ルーマン『リスクの社会学』第2章メモ

時間についての考察をはじめるにあたり銘記しておくべきことは、「生起する事柄はすべて同時に(gleichzeitig)生起している」ということである(51)
これはシステム論の語彙を使えば、「システムの環境はつねに、そのシステムと同時に存立している」ということであり、したがって、すべてのシステムは、単純な動作の水準においては「作動上閉じたシステム」として形成されている(51)。
「回帰的に作動している(作動上閉じた)システムは、そのつど達成されているそのシステム自体の状態を基軸にし」ており、過去によって方向付けられている(52)。「複雑化した記憶は、過去と未来という二つの地平の形式で時間の奥行きを生み出」し、システムは記憶を通して時間の区別をすることにより自己産出している混乱状態(複雑化した過去)を整除する(52)

 
「みずからの作動によって差異を生み出しているだけではなく、区別する可能性をも手にしているシステムは、時間と特別な関係を有するようになる」(53)。
というのは、すべての時間表象には区別が必要であり、[区別により指示される2つの側面は同時的にも非同時的にも与えられているため]すべての時間ゼマンティクは時間のパラドックスをもってはじまる。そして時間ゼマンティクの区別はその時間のパラドックスをいかに展開するかという形式によってなされる。


「近代においては、過去と未来の差異が時間ゼマンティクの主導権を握り、近代にいたって変化した全体社会の構造へと時間ゼマンティクを適応させる役割を引き受けている」というのが近代における時間ゼマンティクについてのテーゼである(55)。
近代における時間ゼマンティクの要請の変化は印刷(技術)と機能システムの分出によってもたらされた。近代ではまた、歴史への新しい関心によって、時間それ自体が自省的になった。
近代においては、時間全体を反省しているのは永遠/神ではなく現在の観察者(人間)であるとされ、この反省は「過去と未来という主導的な区別にもとづいている」(58)。

 因果関係という観点は過去と未来の違いを先鋭化させ、因果関係という「過去と未来の橋渡しをする表象」が疑われるようになってからはなおのこと過去と未来の非連続性が強調され、過去―現在―未来は統一体として記述できなくなる(58)。このような表象が上手くいかない以上、「現在は、時間の二側面を有した形式から、つまり過去と未来の区別から引き出してこなくてはなら」なくなる(59)。
では現在はどう把握されるべきか。「現在は、過去と未来の区別によって時間を観察しまさにそれゆえに自己の観察を排除された第三項として扱わねばならない観察者の、観察位置として、把握されなければならない」(59)。
「リスクに対する評価もまた、現在に依存する。[それゆえ?]時間の中における現在と同様に、リスクに対する評価もまた変化し、現在と同様に、過去と未来という時間地平の中に映し出される」(60)


3 決定への依存性の増大

現在が過去と未来とを結びつけるのに不可欠な制限として構成されるとして、「このような限定が、同時的であるがゆえに影響を及ぼせない世界の所与性としてではなく、情報が不足している状況下での決定の不可避性として――したがってリスクとして!――把握されるのはいったいなぜだろうか」(61)。
端的な答えはそれは選択可能性の増大と情報価値の上昇をともなう[?]決定への依存性の増加である(「近代に移行するにつれて、決定への依存性、したがって未来に注意を向ける価値が増大してきている。かつては生活の過程の中で多かれ少なかれおのずから生起していたものの多くが、今や決定としてなされるべきだと要求されるようになっている」62)。
未来の決定への帰属はファースト・オーダーの観察者にとっては差異を生み出すのが決定であり、それゆえ合理的であるべしという要求が向けられる。他方、セカンド・オーダーの観察者は決定への帰属によって「過去と未来との連続性がかつてよりも減少し非連続性がかつてより増大していると見るように促されている」と見る(65)。
 未来を知ることができないという時間的次元の未規定性と人々は新しい全体社会の構造を観察できないという社会的次元のの未規定性の共生により、未来が「蓋然性」というメディアを通して知覚されるようになる。19世紀、20世紀になってもなおこの共生を「ゼマンティク的定式の中に定着させ、それによって秩序を予見できるかたちで保障していこうという試み」( 決定の根拠を現在で見出そうとする試み)が繰り返されてきたが、社会的にどう評価されるのかという社会的観点において、そのような試みは上手くいかなくなる。われわれにとっての問いは、このような(19、20世紀の)やり方を今後も続けていけるのかということである。

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