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「企画力」について考えてみる。

先日、取り壊される建物のガラスに子どもたちで絵を描こうというイベントのチラシをみつけて、娘に「こういう企画があるから、参加してみない?」と話したところ、「パパ、・・・キカクって、なぁに?」と問われた。

はて、企画ってなんだろう・・・と思い、とっさに答えたのが「面白いことを考えることだよ!」でした。

出版社の人間はとくに深い考えもなく「企画する」「企画書を書く」「いい企画」「クソな企画」「企画倒れ」という風に「企画」というワードを頻繁に用います。

そもそも「企画」ってなんでしょうか?

私が娘にとっさに答えた「面白いことを考えること」もひとつの解釈としてご容赦いただければと思いますが、もっと正確にいうと「誰かの役に立つアイデアを実現すること」ということかもしれません。

で、そんな企画を立てるための「企画力」です。

「あの人は企画力がある」
「Bさんは企画力がない」

と、こんな感じで「企画力」という言葉が使われることがあります。

編集者のボトルネックはつねに「企画」にあり

エリヤフ・ゴールドラットのベストセラー『ザ・ゴール』で解説される「制約条件理論」では、もっとも弱いところ(制約条件)を強くすると、全体が強くなると言っています。この話は『最高の結果を出すKPI実践ノート』(中尾隆一郎・著)で、KPIマネジメントにおけるCSF(Critical Success Factor=最重要課題)を探り出す方法のなかで出てきます。

図のようなネックレスを引っ張ると、どこが切れるでしょうか?

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 典型的な回答が「留め金の部分」と「ペンダントトップの部分」というものです。
 実際はどうかというと、どちらもそうかもしれませんが、そうでないかもしれません。スッキリした回答ではなくて申し訳ないです。
 正しい回答は「一番弱い部分」です。
 ですので、一番弱い部分が「留め金の部分」あるいは「ペンダントトップの部分」であれば、これらが回答になります。
 なーんだって思うかもしれません。しかし、この「一番弱い部分が切れる」というのが最適な回答です。
 当たり前の話ですが、ネックレスは切れてしまったら使い物になりません。ですので、ネックレスを使うためには、この「一番弱い部分」を強化しなければいけません。弱い部分を強化して、引っ張ってもその箇所が切れないようにします。
 その後、このネックレスを引っ張るとどこが切れるでしょうか?
 もう分かりますよね。
 「次に弱いところ」です。
 そして、順番に弱いところを発見し、次々に強化していき、引っ張る力より全ての箇所が強くなれば、ネックレスはどんなに引っ張っても切れなくなります。
 最も弱いところを順番に強化していけば、ネックレスは強くなる。
 これが、最もシンプルな制約条件理論を理解するためのメタファー(たとえ話)です。
 そして、この弱い部分こそがCSF(Critical Success Factor)なのです。

KPIマネジメントでは仕事をそれぞれ分解して、いちばん弱い部分を洗い出していきます。営業であれば、こんな感じです(中尾隆一郎『最高の結果を出すKPIマネジメント』より引用)。

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この6ステップのうちのどこが弱いのか、どこがボトルネックなのかをあぶり出して、そこを徹底的に改善してPDCAを回していくわけです。

で、なにが言いたいかというと、編集の場合はざっくり以下のようなステップに分解できると思いますが、基本的に「企画」の部分が80%ぐらいボトルネックになっていると考えていいのではないかと思うのです。

①企画
②原稿依頼
③督促
④原稿入手
⑤編集作業
⑥校正作業
⑦パッケージング(デザイン・仕上げ)
⑧営業・販促

「⑦パッケージング(=タイトルやカバーがダメ!)」「⑧営業・販促(=売り方がダメ!)」がボトルネックになるケースも多分にありますが、これはそもそも企画が成立してから問われること。

かつて、フォレスト出版編集部でも「企画提出本数のノルマ」がない時代がありました。そのときに何が起こったかというと・・・企画会議に企画書が出てこない。つまり、「出版する企画がない=売る商品がない」という状態です。

これって、たとえばメーカーであれば製品開発の部隊が機能していない状態です。われわれ出版社は情報コンテンツをお金に換えているわけで、その原資がないという状態です。

ふつうにヤバい。
てういか、かなり、ヤバい。

企画のために必要な要素①「好奇心」

さて、そんな超超超大切な「企画」を生むために、必要な要素とは何か。

◎「素晴らしい企画がどんどん湧き出る人」
×「企画がぜんぜん出てこない人」

この両者の違いはどこにあるのか。
どんな性格や資質の違いがあるのか。

そのひとつには、まずはなによりも広く雑駁な好奇心を持ち合わせているかどうかが根底にある気がします。自分がこれまで知らないことを知ることが快感に感じるような知識欲といってもいいのかもしれません。

「それ、なに!?」
「え、どういうこと?!」
「めっちゃおもろい!教えて!」

こんな疑問符を心のなかでいつも唱えている人です。

企画のために必要な要素②「自分なりの基準」

意外とこれが重要だなと最近思うのが、自分なりの基準やゼロポイントを持っているかどうか。もっと簡単に言うと「軸」があるかどうか。

単純な「好き嫌い」もそうだし、政治的なスタンスかもしれない。絶対に許せないもものだったり、他人に侵されない聖域を持っていたり。

要するに「自分」というものがしっかりあるかどうかです。

なんでそんなものが必要なのかというと、企画する段階で「自分軸」がないと、著者やテーマと発火しない。「俺はこう思うんだ!」「あたしはこう思うの!」があってはじめて、企画者と対象物との間で発火して燃えていく。そんなイメージです。

