ASKA「Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ」について

ASKAさんの2019年前半のツアー「40年のありったけ」神奈川公演 開演前に聞いたのが最初だと思う。 その後宇都宮・東京・名古屋と見たが、この曲が終わるとライブが始まるというのは分かったため、毎度開演前に、如何ともし難いテンションまで振り切れそうになっていたのであった。

この曲は東京オリンピックのテーマソングということで制作されたというが、ミュージシャンがライブに向かう姿というのは、アスリートに通じると思う。 結局は自分の技術で魅せていくしかないのだから。 この曲は、徐々に自分のやってきたことを振り返り、自分の中で肯定しながらテンションを上げていき、決戦の場に向かうアスリートの姿を描いており、ライブの始まる前の荘厳な雰囲気と緊張感にマッチしていると思う。
曲の持つ力というのは上記のように十二分に感じていたわけで、ここにこの曲を持ってくるセンスたるや。

曲を紐解いていこう。
まず男女のコーラスから厳かに始まっていく。人工的に加工された声だとのことだが、どこか原始的民族音楽のように感じるのはそのせいだろうか。コーラスが一巡する0:50ほどまではドラムが加わるのみだ。 初めて聞いたとき、コーラス部分はイメージより少しテンポが速いと感じたが、これが0:50辺りで声がフワッと拡散していくようなハーモニーとなる。 僕はこのハーモニーが、自分のやってきた記憶を思い返していく時の情景に感じる。

このハーモニーのあとは高音弦から始まり、低音弦で受け継ぎ、1:50からはドラムセットが加わり、管が足され……というように徐々に音の厚みが増していく。
決して派手ではないのは自分の中だけにあることだからで。 積んできた努力、周りの応援……一つずつ確認していく作業かもしれない。

2:58ではブワッと風が吹き付けるような一瞬の山場を迎える。 その前の2:47-2:51に入るピッコロが印象的だ。 ここは幸せな気持ちか、昔味わった挫折だろうか。 いずれにしても感情に揺れがあったのは確かだ。 一旦少し落ち着きながらも、しかし更に徐々に厚みをまして進んでいく。

3:26からは大サビとも言える転回部分だ。 3:54からの部分と合わせて、この部分はここまでの思いを肯定している箇所に感じる。

4:25からはまるで力がここで凝縮して一気に吹き出されるように、思いが外に溢れ出てくるように、主題が繰り返される。 4:54からはトランペットが加わり、より感動的だ。 最後はバイオリンの音色で緩やかに終わる。

ASKAさんの曲ならどの曲もそう感じるのだが、音を重ねすぎず、ピンポイントで必要な音のみが効率的に配置されている。

さて、「アスリート応援曲」として通しで書いてみたのだが、この曲はそのような、一遍通りの解釈だけに留まらないような気がするのである。
特にコーラスについては、最後には時に耳に響きすぎるような感じに聞こえたりするのだが、その型にはまらない感じが、逆に競技を応援する上での「狂熱」や、「果たされなかった思いの帰結」までをも感じる。

今は僕の中で、日々の中の小さな事に丁寧にピンスポットライトを当てて、それらをひっくるめて全てを肯定してくれるような、そんな曲になっていたりするのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?