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「まえがき」全文掲載 ある専門家が語る心身の不調の「本当の原因」

私は枕が変わるとよく眠れないタイプです。というか、入眠できないのです。そういうときは、夜中にぬっと起き出して仕方無しに酒を飲み、脳がよくアルコール漬かった時点でもう一度寝床に潜り、眠るというかほぼ半分気絶します。
しかしながら、今あらためて考えてみると、枕が変わったことではなく、音が原因で眠れなかったのかも、と感じます。
実家に帰ったときは、時計の秒針の「チッ、チッ、チッ、チッ、」だったり、旅館に泊まったときは川のせせらぎや波の音に気を取られていたのではないかと。

じつは、こうした入眠障害も含めた不定愁訴と呼ばれる心身の不調――たとえば、うつっぽい、緊張する、聴覚過敏……は「音」によって引き起こされることが多いのです。
そう語るのは、京都精華大学教授で音響心理学者である小松正史先生。ロングセラー「耳トレ!」(ヤマハミュージックメディア)シリーズの著者です。

「耳トレ」では、主に記憶力や集中力を高める能力開発系のトレーニングを紹介していました。

一方、フォレスト出版から発売予定の『心の不調が消える聞くだけ音トレ!』では、先ほどの不眠、緊張、聴覚過敏はもとより、騒音、耳鳴りを含めた音を原因とした心身の不調を和らげる方法を記しています。
このたび、著者の小松先生にご許可をいただいたうえで、『心の不調が消える聞くだけ音トレ!』のまえがきを全文掲載いたします。
これをゲラの段階で読んだある校正者は、「こんなことがあるのか!」と驚いていました。

まえがき 不調を生み出す音から自分を守る

 いま、あなたの心理はどんな状態ですか?
 イライラしているのなら、原因は何ですか?
 職場のトラブル・過労・加齢など、人それぞれの悩みがあると思います。
 私は、心の不調の原因のほとんどが「音」にあると考えています。
 どうしてそういえるのでしょうか?
 現代人の多くは、視覚ばかりに気を取られ、目に神経を集中して情報を得ています。それに比べ、音を聞くことに注意を払う人は多くありません。
 会話や音楽のような「目立つ音」には価値を置きます。一方で、物音や自然音などの「目立たない音」には、見向きもしません。私たちは、「音の聞き方」に無自覚で、アンバランスな状態にいるのです。
 耳は、まぶたのように閉じることができません。刺激の強い音が耳に入っても、防ぎようがないのです。
 これまで無意識に取り込んできた数々の音の刺激は脳に蓄積され、許容量を超えると聴覚疲労が引き起こされます。眼精疲労で心理的な不調が発生するのと同じように、聴覚疲労でも似た症状が起きるのです。
 私たちは「音を聞くこと」に無自覚な状態にいます。このままでは、人の心理に悪影響を及ぼす音を避けることはできません。人の心理をネガティブにさせる不快な音が、日々の生活の中で自動的に脳に取り込まれているのです。
 ネガティブな音の刺激を脳に入力し続けば、イライラや疲れなどの心理状態を引き起こしやすくなります。たとえば、HSP(繊細さん)、不眠、緊張や不安を感じやすい人は、音が悪影響を及ぼしている可能性が高いのです。
 音に関係なさそうな心身の不調でも、よくよく調べると、音がネガティブな心理面を増長させている場合が多々あります。

「不快音」は騒音だけではない

 本書では、ネガティブな心理状態の不快感を減らすために、どんな音の聞き方をしたらよいのかを具体的に紹介します。
 音から引き起こされる不快感は、騒音にとどまりません。
 たとえば、聴覚過敏(些細な音でも敏感に感じやすい症状)や、耳鳴り。症状の重い方は専門医に相談することが望ましくはあります。
 本書では、不定愁訴(倦怠感、頭痛、微熱感、不眠、のぼせ、耳鳴り、動悸などの自覚症状がありながら、検査をしてもその原因がわからない状態)のように、生活するうえで深刻な影響をもたらさない軽度の症状の方に対して、薬や通院に頼らずに音の不快をやわらげるための簡易な解決法を提案していきます。

2つの「音のトレーニング」

 音の不快を抑える具体的な方法とは、「音の聞き方(=耳の使い方)」を変えることです。要するに、特定の音に対する注意を、別の音に切りかえるのです。イヤな音があれば、その音をできるだけ意識せずに生活する方法があるのです。
 私はこうした方法を、「音のトレーニング」と呼んでいます。詳しく説明すると、「能動的な音のトレーニング〈アテンション・メソッド〉」と、「受動的な音のトレーニング〈マスキング・メソッド〉」の2種類があります。

■アンテンション・メソッド
 いま気づいている音への注意力を自在に切りかえる方法です。視覚で説明すれば、視点を変えることに該当します。
 たとえば、いま、目の前の机を見ているとします。視点を遠くの山に切りかえるといったように、聞こえる音の遠近感(空間知覚)を変えやすくする方法です。聴点を変える方法、といってもいいでしょう。

■マスキング・メソッド
 イヤな音に別の音をかぶせる(重畳する)ことで、心理的に不快感を減らす方法です。耳鳴りの症状でいえば、別の音に意識を向けることで、耳鳴りそのものへの注意をそらすやり方です。
 本書では、各症状に適切な15の音源を制作し、QRコードやURLの入力でパソコンやスマホ、タブレットなどの端末で聞けるようになっています。

音は毒にも薬にもなる

 これらのメソッドを開発するうえでは、私が専門とする「音響心理学」がベースとなっています。聞き慣れない学問かと思われますが、音の物理的な量と心理的特性との関係を明らかにする学問領域です。
 音が聞こえる感覚は、脳の中で発生します。空気中にあるのは音ではなく、たんなる波動にすぎません。空気中にある波動を耳(正確には鼓膜)で受け取り、聴覚神経を経由して脳で知覚・認知されます。それを経て、ようやく「音が聞こえる」という感覚が生まれます。この現象をアメリカの哲学者ディーン・ルディアは、「すべての音は人の心から生まれる」と表現しました。
 心の不調を好転させる音のトレーニングは、脳の使い方を変えるメカニズムを応用しているのです。本書では、人が音を知覚・認知する特性をふまえ、音トレーニングのメソッドをわかりやすく紹介していきます。
「音の聞き方」を変えることで、ネガティブな心理状態がポジティブに好転することを、心から願っています。

「まえがき」にも記されているように、本書では「アテンション・メソッド」「マスキング・メソッド」という2つの不快な音から心を守る方法を記しています。
詳しい内容について、またこの場でお伝えできればと考えております。

(編集部 石黒)

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