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築地と私。

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先日、惜しまれつつ閉場した築地市場の思い出話を少しだけ、不定期で数回に分けてご紹介。
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築地と私。3話

築地と私。3話

「どうだった?築地は。」

事務所に帰ると、社長がこう私に尋ねてきた事を今でも覚えている。

「大都会の一等地にあんな施設があるとは、、夢にも思いませんでした。何というか、昭和のドヤ街と言うか。。」

すると、一言。

「周りが随分変わったんだよ。。」

タバコを吹かしながら、遠くを見つめるようにこう答えてくれた。

「昔に比べたら人も減ったし、随分と変わったよ。昔は、人が歩けないくらい賑わったも

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築地と私。第2話

築地と私。第2話

正門をくぐり、魚河岸を歩く。

海水で湿った床から潮の匂いが上がる。

ジッ、ジリッ。

新鮮な生きたアナゴの骨を弾く音。

ドスン。ビッ。

長い鮪包丁で解体する光景。

ダンベや樽には、生きた貝が至る所にいる。

その様を見るうちに、流通する魚から季節を感じる事が出来るだろう。

ここが築地。

日本はおろか、世界中から日本人の腹を満たす為に魚が集まる。

当時、

水産物で一日当たり2000

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築地と私。第1話

築地と私。第1話

20代前半の頃だ。

私まだ大学4年だった頃、世間は就職氷河期の真っ只中であり、100社回って、一社内定が貰えるかどうかという辛い時代を過ごした記憶が今でも残る。

それを見兼ねたアルバイト先の先輩から

「もし、職に困っているのなら、、知り合いの五反田の水産会社が大卒を募集しているから、行ってみるか?」

このご時世で、こんな有難い話に乗らない手はない。

私は迷わず、間髪入れずに

「はい」

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