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来たる者と去り行く者の交差点:③PU編(前編)——影の主役のホンダ、鈴鹿の週末に動きは?

サマーブレイク以降の数々の発表を『来たる者と去り行く者』に焦点を当てて振り返る。第3回はパワーユニット(PU)編。F1は100%再生燃料によるハイブリッドV6ターボの新規定を2026年に導入することを決定し、規格策定に関与したアウディがF1初参入を表明した。ポルシェもF1復帰が見込まれる。しかし、私は次世代パワーユニット争奪戦の影の主役は「ホンダ」だと思っている。

※この記事は個人サイトに10月3日21時半に掲載したものです。noteに転載する前に先に事実の方が動いてしまったよ。。😢  ということで、②ドライバー編より先に③PU編を転載します。

※PU新規定については動きが早く、「来たる者と去り行く者」シリーズでも特にPU編は筆者の推測による部分が大きいことをご容赦ください。事実誤認がありましたらご指摘ください。

HRC吉野氏の表彰台登壇は、ホンダとポルシェへのメッセージ?

8月28日のベルギーGP決勝でフェルスタッペンとペレスのレッドブル2台が1-2フィニッシュを飾ったとき、HRC(ホンダ・レーシング)の吉野誠チーフメカニックがチーム関係者として表彰台に登壇した。

ベルギーGP表彰台。右端がHRCの吉野チーフメカニック

後出しジャンケンのような書き方で恐縮だが、私はこのとき妙なきな臭さを感じた。サマーブレイク中の8月16日に26年PU規定が発表され、ベルギーGP開幕日の26日にアウディが26年の新規参戦を発表したばかり。一方で、かつて発表が秒読みと言われたレッドブルとポルシェの提携は、なんの音沙汰もないまま9月に持ち越しとなる気配だった。この微妙な時期にあえてHRCの関係者を登壇させるのはなぜだろうか——。

単に「日ごろの感謝を示したかった」だけとは考えられず、私はホンダとポルシェ双方への政治的メッセージを込めた吉野氏起用だったと考えている。ホンダに対しては26年以降の提携継続のラブコール。ポルシェに対してはホンダとの強固な関係を見せつけ、「ウチはおたく以外にも選択肢がありますよ」とのすげない態度を示す狙いだったのではないか。

公然の秘密だったレッドブルとポルシェの提携が破談に

果たして、ポルシェは9月9日、レッドブルとの交渉破談の声明を出した。最大のネックはフルワークス化を視野にレッドブルへの50%出資をもくろむポルシェに対し、チーム経営陣のホーナーとマルコが強硬に反対し、レッドブル本社のマテシッツCEOも彼らの肩を持ったため、と推測されている。

ポルシェの声明には、「前提にあったのは、常に対等な立場でのパートナーシップを結ぶことだった。それはエンジンのパートナーシップに留まらず、チーム(運営)も含めてだ。しかしそれは実現できなかった」(motorsport.com、Luke Smith氏の記事より)との表現がある。

ポルシェはF1参入するならマーケティング上、完全自社ブランドかそれに準じる形で参戦したいところだろうが、相手は今年のチャンピオン街道を爆進するトップチーム。一時は「マテシッツ氏はチーム運営の興味を失っている」との憶測記事もあったが根拠不明で、近年のF1の実績のない会社がいきなりチャンピオンチームの実権を握ろうとしたことに無理があった。

WECに参戦した頃のポルシェ

日本GP前後にホンダのなんらかの発表があるのか?

一方のレッドブルもポルシェ提携の可能性がついえ、26年以降のPUの供給元が未定となった。既存のPU3社については、ルノーとは絶縁状態で、メルセデスも難癖をつけてPUを出し渋る可能性が高い。最もあつれきの少ないフェラーリすら、PU供給交渉がすんなり進むか不明だ。

となると、レッドブルに残されるのは、①初参入のアウディ、②ホンダ(HRC)復帰を促す、の二択になる(※一部ニュース記事では韓国のヒョンデやフォードも候補に挙げている)。

ポルシェが袖にされた以上、同じフォルクスワーゲン・グループで、同様にフルワークスをもくろむアウディが手を挙げるとは考えづらい。レッドブルにとっても初参入のアウディにチームの命運を託すのはかなり勇気がいる判断だ。

レッドブルの強気の姿勢の裏には、ホンダ復帰という手駒があると考えるのが自然ではなかろうか?

