらいまでいったら楽しいよね」くらいでやってたんですが、思いのほかまとも(?)に動いてくれて気づいたらこうなってました。 上手く行かない時や不具合が起きて原因が掴めない時は地獄ですが、それを乗り越えて走ってくれた時や、狙った構造がきちんと機能して性能が出た時なんかはそれが吹っ飛ぶくらい嬉しいです。

最初の自作3Dプリントキャブレター「PFC16 ver0.1」今考えるとこれでエンジン動いたのは割と奇跡でしたね…

全ての部品が3Dプリンターで出力されているの?

私のキャブレターではジェット類やニードル、部品間のOリング類、ビス・スプリングは市販品を使用しています。また、フロートのバルブニードルは真鍮釘を加工して自作しています。
ジェットとニードルはどうしても精度が必要になり、そこを何とかしようと足踏みするのは時間がかかるだろうな…というか、そこまで入手に難がある部品ではないので市販品を使った方が楽…というかコスパが高かろうという判断です。
ジェットは複数の種類が必要になるため、自作しようとすると現状の製作方法だと太さの異なる大量のドリルが必要になります。それで上手くいく保証もないですし…
ましてや、安価なジェットであればセットで2000円以下で入手できますし(精度は期待できませんが…)、そこである程度番手の目安を付けてから国産の精度の高いジェットを導入した方が安上がりかなと思います。
ニードルは精度はもちろんの事、あの細い形状のものを3Dプリントしようとするとどうしても強度が心配になります。折れてエンジン内に侵入したら非常に不味いという事で信頼と実績の市販品を使用しています。
今まででジェットは中国製のCVK・PE・PWK互換のものを、ニードルは中華キャブのPZ16についてるものとデイトナのPE20用のもの、ヨシムラのYD-MJN24用のMJNを使用しています。
でも実の所、ジェットとニードルの自作は完全に諦めた…という訳ではないです。アイデアはあるので、いつかチャレンジはしてみたいですね。

スロットル周り組立の図。ニードルはPZ16のもの。

他にも3Dプリンターでキャブレターを作っている人はいるの?

私の知る限りでは3Dプリンターで制作されたキャブレターは6つ確認できています。
①前述したドイツのDerKrawallkeks Maier氏のモペッド(50ccのDemm Smily?)向けのもの。
②ブラジルのScalla3d氏がBrosol Solex H32/34 をリバースエンジニアリングして製作したもの。
③国籍不明ですがMarcel PLCH氏が汎用エンジンであるホンダのGCV 160用のもの。
④アメリカのDestin Wilson Sandlin氏が自身のYoutubeチャンネル「SmarterEveryDay」内でキャブレターの仕組みを解説するための内部構造の見えるキャブレター。
⑤オランダのJan Ridders氏が模型用の自然気化式の模型用キャブレター。
⑥日本の私の70~125cc向けの4ストロークモーターサイクル向けのもの。
の6つです。
実際に車両に装着して走行しているのはDerKrawallkeks Maier氏、Scalla3d氏、私の3人です。やはり実用というか実験用に制作されている方がほとんどです。
よって構造的に見てもジェット穴+板状のスロットルバルブを備えている簡単な構造のものが多いです。
そしてなにより、皆様続報が無い…

DerKrawallkeks Maier氏のものをCapriolo75に取り付けるために色々とモデファイしたもの。
印刷精度の問題でこちらはまともに動きませんでした。でもこちらは正真正銘「Fully 3D Printable Carburetor」。しかも確認できている中で最古(2017年)の3Dプリントキャブレター。

どんな環境で制作していますか?

