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恋愛における違和感の話

仕事先で声をかけられ、ご飯に誘われた。

職業は公務員で、高身長でスラっとしており目にかかる位の髪をセンター分けにしてスーツ姿がとても格好良かった、というのが彼の第一印象。

最寄り駅が同じだったらしく、流れるように「家近いね。今度ご飯でも行こう。」と言われた。
慣れてるんだなぁと感心している間にあれよあれよとご飯に行く約束が交わされたのだった。

とんとん拍子で話が進み、あっという間に約束の日。
行ってみたらめちゃくちゃオシャレな居酒屋だった。
事前に「嫌いな食べ物はない?」とか聞いてくれたし、そこまで格式高くないけど隠れ家的な大衆居酒屋なので緊張する事もなさそう。
店内は混んでいたが、彼がネットから予約してくれていた為スムーズに入店できた。
エスコートが上手すぎて「さすが地域福祉課、ホスピタリティに溢れている」と感動してた。

席に案内された後、店員さんがコースの確認をしに来た。
「いらっしゃいませ。本日女子会プランでご予約の○○様…でよろしいでしょうか…?」

店員さんの戸惑う声が聞こえてきたし、私もその発言を聞き逃さなかった。
女子会プラン?どう見ても男女だろ。
おいおい、どうした。
しっかりしてくれよ。今日は大切な初デートなんだぞ。私の未来の彼氏に恥をかかせないでくれよ。

続けて店員さんが、
「大変申し訳ございませんが、女子会プランは女性限定のコースでして…恐れ入りますが本日は通常のコースに変更して頂いてもよろしいでしょうか。」と言う。
女子会プランは女性客限定に決まっている。一体何を丁寧に確認されてるんだ。
「本日ご予約がいっぱいでして、1度お食事がすぐにご用意できるか確認致します。」
店員さんは裏に下がり、数分後少し遅れるが料理の提供は可能であると伝えてくれた。

店員さんは少し困りながら彼に説明していたが、彼は顔色1つ変えず「あ、はい。それで。はい。お願いします。」と言っていた。

なんだか勝手に気まずくなってしまい私はずっと店内を見回し「すごーい!こんなオシャレな所、最寄り駅にあったんだぁ」などと彼に聞こえる位の音量で喋っていた。
なんだこの気まずさ。なんで私がこんなに焦ってフォローしてるんだ。どうしてこいつは何事もないみたいな顔してんだよ。何を間違えたら女子会プランで予約入れるんだよ。

店員さんと彼のやり取りがひと段落したらしく、こちらに向き直った。
なんかめちゃくちゃ気まずかった。(気がする)
あの時の私、凄い脇汗出てたハズ。
「ここ、いい店だよね。予約取るのも大変だったんだ。」と彼。
「え〜〜〜!こんな良いお店わざわざ予約してくれて本当にありがとうございますぅ!」と私。

この辺からなんか違和感があった。
人気の居酒屋、予約が混む週末、とんとん拍子で交わされた約束、女子会プラン──────
頭の中でガリレオのあの音楽が流れ、左手をあのポーズにしチョークで勢いよく方程式を書き出す私。

もしかしてこいつ、通常コースだと予約取れなくて無理やり女子会プランで席取った?

その瞬間、地味に嫌なセコさを感じた。
じわじわとムカつく、もし私の予想が当たってたとしたらめちゃくちゃ嫌なモラルの持ち主だ。
考えすぎだろうか、いや分からない。

事実は神のみぞ知る。
私がいくら邪推した所で彼がめちゃくちゃ天然さんで間違えちゃったのかもしれないし、平気な顔で女子会プランを選択し無理やり席の予約を取っちゃったのかもしれない。

しかし今日は初デート。
私にも高身長、イケメン・ハイスペ公務員彼氏が出来るかもしれない。
こんなちんけな違和感は脳のブラックボックスにしまって目の前の会食に集中しなきゃ!

しかし恋愛における違和感というものは、とても重要だ。川の中できらっと輝く砂金くらい大切にした方がいい。

その後も彼は天然ぶりを爆発させ、デートでは毎回1時間は遅刻してきたり、私の大切な私物(病気で死んだ父親から貰った形見)を借りパクしたままだったり。

私はとんでもない天然男に出会ってしまったのかもしれない。
なんやかんやで彼とは付き合う事になったが、3ヶ月後には音信不通になってしまった。
とんでもない天然さんなので、もしかしたら電話番号変えちゃったのかもしれないし、彼女である私の事忘れちゃったのかもしれない。

もしかしたら、そんな激ヤバ男と付き合ってしまった私が1番の天然なのかもしれない。
ふざけんな。

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