ルーマン『リスクの社会学』1章メモ

1 リスク概念の不明確さ

[まず経済学におけるリスク概念と決定理論およびゲーム理論におけるリスク概念(定量的な計算が可能なもの)についてのレビュー]

→カタストロフィの閾や決定者―被影響者の区別等を考慮に入れるとリスクの計算に合意のチャンスがあると信じるのは疑わしい。

定量的なリスク論に対抗するものとして社会科学においてリスク概念が提起されてきた。ここではリスクの「選択」が問題となり、その選択を「立証可能な社会的な諸要因」が制御していると見なされる。
→しかし、これらのリスク概念は個人主義的な出発点を前提としており、「最終的には個々人の決定(略)への帰属がそもそも維持できるのかどうかが問われなければならない地点にまで行き着く」(21)

社会学においてもリスクは扱われるようになってきているが、「全体社会でおこなわれているすべての作動(略)の選択性についての理論」がつけ加えられなければならない[が未だなされていない](22)

学際的な研究においても「科学的な要求に応じることのできるリスクの概念が欠落している」のが現状で、多くの学問分野や研究領域の参加については否定的な結果に終わっている

2 リスクの概念史
[明確な語源が不明であり、使用される脈絡も一貫していないという]留保条件を付けた上でリスク概念の登場の根拠を推測すると、「何かある事柄を危ない状況にあえておく場合にのみ、多くの利益を達成できる」という洞察が見えてくる(26)
ここで重要なのは「決定」であり、時間を考慮すること[時間を通じて一貫したものではなくなる]が問題となっている。
  ※問題となっているのはたしかな予測に基づいたリスク計算でも無時間的な合理性の形式でもない

ベーコン、ロック、ヴィーコ[近代初期?]以降、「諸状況を人為的に作り出す可能性に対する信頼は増大し、知識と生産能力は相関していると人々はますます想定するようになっている」(28)
合理主義的伝統のもとでリスクがどのように観察されているのか[あるいはされていないのか]を観察するためにはリスク概念の精緻化が必要であるが、「学際的な議論の脈絡も言葉の歴史や概念史も、満足いくイメージを伝えてはくれ」ない(30)

3 リスク/安全、リスク/危険

【「概念」について】
セカンド・オーダーの観察をする際の出発点は「それぞれの観察者は何らかの区別を利用しなければならない」という点にある(30)
(しかし「観察は、それ自体を観察できない」)
「概念」:「その区別の他方の側面において考慮されているものを限定している」「こうした区別の実践の圧縮物」(31)

※「概念」を指し示す区別の他方の側面は「客体」

【リスク概念の構成】
セカンド・オーダーの観察の水準では「多層的な偶発性 の再構成が問題」となっており、それ[未来の不確かさと未来の決定への依存という前提に基づく偶発性]ゆえに観察者に多様なパースペクティブが提供されている。それに相応してリスクの形式の案出はより困難になる
→リスク概念の精緻化のためには観察者が行っている区別の他の側面が何であるのかの観察が必要

• リスク/安全という区別
この区別はリスクの形式を「好ましくないもの/好ましいもの」という区別の一つのバリエーションにする
この形式は「すべての決定をその決定のリスクという観点から計算するのを原則として可能にする観察図式」をもたらす故 に、リスクを普遍化させた(36)

• リスク/安全という区別の問題
ファースト・オーダーの観察者は「事実」があり、あたかもそれに関して「所有したり所有しなかったりできる『情報』が存在するかのよう」にふるまう
[したがって、「事実」とそれに関わる「情報」が問題となってしまう。しかし、このような形式ではファースト・オーダーとセカンド・オーダーの二つの観察水準を正当に評価できない→正当に評価するためにリスク/危険という区別へ]

• リスク/危険という区別
リスク:「場合によっては起こりうる損害が決定の帰結と見なされ、したがって決定に帰属 される」
危険:「場合によってはありうる損害が、外部からもたらされたと見なされる、つまり環境に帰属される」
※このような区別により、現在の状況を決定者と被影響者のコンフリクトとして特徴づけることもできる

このような区別を採用することの一番の利点は帰属[帰責] の概念を使用できる点にある→セカンド・オーダーの観察の水準に移行できる
ただし、「決定に帰属できるのは、諸選択肢からの選択をイメージでき、またそれが無理のないものだと思われる場合に限られる」(42)

また、このような前提に立った時、「この概念は観察や観察者とは独立した事態を指し示すわけにはいかなくなる」(42)
つまり、ファースト・オーダーの観察者がある事柄をどのように観察しているのかをセカンド・オーダーの水準で観察することによって初めてこの形式が成り立つ
最後に、このようなリスク概念を受容するならば、「リスクから自由な行動などありえない」ことになる

4 リスクの〈予防〉について…割愛



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