3DプリンターはAnycubicのMEGA-Sという型落ちエントリーモデルです。しかも、プラットフォームの上面加工は一部欠けてるわエクストルーダーを冷やすファンはぶっ壊れて回らないわ…という悲惨な状況です。(ファンは流石に直しました)
なぜこの様な状況でやっているのか…?というと「誰でも出力できる状況を想定して製作してみよう」という考えがあったからです。
もちろん、上位機種を買って設定を突き詰めて綺麗で精度の出る状態なら追加工を施さなくても作れるかも知れません。が、そこに行きつくまでのコストと経験が必要とされます。それは一朝一夕で獲得できるものではありません。
しかし、素人でも追加工を施せばそれなりに精度が出せてとりあえずモノが作れる… となればグッと参入障壁は低くなります。
同様の理由でスライサーソフトはCURA、CADソフトはTinkerCADとFusion360、い ずれも基本的には無料で使え、使い方もネットでお勉強すればそれなりに使える ようになるソフトばかりです。
テストベッドにスーパーカブとしたのもパーツが豊富で比較対象も多い、コストも安いからです。エンジンお釈迦にしても一桁万円 でなんとかなります。
「修理がめんどい」とか「印刷設定突き詰めるのがダルい」とか「金がない」とかそんな理由もないわけではないですが…
そんな訳で、最初は製作に卓上旋盤を使用するのもちょっと躊躇ってはいました。ちなみに機種は東洋アソシエイツ 精密ミニ旋盤Compact5です。

3Dプリントキャブレターの設計の特徴は?

普通のキャブレターに比べて部品をより細かく分けて製作しています。
これは印刷方向によって印刷のしやすさや寸法の精度が変わる事、小さな出力物の方が印刷しやすく時間も短くなる事、部品毎の設計変更が可能な事の3つが挙げられます。
そして、精度を確保したい箇所は旋盤やピンバイス(ドリル)、やすり等の機械加工を行っています。印刷テクニックを突き詰めても良いのですが、前述の理由でこちらを採用しています。

初めてまともに公道走行できるようになったモデル・SH16 ver0.1のTinkerCAD上での説明用部品配置の図。

廃番になったり入手困難になったキャブレター のパーツも作れたりするの?

フロート室(フロートボウル)等、固定部位かつ精度があまり必要とされない ところであれば可能だと思います。 フロート本体はそもそも浮力を持たせる印刷設定が結構難しい上に難しい形状の ものも少なくないため、難易度的には高いかも。でも、現状の民生機でも不可能では無いはずです… 鬼門なのがスロットルバルブやニードルといった断面積の小さい箇所があって精度も要求されるものです。 裏庭工芸の3DPキャブでは市販品を使ったり設計を工夫したりして解決していますが、設計変更できない市販品のリペアパーツとなると金属とプラではそもそもの強度と特性が違うので難しいです。
ただ、PLAのフィラメントでも強度が高いものが登場してきてはいますし、3Dプリンターの印刷精度も日進月歩で進歩してきてはいますので、近い将来切削加工に頼らなくても印刷のみで精度が出せるようになるかも知れないですね。 実は現時点でも多くの方が制作されている実績のあるものがあります。 エアファンネルとガスケット類です。いろんな形状のファンネルを作ってパワーチェックと比較をされている動画もあります。YouTubeで「velocity stack 3d」辺りで検索すると出てきます。
ガスケットも樹脂がPLAではなくてTPUにはなりますが、TPUも耐ガソリン性があるそうでガスケットとしてちゃんと機能するみたいです。
これらは設計・印刷も容易ですし、ファンネルだけでも特性は変わってくるので「いきなりキャブレター自体を作るのも大変そうだな〜」という方はこれらからスタート してみても面白いかもしれません。

とりあえずこんな所かな…
古いバージョンのキャブレターですが、データも公開しております!https://www.thingiverse.com/moris917/designs

3Dプリントキャブレターについての詳細を書いた同人誌も出しております!https://backyardworks.booth.pm/

他に疑問・質問がございましたらこの記事のコメント欄でも大丈夫ですし、Twitterの方でも伺います。
VRChat(ユーザー名:モオリス(moris917))で作業中だったり暇そうな時やイベント「VRCエンスー天国」開催中にJoinしてきてもらえればより詳しいお話ができると思います!
よろしくお願い致します。

最新の様子。2023年5月2日にモビリティリゾートもてぎで行われたGoodOldays・サーキットクルーズでの一コマ。無事にフルコースを2周できました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?