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誤訳事例研究01 "hope that [NOT JUST] A, but that B" におけるBは事実ではなく希望

「マインドフルネスによってより利己的に、より不親切になる人もいる──米研究」というNewsweek日本版の記事がYahoo!に掲載されています。 ( https://news.yahoo.co.jp/articles/dd6727ebe2d82a447c86cfde671c235ccc1f9d91 )
記事の内容についてはここでは議論しませんが、記事中に引っ掛かる文章がありましたので取り上げます。これです。

「マインドフルネスは実践者の気分を良くするだけでなく、実践者をより良い人間に──より寛大で親切な人間にすると、多くの人が考えている。本当だろうか。」

マインドフルネスの目的は「いい人」になることではないので、端的に言って的外れな見解です。多くの人がこのように考えているというのは驚きです。人々の間にイメージが先行しすぎているとすれば、あり得ない話ではありませんが。

英語原文を https://theconversation.com/mindfulness-meditation-can-make-some-americans-more-selfish-and-less-generous-160687 で確認してみたところ、該当箇所はこうなっていました。

Given these findings, it’s easy to assume that mindfulness has few, if any, downsides. The employers and educators who promote it certainly seem to think so. Perhaps they hope that mindfulness won’t just make people feel better, but that it will also make them be better. That is, maybe mindfulness can make people more generous, cooperative or helpful – all traits that tend to be desirable in employees or students.

Perhaps 以降が日本語記事に直接対応する箇所です。「マインドフルネスを採り入れている企業や学校は、マインドフルネスの実践によって気分が良くなるだけでなく人格も向上すればよいのだがと願っているかもしれない」という内容であり、「実践者をより良い人間に──より寛大で親切な人間にすると、多くの人が考えている」という訳は明らかに不適切です。

訳者は They hope that [NOT JUST] A, but that B. (彼らはAだけでなく、Bについても願っている)という構文が読み取れなかったのではないでしょうか。この構文におけるBは事実ではなく希望です。正しく読み取れば「人格が向上する(より良い人間になる)」というのも企業や学校の希望・願望にすぎないことがわかります。

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