いよいよ日本GPの開催が迫る

そんな事情もあって9月以降、「ホンダが26年にF1復帰」あるいは「ホンダとしてではなく、HRCとして復帰する」との憶測記事が飛び交うようになった。FIA(国際自動車連盟)による26年新規定でのPUメーカーのエントリーは10月15日が期限とされ、あと2週間を切っている。

(※もっとも、この「締め切り」が厳格に運用されるかは疑問だ。例えばポルシェが来るというなら、F1は23年でも24年でも猶予を延ばすだろう)

ホンダは7月上旬のオーストリアGPで三部敏宏社長、倉石誠司会長、HRCの渡辺康治社長ら首脳陣がそろい踏みでレッドブルグループのモーターホームを訪問した。わざわざオーストリアの片田舎に企業トップが「ご挨拶」のために訪問するとは考えられず、なんらかの重要な会合があったと考えるのが自然だ。

(※突如F1を撤退したことへのお詫び行脚とも考えられるが、レースウィーク中に日本企業のお詫びに付き合うほどF1関係者はヒマではなかろう)

レッドブルにとってはPUの供給元としてホンダが最も信頼できる。資本関係を求めないのも好都合だ。ホンダにとってもF1人気が高まった米国市場でブランドを宣伝できる意義は大きく、両者の利害は一致する。

ホンダから26年に向けた発表があるなら、お膝元の日本GPのタイミングしかない。状況証拠から考えると、レッドブルとアルファタウリの26年以降のPUの供給元はホンダかHRCの可能性は十分にある。

この数日間で何か動きがあると予想する。

愛しくも歯がゆく、ときに腹立たしいホンダのF1活動

私としては、ホンダF1復帰の報道、さらに言えばF1に対するホンダの煮え切らない態度は言いたいことが山ほどある。

本稿でも取り上げた「ホンダではなくHRCとしてF1参戦する」との憶測に関しては、「絶対反対!」と声を大にして述べておきたい。正反対の感情だが、理由は下記の2つ。

  1. ホンダはカーボンレスに取り組むF1の価値を、当時の八郷隆弘社長自らが全否定して撤退しながら、どの面下げてF1に戻ってくるつもりだ

  2. F1に復帰するなら堂々と「ホンダ」としてやるべき。株主を気にしてか知らないが、「HRC」を隠れ蓑にしてコソコソやるのはおかしい。26年新規定だからこそ、会社としてカーボンニュートラルに資するF1の価値を押し出すべき

今後の別稿でも取り上げたいが、近年のホンダは社長交代のたびにF1の取り組み方も本業の経営姿勢もコロコロ変わってきた。

13年に第4期F1復帰を決めた伊東孝紳社長(当時)はリーマン・ショックや東日本大震災を乗り切った実績はあるが、年間販売目標を600万台とする拡大路線を突っ走り、組織は疲弊した。後任の八郷社長(同)は拡大路線の撤収とともにクルマの電動化に向けた組織再編を進め、その延長線上にF1撤退があった。21年春に社長が三部氏に交代して1年半。揺り戻しはありえるだろうか?

ロシアのウクライナ侵攻により欧州の天然ガス輸入が不透明となるなか、天然ガスによる発電が大きい電力も決して潤沢ではないことが明らかとなった。バッテリーに使うリチウムも希少資源で、世界中の自動車をすべて電動化することは現実的でない。

F1は内燃機関とバッテリー技術の両方を鍛える格好の舞台でもある。ホンダはF1の将来、モータースポーツの将来に向けてどのような判断を下すのだろう?

※冒頭に記載の通り、ホンダは10月5日夕方、日本GPを含む今シーズン残り全戦でレッドブルとアルファタウリのマシンに「HONDA」のロゴを掲載すると発表した。21年の「F1撤退」とは一体なんだったんだ。。。

ホンダF1が2021年末に撤退する際の新聞広告

本記事以降、『来る者と去る者の交差点』のパワーユニット編については『中編:F1との縁を切れないホンダ』『後編:アウディ参戦と、売り手市場のF1チーム』に続く予定です。

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