わかりにくくて、すみません。
・・・なんとなくお分かりいただけるでしょうか。

逆にいうと「これこれこうすりゃ売れるんでしょ」じゃ、残念ながら売れませんよという話です。

最近、私自身、自分の軸としてはっきりわかってきたもののひとつに「公平ではないことが嫌い」「フェアでないことを憎む」という目線が明確にあります。不公平なこと、不条理なことを嫌う基本的性格から生まれる企画が多かったりするのです。

幸いなことに、編集者は情報格差を正して、世の中の公平性を保つような情報コンテンツを企画して世に問うこともできる立場にある。そのことはとても幸せなことだと感じています。

企画のために必要な要素③「感動する心」

いまではテレビのコメンテーターとして知られるモーリー・ロバートソンさんですが、かつてはラジオのJwaveで「アクロス・ザ・ビュー」という番組のパーソナリティとして、かなりラジカルな危ない言論(反原発含む)をぶちかましていて、カルト的な人気がありました(いまではその過去はほとんど知られていないと思いますが)。

そんな1990年代の当時、モーリーの超絶的なファンだった私は、モーリーが出した1996年リリースの『空からモーリーが降ってくる』というアルバムの発売日に銀座の山野楽器に買いに行きました。

そのなかで永遠に忘れない、象徴的なフレーズがあります。

「あなたは何のために生きていますか?」
「感動するために生きているのです!」

感動するために生きているというフレーズに痺れました。

原因と結果が異なるような気がしますが、なんとなくわからないでもないと感じます。

「感動」はじつに人間的です。感じる心が「感動」を生み出す。

で、この「感動」が企画の源泉に必要な気がするのです。こころのヒダヒダ。もっとレイヤーを下げて、しごく平凡な言い方をすれば、「他者への共感」「自分を超えたものへの想像力」があるかどうかということかもしれません。

企画のために必要な要素④「センス」

企画に必要なのは「センス」という人もいます。

これを言ってしまうと、元も子もないんですが、そもそも「センス」ってなんでしょうか?

私は「センス」は「知っているかどうか」だけだと思います。

つまり、「センス=知識」。このことを確信させられたのはこの本です。

私はギターが好きなので、それをサンプルにしてみますが、ギターを演奏していて「あいつ、センスあるよね」という人がいたとします。

ブルースギターのセッションを遊びで友人としたとしましょう。

自分がダッダダツダとバッキングをして、相手に自由にソロを弾いてもらう。で、相手はお得意のフレーズをこれみよがしにかましてきます。

「おっ、おまえ、いけてんじゃん」とセンス認定したとします。

この場合、じつは話は単純で、単にいけてるフレーズをたくさん知っているから、いけてるワケです。「センス」という場合、どこか生まれながら持ち合わせた才能のように感じられますが、それってぜんぜん違うと思うのです。

ギターの基本的な弾き方、フレーズの組み立て方、和音のつくりかた、リズムを微妙にずらす方法、絶妙なチョーキングやピッキングなどなど・・・すべては練習の賜物です。

生まれ持った「センス」ではない。

そもそもがそういう諸々を「知っている」ことが大元としてあるはずです。

この現代ジャズギター界の巨人ジュリアン・レイジの演奏をご覧ください。

彼は自分が紡ぎ出す「音」をすべて、前もってすでに知っている、知覚しているから生み出せる。これが「センス」の正体です。

ということで、企画に必要な資質の最初に掲げた条件「①好奇心」が「知る」ということの大切な原動力になる。

そもそも広大な好奇心をもってアンテナを張らないことには「ジブンゴト」にならないので、企画になりえません。

ミンツバーグの経営論と企画

ここでちょっと寄り道。

ヘンリー・ミンツバーグという経営学者が、経営には「アート」「クラフト」「サイエンス」の3つの要素が必要だと唱えています。

「アート」が組織の創造性をつくりだし、「サイエンス」が科学的な分析をもって「アート」が生み出したビジョンに現実的な裏付けを与えます。そして「クラフト」が経験や知識を元にビジョンを現実化するための実行力を生み出していく。

言い方を変えると・・・
アート=直感
サイエンス=数字
クラフト=職人的技術

・・・といえます。

これって、企画にも通じるのではないでしょうか。直感で生み出されたアイデアを、「数字」で判断して、最終的には職人である編集者として料理していく。

ミンツバーグはこの3要素がバランスよく機能しないと、経営はうまくいかないと論じています。企画もまったく同じですね。

企画のために必要な要素⑤「アウトプット」

ただただ、いいアイデアを温めているだけでは世の中に出ていきませんから、とにかくどんどんアプトプットする必要があります。

私自身、編プロ時代を除いて、約17年間、毎月4本の企画書をつくってきたので、計816本の企画書をつくってきたことになります。

企画は排便のようなもの。宿便はいけません。

知的便秘を起こさぬよう、どんどんひねりだしましょう。

「クソみたいな企画」なんて批判されてもいいんです。そもそもウンコなんですから。

企画のために必要な要素⑥「思い込み」

最後はこれですね。

「世の中にこれ(自分の企画)を求めてるひとがたくさんいるんだ!」
「絶対に売れるはず!」
「オレの考えは間違いはない!」

こんな思い込みがあるかないかで結果は違ってくると思います。

というわけで「企画力」を考えてみました。

すいません。長くなりました。以上は個人的見解にすぎません。

(フォレスト出版編集部・寺崎翼)








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