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著者のメッセージや世界観を紙面に落とし込むには?

フォレスト出版の寺崎です。

今日は『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』(落合渉悟・著)の制作過程をつらつら綴ってみます。

紀伊國屋書店新宿本店様3F 経済エンド台
紀伊國屋書店新宿本店様3F メタバース・NFT関連書フェアコーナー

おかげさまで、このような形で書店でも絶賛発売中の『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』ですが、ユニークなテーマかつ、著者・落合渉悟氏の熱い思想に触れた制作陣は、構想段階から「これまでにない本をつくろう」と静かに意気込んでいました。

企画段階のタイトルとキャッチコピーがこちら。

いま思えば、タイトルは企画段階からそんなに大きく変わってない。

(仮タイトル)
メタ国家で暮らそう

(決定タイトル)
僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた

企画趣旨はこんな感じでした。

そして企画段階から決まっていたのが・・・

第1章でアジる

・・・でした。ひとつのメッセージを伝える書であることを第一義に、いわゆる「アジテーション(煽動)」の要素を入れようと考えたのです(内々では「山本太郎テイスト」と呼んでいました)。

この奪い合いに終止符を打つ。
僕が選んだ、
もうひとつの選択。

そろそろこの繰り返しを終えよう。
そろそろこの繰り返しは終わるべきだ。
そろそろこの繰り返しは終わることになっている。
この繰り返しを終わらせないと何が起こるか。
ちょっとタフな言い回しになるが、聞いてほしい。
大事な事だ。
この繰り返しが終わらなければ、あなたは失意の中で人生を終えることになる。世界を見渡してほしい。アジアで、欧州でどれほどの人が無念の最期を遂げているのか。
他人事ではない。そのような状況は日本にももう間近まで迫っている。そんなばかなと笑う人もいる。できれば、「そうでしたね」と後で笑いたい、
僕もね。
あなたが最後の息をして、目を閉じた瞬間、自分が無くなり、後に何も残らないという「誤った認識」を抱き、絶望の暗黒を見て、あなたはこの世を去る。
誰しも人生を終える際、自分は幸福だったと思いたい。この世界がどのようなものか、少しでもマシな理解をして死にたくはないか?
脅かしを与えたり、何かを強要する意図はない。
ただ、僕はこの繰り返しを終わらせようと思う。
奪いあい、憎しみを連鎖させ、すべてを疑う。そしてまた争う。
この無限ループの呪いの連鎖を断ち切るには今しかないのだ。
2022年初夏。
ここから歴史と民主主義は大きく舵を切る。
奪い合い、憎しみあう、出口のない世界からの移住だ。
僕はどこへ行くのか。
僕はとうとう旅立つことにする。
遠くに歩をすすめる。
しかし、大切な人、僕の仲間、家族とは今までどおりともにいる。
つまり物理的な移動はない。僕はここにいる。
僕の暮らすところは、メタ国家だ。
僕の住む世界には、奪い合いはない。誰もが自由に意見を言えて、みんなの合意のもとに運営される健やかな仮想の国家なのだ。
僕らはみんな横並びだ。助け合い、協力しあえる。既得権益を守ろうと暗躍する権力者やペテン師もいない。情報はみんなに公平に行き渡り、フェアに利益の分配が行われる。
それを実現可能としたのは、もちろんブロックチェーンの技術だし、僕の長年温めていた青写真が、この技術と見事に噛み合ったからだ。その奇跡は、何かの啓示に近い。無限に散らばったパズルのピースに最後の1ピースをはめ込んだのは僕だけど、それはもちろん初めから世界に予定されていたイデアが発見されただけ。

落合渉悟『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』より

本書はこんな風なアジテーションから始まる。

さて、このような素材を前にして、どう料理するか。

まずは判型(本のサイズ)です。とくにこだわりがなければ【四六判・縦組み】というチョイスでしょう。

でも、今回は「独自の世界観」を打ち出したい。

そこで「変形判だけど、ちょっとした違和感しか感じない」という見え方を狙って、通常の四六判が「128×188mm」のところを「128×180㎜」と天地を8ミリ縮めた判型にしました。

左が【四六判正寸】・右が【天地が短い四六判変形】

次にレイアウト、紙面デザインです。

扱うテーマが「DAO」「ブロックチェーン」「国家」「資本主義」「人権」といったことから、それらを視覚的にも想起させる方向性を模索して、次のような方針を固めました。

◎本文=横組み
◎書体=ゴシック
◎行頭の一字下げなし
◎見開き片面に画像を配置して世界観を醸成する

「なにか着想が得られる材料はないかなぁ……」

そんな風に考えていたときに・・・
「見開き片面に画像といえば・・・あっ!」と
ある書籍の存在を思い出します。

それは大昔、古本市でシルバーの装丁に惹かれてジャケ買いしたレベッカ・ブラウン『お馬鹿さんなふたり』(光琳社出版)という本(残念ながら今は絶版で、なかなか手に入らないっぽい)。

全面シルバーがやべえ。

カバーがないハードカバーの表紙に全面シルバーの紙が貼られていて、タイトルは帯に記載、表紙には欧文タイトルが箔押しされているという、かなり変態な本なのですが、紙面もこれまた変態。

片面ページに花びらの画像をドットを粗くしたイメージを配置
真っ黒の背景に浮かぶ白い文字のページが唐突に現れる
なにやら英字の活版っぽいイメージ

これ、恋愛小説なんですよ。でも、なんなんですかね、このデザイン。でも、これを今回はパクろうと決めました。

1999年初版発行だから、23年前の本がこうして21世紀にパクられるとは、元ネタを作った方々も想像だにしなかったことかもしれません。

で、じつはもうひとつ、パクり元があります。ジョージ・ロイス『世界を変えた伝説の広告マンが語る――大胆不敵なクリエイティブ・アドバイス』(青幻舎)です。

2012年初版。日焼けして黄ばんでしまってます。

この本もどうやら絶版みたいですが、内容がめっちゃ面白いうえに、これまた紙面がくそカッコいいんです。

片面ページに差し込まれるイメージ画像はいずれも皮肉っぽい

そこで、本文のデザイン・レイアウト・DTPを担当したデザイナーの土屋光さんに、この写真をみせながら相談したところ、デザイナー魂に火がついて、こんな感じの紙面になりました。


いかがでしょうか。

本書独自の「世界観」は伝えることができたのではないかなと思います。おかげさまで発売後の反響は賛否両論。届くべき人には届いているようです。

というわけで、今日は「著者のメッセージや世界観を紙面に落とし込む」をテーマに制作の裏側を綴ってみました。


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