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【まえがき全文公開】悩みに悩んだすえに着地した装丁を解説

フォレスト出版編集部の寺崎です。

以前、こんな記事を書きました。

今日はこの記事の事後報告というか、経過をお伝えしたいと思います。『新版 呼吸の本』は悩みに悩んだ末、カバーデザインはこうなりました。

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左が旧版、右が今回発売する新版です。

いかがでしょうか?

時代の空気に合わせて、強めのゴシックですっきりと呼吸が通るようなデザインを意識しました。タイトルを左に寄せて、著者名を右に寄せるレイアウトのパターンもあったのですが、どうしても「タイトル中央ドーン!」、そして「両脇に著者おふたりの名前が鎮座する」のパターンの強さには勝てませんでした。

帯の地色も「白でいくべきか……」と迷いましたが、あえて地色を付けることで「兄貴とは違うぜ」という主張をしてみました。結果的に、本書のなかでも大事な要素として語られる「グラウンディング=大地に意識を張る」を思わせるアースカラーという意味合いにも取れるかなと、独りごちてます。

ハードカバー(上製)の造本はサンガさんの前作に踏襲しましたが、いま現在の感覚でいうと、普通のハードカバーは「いろいろな意味で重い(重量・存在感)」と感じるので、芯ボールの薄いハードカバー=薄表紙のハードカバーとなっております。

なので、ハードカバーなのに軽い、を実現しています。

そして、本をめくると・・・

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こんなページが待っています。

左の本扉に合わせて、見返しにも印刷をして、ちょっと元本にはない世界観を演出しています。この色鉛筆のラフ書きのようなモチーフは本書を通して随所にちりばめられています。

今回、こうした素敵なデザインをご考案いただいたのは数々のヒット作を手掛ける山田知子さん(Chichols)です。

そんなこんなで発売にこぎつけた『新版 呼吸の本』は8月21日(土)Amazon発売開始です。

今日は発売を記念して谷川俊太郎さんによる「まえがき」を全文公開します。

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谷川俊太郎まえがき「加藤さんのこと」

加藤俊朗さんは不思議な人だ。初めて会ってもう十年近くなるだろうか。当時私が借りていた海辺の家に現れたときは、友だちの友だちというだけで、どんな仕事をしているのか、どんな経歴なのか何ひとつ知らなかった。
でも一目見て私はふだんつきあっている物書きや絵描きや編集者とは違う何かを感じた。しばらくして定期的に呼吸法を習うようになったのだが、加藤さんの言うとおりに呼吸し、からだを動かしていると、時には居眠りが出るほど気持ちがいい。痛いこと苦しいことはしない、がんばらない無理しない、とにかく気持ちよくやるという先生だから、生徒の私も緊張しないで楽しめる。
加藤さんが自分のアタマ(左脳)というよりは、カラダ(右脳)の感覚と行動を通して身につけた独特な宇宙観、人間観が私にとっては新鮮で、いまだに私は彼に驚かされている。
新聞は読まないしテレビも見ない、雑誌も読まないしネットも見ない、そのくせ世の中の動きには敏感で、突発的なマイブームがあるのが面白い。最近では村上春樹(最新作ではなく、初期のものからブックオフで買っている)、空海(難しい論文よりも小説になっているものから自分流の空海像を思い描く)、マイケル・ジャクソン(そのからだの動きに私には感じ取れない波動を感じているらしい)。一時は矢沢永吉もブームだったが、いつの間にかミック・ジャガーにとって代わられた。
加藤さんの中には子どものように常識に捉われないあどけない一面と、組織の中でもまれてきた大人の世間知が同居している。若いころはグレていたと言うが、そのころのことは知らない。だがもし殴り合いにでも巻き込まれたら、加藤さんは心強い味方になってくれると私は信じている。
文章を書くようになったのは私に会ってからだと言う。私の書いたものなどほとんど読んでいないはずだが、私という人間をちゃんと見てくれていると私は感じる。加藤さんには言葉を通してではなく、目の前にいる人間を直接感じ取って判断する能力があって、混んだ電車などでは人々の発しているネガティブな「気」に気分が悪くなることもあるらしい。
この本では私が読者の皆さんに代わって、加藤さんにいろいろ問いかける形をとった。活字では伝えきれない加藤さんの言葉を感じてもらうために、実際に呼吸法を教えている現場にマイクを持ち込んだライブ録音も付いている。加藤メソッドは言葉だけ読んでいても身につかない。本当は直接加藤さんと向き合うのがいいのだが、その機会を得られない人は特典音源を聞きながらとにかくからだを動かし、息を吐いてみてほしい。そしてこれは自分の経験から言うのだが、毎日三十分でもつづけているとそれが習慣になっていって、やがて少しずつからだと心に効果が現れてくる。
加藤さんは言葉にならないものを大事にする人だが、同時に常に言葉を探し求めている人でもある。この本に出てくる「言霊ゼーション」という独特な造語も、彼の言葉観から来ている。言葉の力は意味だけにあるのではない。言葉のもつ波動(バイブレーション)のもつ力もまた知らず知らずのうちに私たちを動かしている。活字を読むだけでは感じにくいが、声になった言葉にはそれを発した人の魂がこもっている。言語は大昔に人間社会の中から発生したものだが、言語以前から存在していた宇宙のエネルギー(ときにそれは神という名で呼ばれる)が、言語を発生させたのだとも考えられる。日本人が太古から信じてきた言霊は、現代のデジタルな言語の氾濫に対する解毒作用をもつのではないかと私は思う。
何につけても速度が重要視されるこの時代だが、スローフード、スローライフというようなことも言われ始めている。加藤メソッドは、この〈今〉を通して〈永遠〉につながること、この〈ここ〉を通して〈宇宙〉につながることを目指している。そのようなゆったりした時空に生きるためのヒントが、この本にはいろいろあると思う。

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