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読書感想文『ピアニシモ』(辻仁成著)

今朝は金木犀の香りを探して、お散歩がてら小さな図書館へ行きました。
そこで借りた本、辻仁成さんの著書「ピアニシモ」についての感想です。
読書感想文を書くのは学校を卒業以来何十年ぶりなので、感想文になっていないかもしれないですが、笑って許してください。


『ピアニシモ』著者:辻仁成

◎イメージ先行で読んで予想を裏切られる

まず1行目を読んで予想を裏切られました。大変失礼ながら、私が想像していた辻仁成さんのイメージと違っていたからです。
恥ずかしながら小説家辻さんを意識し始めたのはつい最近のことでした。それまで名前は存じ上げていましたが、小説を読んだことはありませんでした。ふとしたきっかけで、辻さんが毎日発信している日記を読むようになってその文章と文面から滲み出る人柄に惹かれ、いまや辻さんの発信する日記を日々楽しみにするまでになりました。つまり私は、今の大人の辻さんのイメージでこの本を読み始めたのでした。

◎言葉が織りなす映像のような小説

小説の始まりは主人公トオルの目を通して語られる情景から始まるのですが、ひとつひとつの言葉の紡ぎだす情景が、映像となって目の前に広がってくるのです。最初の1行目から、景色がありありと浮かんできて、まるで今そこに自分がいるかのような錯覚さえ覚えました。
言葉のひとつひとつが印象的で、「裸の太陽」なんて表現、どうやって思いついたのだろうと感嘆するばかりでした。

◎10代の孤独と苦悩が押し寄せてくる

物語はトオルの目を通して淡々と綴られていくのですが、実は読んでいて途中少し苦しくなりました。それは決して明るい青春ものではなかったから。

父親の都合で転校を繰り返すトオルには友達もおらず、転校してきた新しい学校でもいじめにあい孤立していく。家庭は崩壊寸前で、心の拠り所はトオルにしか見えないヒカルと声しか知らない伝言ダイヤルのサキだけ。
物語の場面場面を切り取ると、とても悲惨なのですが、淡々と語られていることでどこか幻想的な印象すら受けるのです。だからこそ余計に、その苦しさや残酷さが読者にじんわりと入り込んでくるような不思議な感覚で、息苦しさを覚える事さえありました。

孤独な心の少年の苦悩と心の荒廃、そして自立への決意。
淡々と語られているからこそ、深く物語の世界に入り込んでしまったように思います。なにより物語の中で使われている言葉や表現のひとつひとつが秀逸で、その時の情景にぴったりとはまるのには驚かされました。


久しぶりに一気に読み終えた一冊となりました。
「ピアニシモ」は1989年に第13回すばる文学賞を受賞した、辻さんのデビュー作です。29歳か30歳のころの作品ですね。
もっと若いころにこの作品を読んでいたら、今とは違う感想を持ったのかもしれません。

きっと誰もが一度は通る大人への自立の道程 みちのり
読んだ後はなぜか清々しい気持ちにさえなっているピュアで不思議な本でした。この本を読んでますます辻さんのファンになってしまったのでした。


最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
読書感想文にはなっていないかもしれませんが、これを読んで『ピアニシモ』を読んでみようかなと思ってくれる人がいたらうれしいです。
明日もよい日でありますように。


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